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二藍―あいいろ―


……退屈だ。


実に。全く。



綾波と真田の話は交わる気配を微塵も見せず、(ことごと)く平行線だった。

……強気な真田と、さらに強気な綾波じゃ、まとまる話も永遠に決着がつかないだろうな。


と、俺は内心飽き飽きしながらも、綾波の隣にいた。

が、気は抜かない。




(さっきのあれで、体力の衰えなんて大して無いのが分かってるしな……)


逃げる、という選択肢が当然ヤツの中には在るんだろうが、それは俺が許せなかった。


このまま、この状況が続くかと思えたその時。


♪残酷な天使の~♪


ブチッ!


……綾波の電話が鳴った。一瞬で切れたが、ん?切ったのか?



「いや、切るなよ」


「んー?メールも来るだろうから無問題だよ」


「メール?」


「あ、やっぱり来た」



真田を警戒する素振りを見せながらも、綾波は端末を開く。カチカチ、……ピタ。


その動きが急に止まる。


次の瞬間、綾波の口がニヤリと曲がったのを俺は見逃さなかった。


「おい、綾な……」


「チェックメイト」



ポツリと。


あまりにも唐突だったため最初、俺には意味が分からなかったが。


それが今のこの状況に終止符がすでに打たれたことを示しているのに気づくのはすぐで。



交渉材料(サーバー)はもう解放されたって。……さあて真田くーん?君の頼みの綱も切れてしまったようだよ?」




「…………」



それが告げられた時、真田は身動(みじろ)ぎの一つもしなかった。



(……何だ?)


こんな、絶望的な展開でどうして真田が全く取り乱さないのかが俺には不思議だった。

今までのやり取りを見ていると、自分に対する自信をかなり持っている人間に見えたのだが。

そういうタイプこそ……、


「もっと取り乱すと思ったけど。意外に冷静だね真田」


綾波も俺と同じ考えか。



と、束の間思った。



だが。



「…………は」



それは甘く。





「ふ、かはははははははははははははははっっっ!」


「………」「!?」


突然だと流石に驚く。


(ヤケを起こしたのか……?)



その笑いの気味の悪さにたじろぎそうになるが、なんとか顔を崩さずにいられた。


だけど――



「まっさか、本当に予言通りになるとはのう」


大笑いした後の真田は今までよりも冷静に見えた。



「予言?」


「理事長は、儂が財団の制裁を恐れていると思っていたようだがの。それは――ほっほっ、残念ながら違うのじゃ」



……?


一体それってどういう……?



「……グル、か」


またポツリと呟く。


「ああ?」


未だに話が読めない状況が続く。



「やっぱり頭がよろしいですの、理事長殿」


「そりゃどうも」


話に全くついていけなかったが、ふてぶてしく返した綾波の言葉が皮肉であることぐらいは知れた。


「おい、綾波!だからそれはいったい……」


「ほっほ。こちらのお嬢さんは分かって無いようだから教えてやろうか。お前らは儂を訴え出る証拠(すべ)を失ったのよ」



「…………」


綾波は黙ったまま真田を睨み付けている。



「なに?」


俺は問う。注視と警戒を切らさずに。それに対し、真田は薄ら笑いすらも目にとれた。それが更に癪に障る。



「ほっ。儂のコンピューター、といっても学校の所有物じゃ、誰にでも扱えるよな」


「それが?」


「そんなものからの攻撃の犯人なんぞ特定出来るか?」


「そんなの!俺達が証言者に…」


「……未成年者の証言は『証言』にはならないんだよ。だから刑事で裁くには客観証拠がないと駄目」


綾波がとりもなおさず平素に告げた。


「それは本当か!?」


「うん。だから僕としては、アンダーグラウンドに決着を着ける気でいたんだけどね」



口元は冷ややかだが、発している気配が異常なほど暗く、重い。


これは……“怒り”、か?

綾波が……怒っている?

真田に?

いや、これは――――




「ほっほ。しかし残念だがその頼りの“財団”に裏切られたのではな。やはり子供に出来ることなんぞ所詮その程度よ」


俺は、耳を疑うことしか出来なかった。




「裏切り、だと?」


シズクちゃんが真偽を図りかねるような目でこっちを見てたけど、生憎ながら僕にも正直余裕がない。

目は真田から切らさず、聞きたい事を問い続ける。


「それは財団の総意?それとも僕を失脚させようとしている連中の独断?」


「ほっほ、それはどうでしょうかな。まぁ想像にお任せしようかの」


「……何分で来る?」


「およそ30分くらいでしょうな。『告発』はプログラムが破られた時点に自動で行われておりますからの」


「ちっ……」



会話をしながら、頭はフル回転させる。


――今のは本当かハッタリか?

この局面で無駄に足掻く男じゃないだろうし。



――高遠は敵か味方か?

味方、にしてもアイツは今、米国だから関係ない。


いかんせん、解決策が見つからない。内心冷や汗ダラダラのドッキドキだった。


あああ、さっきチェックメイトとか言ってて超恥ずかしい人じゃん僕!


ま、まぁ、こんな事態も想定しなかったわけじゃ…………スイマセン嘘です。




なんて馬鹿みたいに自責してると、そんな僕の顔に満足したのか真田がさらに饒舌に喋る。




「これは保険のつもりだったんだがのぉ……。まさかあの暗号化を突破されるとは思っとらんかったからな。それについては残念じゃった。まぁ、財団からの“恩賞”に期待するまでだがのぉ」


「真田、貴様っ……!」


「おっと、それ以上はよってくれるなよお嬢さん。儂も手荒な真似はしたくないからの」



ジリジリと真田は後ろに下がる。僕らからの距離は十メートルほどになっていた。


ふと時間を見る。

警備員到着(タイムリミット)まであと一時間の半分以下。

それまでにこの状況を逆転する策を見つけるしか、か?


あんまりリスキーだと楽しみづらいなぁ、なんて思う余裕もだんだん減っていって。



「綾波」


「何でしょうかねシズクちゃん。今考え中で忙しんだけど」


顎に手をあてて、考える人モードな僕。だから、ちょっと静かにしてほしい。



「失脚ってどういうことだ?」


「文字通りの意味」


そんなことを聞いて何になるんだ?、とも思いながら、シズクちゃんを一瞥もせずに答えた。



「ここはお前を財団に復帰させない為の監獄って、お前は自分で……」


「一年前(そんな昔)に言ったこと覚えてるなんて記憶力がいいねシズクちゃんは。でも今はちょっと」



黙って、と言おうと思ったのだけれど。




「茶化すな。真面目に答えろ!」




……キョトン。


びっくりして、顔をシズクちゃんに向ける。


「シズクちゃん?」


「そんな風に慌ててやがって。いつものお前らしくもない。今のお前は“つまらない”」


「!」


「貴様一人で考え込むな。俺も一緒に考えさせろ」



「………」


その気迫に気圧されて、考えていたこと、言おうとした言葉も全部真っ白になって。




そして。


真っ直ぐに僕を見つめる女王は、






「俺にも……頼れ!!」







大変男らしい言葉を僕に放ちなさった。



「……まったく。シズクちゃんはカッコいいなぁ」


「馬鹿にしてるのか?」


「いーや、何となく思っただけ。おかげで頭がスッキリしたよ。ありがとシズクちゃん」


「急に礼なんて言うな気味が悪い」


口は粗暴だけど、優しい所は優しいからねシズクちゃんは。乙女ゲーでの不良キャラみたいな立ち位置?


……って。


「シズクちゃん、足蹴るの本当に止めて地味に痛いから」



「早くしろ馬鹿。愚図は嫌いだ」



ぐああ、辛辣!

でも負けない!だって今は調子が戻ってきそうなんだからな!全盛期の~とかつきそうなレベルなんだからな!今ならフジ○マボルケーノも避けられる!!



「じゃあ、真田センセはしばらく空気でいてねー?今から絶対に逆転してやるから」


「ほっほ、やっぱり君は面白いのぉ。やってみればいいさ。出来るものならなぁ?」


「ご期待に添いますよ」



それが、デスパレートな頭脳戦第二幕の開始だった。





「…………ううぅ」


ナガル様に、言いつけられた全ての任務が完了したことを連絡して少し経ち。


(わたくし)(うな)っておりました。


と、いうのも。



「……お責めが足りない」



実に不満でございます。

これが私にとっての給金のようなものですのに!




嗚呼、嗚呼……。

久々に聞いたナガル様の罵倒!


カエデ様になじられるのもヨロシイのですが、やっぱりマンネリがどうにも……。


そんな風に日本へのホームシックを募らせておりますと。




ピピ、ピピ、ピ……。


バッ、


「はい、高遠です」




この電子音……、財団専用なので必ず3コール以内に出ます。


意味はありません。

ただ苦しいから気持ち良……、

いえ、社会人として当然のことでした。



『高遠ちゃん?』


この声は…。


「あ、はい。珍しいですね――様が連絡をくださるなんて」


日本からの電話が1日に二度来るのも珍しいのですが、この方から連絡がくるなんて。


やけに明るいその声に。何故だか嫌な予感がしたのは、



『えへへ。――ね、嬉しくて電話しちゃったんだ』



その予感が間違いではなかったのに気づく30秒前のことでした。


「そうでございますか。いったい何がおありになったのですか?」


取り敢えず話をお聞きしない限りはどうにもなりません。




『あのね……!リューくんが帰ってくることになったんだ!』




まるで、褒められるのを期待する幼稚園児のような声音で。

“彼女”――、いまや財団の全てを管理しているといっても過言でない“少女”はおっしゃられた。



「リュー…くん、と言いますと…。その帰ってくる、とは?」


いつの間にか、恐る恐る聞く“てい”になっていて。



『――――――でね』



「…………!」



『――――――なんだよ♪嬉しいのも分かるでしょ?』


「…………」





……まさか。


これは、まさか。




喉が急に干上がってしまったように動きません。


電話器を握ったまま立ち尽くしておりますと、



『あ、それと』



急に“彼女”の声のトーンが落ちなさって。


“いつもの”、冷徹な女帝の声に戻られていて。




『楓……だっけ。あの娘ね、――が決まったから』



「なっ……!」


流石の私もその言葉には、あまりの衝撃に声をあげてしまった。


『だから至急日本に帰国して…、って高遠ちゃん、聞いてるの?』


「…………いえ、すいません」



『まったく、しっかりしてよ。高遠ちゃんにはこれからはリューくんの補佐として財団(こっち)でバリバリ働いて貰うんだから。……そうね、明後日あたりに飛行機をチャーターしておくから……』



その後も言葉の羅列は続いていましたが、ほとんど耳には入っておりません。



(流星様、楓様……。大ピンチでございますよ……?)


私はただ、遠い日本のナガル様の身を、案じることしか出来ませんでした――







〈Evils come.Time is pressing litle by litle.〉


BUT...


〈Just at the time,“She”is...〉


いつの間にか前の更新から数か月が経ってる…。本格的に忘れてました。

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