Alicemajic
*
同じ階のため、1分とかからず到着した私達。
廊下にでると一階から結構大きな声が響いてきて2人でビクついたりしたけど、どうにか今は生徒会室です。
「で、どうしろと?」
とりあえずパソコンの前に座ったはいいけど、何が何だか素人にはもう、ね。
早速、というかヘルプ以外に方法はなかった。
「ナガルに繋がるのかな?」
ピッ。ピルルル、ピルルル……。
「あ、繋がった」
いったい誰が出……、
『やっと連絡が来ましたよわふーーーー!!』
…………。
無言で電話を切りそうになったけどギリギリ踏み留まった私は偉いと思う。
「あ、あのー」
『あっ、すいませんついクセでして。その、ナガル様が仰られていた協力者の方で間違いないのですよね?』
「は、はい!」
『私、ナガル様の指導役兼ナガル様の妹君の世話役をしております、高遠と申します。お見知りおきを』
「え、あ、はい」
あれ?意外と普通にまともな人?
『コンピューターに関して知識はおありですか?』
「あ、いや……ない、です」
だから普通の女子高生ですから。そんな都合の良い事はありえないって。
『そうですか……。ではかいつまんで説明させて頂きます』
と言って、電話の向こうの男性はコホンと咳払いを一つした。
『現在、我らが学園のサーバーには深刻な負荷がかかっておりまして、このままだとダウンする可能性が高いのです」
落ち着いているようで、でも実は焦っている。そんな感じの声だった。
「さらに確率は低いですが二度と使用不能になります』
「……はぁ」
そんな状況だったのか。
今更理解する私って……、とか思いながらも、ふと疑問に思ったことを口にした。
「あの、そのダウンすると何か不都合なことが?たかが高校のサーバーでそんな大事に……」
なるのか、ということを聞こうとしたのだけれど。答えは予想の斜め上を遥かに越えていった。
『30億です』
「…………………………は?」
え、ええ?今この人なんて言ったの?
「30……万円?」
『億です。“アレ”は財団の技術の粋を集めて、ナガル様の御父上様が作らせなさったものなのです』
「え、え、ええ?そんなのここで使う意味なんて……」
『はい。なので財団の一部の業務にも運用されているのです。もし使用不能に陥った場合、そこでの損失が10億』
「あ、え??じゃあ、残りの20億は?」
『これが表沙汰になれば、財団系列のセキュリティ部門の信用が失墜しますので。企業との契約を考えると少なくても20億、さらにプラスアルファ、といったところでしょうか』
「そ、そうですか……」
何だろ……その、急に規模が大きすぎて頭が追い付かないんだけど。
え、ええーーーーー?
というかええーーーーー?
と、叫びだしたい気持ちを抑えた。
私にすれば、あながち月曜日がブラッディになるのは間違いじゃないレベルの話かもなんだけど……。
『ナガル様はお金に無頓着なので軽く見ておられますが、財団にすれば状況はかなり逼迫しているんです』
「え、ええ。そこは……そうでしょうね」
ナガルのアホ!どこが簡単なミッションなのよ馬鹿!
高遠さんの手前、口には出さないけど内心は毒づき放題だった。
『はい。なので早速、私が指示をしますのでその通りに動いて頂けますか?』
「は、はい!?」
『ではまず、コンピューターの電源はついてますね?そこから……』
「ええっ、ちょっと待ってください!それって私に出来ることなんですか?」
「?、ナガル様が頼るお方なら大丈夫でしょう?さあ、行きますよ……!」
なにその変な信頼!?
「え、えええ――――??」
私の地味な戦いのスタートだった。
*
『私の方から解凍ツールを転送するのでそれを使って……』
「は、はい……」
*
『出来ればワクチンソフトを探し出せるのがベストなのですが……、無い場合はそのコンピューターを媒介に私が真田氏のコンピューターに侵入して支配権を奪取しますので』
「はい。えーと、そのデータって言うのは…?」
*
カチカチ、ポチポチ。言われた通りに動く私。うわーうわー、何か本当にミッションっぽい!
――そんな風に、指示通りカチポチしたり状況の報告をしながら一寸たって。
『そこでそのプログラムを停止して貰えますか?』
ついにラストっぽい画面です。
「はい。これを押せばいいのかな?」
カチ。
――――。
……あれ?無反応?
訝しげに見ていると、それは唐突に起こった。
急に画面が無秩序な文字の羅列に変わったのは!
「え?え?なに……これ?」
あっという間に画面は全く意味不明な状況になり。“成功”したなんて感じじゃないのは明らかで。
『どうしたんですか?セキュリティが落ちたなら直ぐに私のアドレスに……』
「あの、何か急に意味不明な文字がスクリーンいっぱいになっちゃったんですけど……」
『!!、それはまさか……!』
電話越しでも息を飲む気配を感じる。
私は次の言葉を待った。しかし、その言葉を継いだのは全く意外な――
「暗号化、みたいですね」
ミハルちゃんだった。
*
「わ、解るのミハルちゃん?」
「え?あ、はい。パソコンは結構得意で……」
『ファイアウォールの上に暗号化されたらなすすべが……』
「え、そうでしょうか?まだ方法が有るですよ?」
「え?」
いつもと変わらない口調にとぼけた所はなかった。
『聞かせてください』
「意図的にその、敵のコンピューターをウィルス感染させて……」
――私には一ミリも理解できない話が始まってた。
『しかしそれが……』
「Winnyも上手く使えば……」
???
ここにきてミハルちゃんのキャラクターが分からなくなったんだけど……?
『感服致しました。早速取り掛かって頂けますか?』
「はいです!頑張るです!」
そう言ってミハルちゃんと私は場所を交代。私は後ろに立って傍観の位置に来たのだけれど。
……ナンダコレ。
私は目を疑った。いや画面にもだけれど、それだけじゃなくて。
カタカタカタタタタタタタタタタタタタタ!!!!
「は、速っ!!」
――凄い。
あまりにも唖然としてそれしか最初は考えられなかった。
だけど、どうにか。どうにか言葉を絞り出す。
「み、ミハルちゃん?」
「はいです?何ですか先輩?」
ミハルちゃんは手を止めずにこちらを振り返った。いや、速いから。手が残像みたいだから。
「ブラインドタッチ?」
「はいです」
あっさり肯定。
「昔からちょっとかじってたんですが、今は新聞部が1人なのでよりスピードが必要になってしまいまして……こんな感じなのです」
「そう、なんだ」
と、言ってる間にも目の前で何かが組み上がってガガガっと何処かに送信されて行ってるし。
「これで完了ですね。綺羅星!」
そして謎のポーズをとるミハルちゃん。
『おお、ありがとうございます!後は私が引き継ぎますのでご心配なく。では!』
そして電話も切れた。
……どうやら上手くやっちゃったみたいな感じなのかな。
それにしてもアレって。
(謎すぎ、っていうか)
まずアレは“かじった”程度のレベルじゃ絶対無いよね?
(そうだ)
余りにも話が“出来すぎ”だ。さらにこのタイミングだし。
…………はぁ。
思い当たるのはただ1人の顔で。
ソイツが、この成功を聞いた時に浮かべるであろう“笑み”に、どうにか一撃を喰らわせたい衝動に駆られた私であった――
「あのー、水無月先輩?」
*
「へっ?あ、うん?」
おっと、拳を握ってちょっとボーッとしすぎた。
「なに?どうしたの?」
「あのですね、本当にこれでいいんでしょうか?」
「………え?」
思いもよらない問いに驚く私。それってどういう意味?
「いや、そのーあんまりにも簡単に終わり過ぎて拍子抜けしてしまったというか、何と言うか…」
「あー、そっか」
ミハルちゃんの中ではかなり話が膨らんでたもんね。まぁ30億もなかなかだと思うけど。
そんな時。ふと、私の頭の中に、ある考えが浮かんだ。
……ナガルの予想もしてないことをやってやる、か。
ここまで来たら、お膳立て通りにやるのも『つまらない』。
「ってアイツなら言うもんね」
「???」
ニコッと笑った私を見て、ミハルちゃんが?マークを浮かべたのは、仕方のないことだけど。
コソコソと、
私のアイディアを伝えた時の悪戯な笑顔は、
二人の共有のものになった――