表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

disillision


ヤツの言葉によって自分の中で激情が渦巻いて。

怒りで頭が真っ白になるというのを初めて体験して。

抑えきれなくて。

俺は叫んでいて。


……でもヤツは冷たく口元を歪めるだけで。


それを見て、


前へ、強く踏み出しそうになったが、綾波に肩を掴まれて止められた。

俺はそれが理解出来なくて、綾波を睨み付けて何事か言おうと口を開きかけた。


そこで気づく。

綾波の口が『ダイジョーブ』と動いたことに。

…………。

『ダイジョーブ』だと逆に成功率が50%以下な気もするから、『大丈夫』だったと信じたいが。


俺は綾波に手を引かれ、肩を抱かれて(!)真田に相対した。


「真田。それを押したら完全に結末(エンディング)に救いが無くなるけどいいの?」


綾波が、俺が見たことのない眼をして、“そう”聞いた。


そして答えは、


「黙れ餓鬼め。儂を侮ったからには現実を見せてやるっ!」



歯を剥くようにしてそう言い放った教頭に普段の面影は無く。

豹変に対する失望の念しか浮かばずに。


「それが貴様の答えか」


独り心地に呟いて、


拳を握りしめる。

歯を噛みしめる。


綾波に掴まれていたければ、殴りかかるのを抑えられそうになかった。それもほんの数瞬のことだったが。


「……この世の中には不条理が満ちておるのだよ」


真田の親指が、携帯電話に触れる――


「止めろっっ!!」


俺の制止はヤツには――


「あー、ちょい待ち」



「……なにかの?儂は何を言われようとコレを……」


まだ真田は余裕そうな顔だ。ああ、胸くそ悪いこと。


「カチッと押すんだろうけどそれもう良いよ。お前の意思は分かったから。だから黙って交渉につけ三下(さんした)が」


お前に前回のような慈悲はやらないから。エンディング後の裏チャプターは滅亡型だろうし。


「何を言っておるのか儂には意味が……」



「『カチッ』→『フハハハ儂に逆らった罰じゃ!』→『な、なにぃ!』……的なフラグ見え見えだから割愛しようと思って」



「なん、だと?」



おお。こんなところでそれを聞けるとは。


「ていうことで現場の水無月さーん。仕掛けの解除は終わったー?」





『……あ―、もう私、喋って良いの?』





戸惑った感じの水無月さんの声。

まぁ、回線繋ぎっぱなしで物音たてるなって指示されてれば、その反応は間違ってないね。


「なっ、綾波お前!それを早く言え!」


「怒らないでよシズクちゃん。時間稼ぎはちゃんと完遂出来たんだからそこは多目に見てよー?」


「あ、ああ…。だ、だが俺だって胆が冷えるんだぞ馬鹿野郎!」


「いたっ!だから暴力は止めて!僕、直接打撃には滅法弱いんだから!」


向こう脛を蹴るのは駄目だと思う今日この頃。

……何気に頑張ってるよね僕も。でも何で今回はこんなに余剰ダメージを喰らうのかサッパリなんですが!

と、いう心の叫びはさておいて。僕は真田の方へ向き直った。そして顔を見る。



その顔は、


羞恥からか、

怒りからか、

絶望からか、

呆れからか、

自嘲からか、


はたまた、ある種の感嘆にもにた感情からか。



“そんなような”、顔をしていた。

そして、僕はまたその方向に『笑み』を向ける。真田にとって、全くその圧迫感(プレッシャー)が前の比では無いことを自覚しながら。嗚呼、ようやく愉しくなれるかもね。



「さーなーだくん。交渉にカードが一つで十分なのは僕も同感だよ」


さて、交渉に入ろうか。


「でもそれ1つじゃこのカネには見合わないと思わない?」


「あ、阿呆が。コレを失えば損失は、それこそ億を超えるのだぞ?どうして儂が折れねば……」


「でもその場合、お前を守るモノは無くなるし。その後の財団の処罰の“怖さ”、知らないお前でもないでしょ?」


「だが……」


納得はしていない。だが揺れている――

情報なんて、取り返しの効くものが交渉物なら僕も気にせず“戦える”。


これが作戦2。

まぁ。これも時間稼ぎと保険、っていう扱いになるんだけどね。


(さあ、頑張ってくれるかな?ミハルちゃん?)







時は少しさかのぼって。



――眠い、です。


肩を揺さぶられて起きたとき、頭に浮かんでいたのはそんなことでした。


「……ん。……ちゃん。…ルちゃん!ミハルちゃん!」


誰かに呼ばれて、るです?


「……んにゅ……。まだ寝かせてくださいです……」


「あっ!!ミハルちゃん!お願いだから起きて!」


女のヒトのこえ?


「おかあさん、ですか?」



「は?あ、もしかして寝ぼけてる?」


「うー、復活の呪文は暗記してないですよ?」


「はい?」


「あそこにスクープが舞ってるです!」


「……完全に寝ぼけてるわね」




…………。


こんなやり取りが一寸(ちょっと)続いて。ようやくフワフワした状態からまともになって来たけど。


――無事で良かった、と心から思う。

ここに来た時、聞いていた『仕掛け』――吊り下げられた何か(中に液体入り)、繋がった携帯電話、そばに眠るミハルちゃん――、を見たときをは心臓が止まるかと思ったけど。


(本当に大丈夫で良かった……)


と、思っていたの束の間。


「新聞王に、ボクはなるんです……ふふ、にゃふふ……」


この場にナガルが居なくて良かった、と私は思った。


(『寝惚けた後輩の女の子』なんて……言葉にしただけでも危ないもの!)


同性の私から見ても今のミハルちゃんは『ヤバい』です。


 

(うーん……やっぱりナガルもこういう『可愛いらしい』子が好きなの、かな?)


ナガルは何かみょーにミハルちゃんに対して優しい気がする。私に対しては結構雑なのに。


(っ!いやいやそんなことは今は関係ないし!!)


ああでも、会長とは長い付き合いなんだ、って雰囲気バリバリだし。割って入るにはかなりハードルが高いし。


(いやいやだからそれは関係ないんだから!ああもう、考えるな)


何だかよくわからない考えを抱きながらも介抱をする私。

例の液体入りガラス器具?は遠くに撤去して、ミハルちゃんを近くにあった椅子(ゆったり型)に座らせた。

ここは数学教員用の準備室だから、多分真田先生の椅子だけどそんなことは今更気にしてられない。

すると、その衝撃が分かったのかパチリと、その目が開いた。


「あ、……起きた?」


「……うに。はい、イクラです」


「ぶっっ!」


思わず吹き出してしまった……。

小さな妹がいる人の気持ちってこんな感じなのかな、って一人っ子の私は思ったりして。

何となく髪を撫でると、サラサラと指通って凄く気持ち良かった。


あれ?和んでる暇なんてあったっけ?


「……水無月、先輩?」


と、タイミングよく今度ははっきりとした声。


「ミハルちゃん。痛いところはない?目眩とか気持ち悪さとかそういうのも大丈夫?」


「あ……、はいです。まだ少し眠いですけど」


「そっか。私のせいでこんなことになったんだし、謝らないと駄目よね」


ごめんなさい、と頭を下げる。すると、


「え?何のことです?」


…………。


もしかして。


「どうしてここに居るのか覚えてないの?」


「はい、です?……あれ?ボク、さっきまで生徒会室にいた気が……あれあれ?」


覚えてない、のかな?

それはそれで良かったのかもしれない。もしも、恐怖感とかが残ったら大変だし。


「だったらいいの。私達は後は時間が来るまで待つだけだし」


「時間、ってなんですか?」


「あ、うん。それは……」


ピロリロリン♪


「あ、このタイミングなのね…」


ピッ、と携帯を見るとナガルからの指示(メール)


「なになに……『これから掛かってくる電話を繋ぎっぱなしにしておいて。音は立てないように』、か。……なんだそれ?」


「あ、あのこれは一体?」


そっか。不安そうな顔になるミハルちゃんを見て思った。

起きた途端に目の前でこんな風にされたら、ミハルちゃんが戸惑うのも仕方ないものね。

うーん、じゃあ何て言って誤魔化せば?


「水無月先輩?」


「あーうん、その……あ!」


その時の閃きは思い返してみてもあまりにお粗末で。


「ゲ、ゲームみたいなことなの。何かナガルが仕掛けてたみたいな!うんドッキリ!」



うう……、何で私がこんな苦しい言い訳を!


「ゲーム、なのですか?」


「そ、そう。今はそれで戦ってる最中、みたいな?」


「そうですか……」


キ、キツい…。大丈夫かなこんな言い訳で?流石のミハルちゃんでもこの不自然さには……。


「楽しそうですね!ボクもゲーム好きなんです!」


ゴンっ!


「???、どうしたんですか壁に頭をぶつけて?」


「いや、ナガルといると個性に溢れた人にしか会わないなって」


はぁ。

何はともあれ何とかなった、のかな?ホッと息を吐くと、ちょうどその時にまた電話が鳴った。


ポチ。


『ザザ……のか……が…た……』


繋がった、のかな?何か喋り声が聞こえるけど断片しか聞こえない。一体ナガルは何を……?


『これが全ての証拠ぜよ!』


「っ!?」


と、思ったら急に聞こえてビックリして。ついでに悲鳴を出しそうになってしまった。

物音をたてないっていうのも結構大変かも。


(うわ、しかも本当にやらされてるし……)


あの“指示”メール……、完全に悪ふざけでしょ。

それでもやってくれる会長を、何だかある意味見直してしまった。



それからも断片的な音は続き。


『っ、真田ぁっ!!』

『ガタンっっ!』

『綾波!ケースを!!』


(ええ!?なになに一体どうなったの!?)


『……一生残るような傷が残るだろうよ』


(っ、サイテー……)


『止めろっっ!!』


(きゃあ!!会長カッコいい!)


以下略。



そんな感じで、聞き役に徹していた私。

だから急にナガルに話を振られた時にはもう、心臓がドキーンとなって何だか本当に大変だった……。





「そして今に至る、のかな?」


「ボクに言われましても……」


ナガルからは、電話が切れると同時に二通目のメールが来ていた。


内容を読む。


…………。

そしてしばし言葉を失う。

いや、理解出来る内容ではあるわけだけど。会長みたいにアホな指示なわけでもないし。だけど――


(『生徒会室のパソコンからサーバーの支配権を奪取せよ』、って)


どこの高校生ならそんな芸当が出来るの?


「私達を何者だと思ってるのよ。ただの女子高生だっていうのに……」


「どうしたんですか水無月先輩?」


「あ、ミハルちゃん。それが……」


かくかくしかじか。かいつまんで説明すると、


「えーと……、それがこのゲームの最後のミッションなのですか?」


「あ、うん。多分」


するとこの子の反応はというと、


「それは………燃えますね」


「燃えるの!?」


「これはやはりアレです?失敗すると月曜日がブラッティになったり、世界が友○党に支配されたりする感じですか?」


「え……?あ、そうかもね」


「それならやっぱり燃えるです!七不思議も大事ですが、ここは頑張ってミッションをクリアしましょう水無月先輩!」


「あ、う、うん」


眠そうな様子は何処へやら。ミハルちゃんにあのハイテンションが戻って来ていた。


私はもう一度メールの全文を見直す。

『ラストミッション~生徒会室のパソコンからサーバーの支配権を奪取せよ~ PS.ヘルプの場合は下記番号まで。080-***-****』


(……まあ、やるだけやってみるか。一応助けはあるみたいだし)


ということでそそくさと生徒会室に移動です。

バトル中です。あと2、3話は続くのかな。サクサク更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ