雨のち晴れ
*
「…………」「…………」
沈黙が――痛い。カツカツ……、と廊下に二人分の足音だけが響く。
やけくそになって出てきたものの。
(この展開は予想外よ……)
午後9時近くの今。何故か私は前を黙々と進む会長の背を追いかけて、早足で進んでいた。
………
……
…
そんなに距離が有るわけでもなくすぐに“理科室”の前へ。
「…………」
ガラッ、と扉を(会長が)開ける。そこで会長が急にこちらを振り返った。
「水無月茜」
そして唐突に名前を呼ばれる。
「はっ、はい!」
ええ!?何?
「帰りたいならここで帰れ。後はオレとアイツが何とかする」
「え!?」
なにそれ。ナンダソレ?
それって……、私は要らないってこと?
何事か口を開こうとした時には、もう会長は部屋の方を向き直っていた。そのまま彼女は部屋を物色して始まっている。
…………。
しばらく呆然と突っ立っていたが、忙しなく動くその背中を見ていて、自然と言葉が沸き上がってきた。
「私も、行きます」
ピタッ、と会長の動きが止まった。そしてまた目と目が合う。
そしてあっ、と気づいた。その目が生徒会室で最後に見た“目”と同じだったことに。
「無理はするな。これは貴様の問題ではない。“学園の責任者”とオレで片をつければ済む話だ」
「っ、それは……!」
そうだ。
そうなのだ。
そうだけれど、
『それでも』と、
そう言いたかった。
「ミハルちゃんを一人にしちゃったのは私の責任だし!それに――わ、私だってナガルの役に立ちたい!」
気づくと、思ったことが勝手に口から出ていて。
すると、それを聞いた会長の眉間がさらに険しくなって。
「やはり貴様も助けられたクチか」
「“も”?」
「……どこぞのカミジョー病は貴様も同じだろうが馬鹿め」
???、会長がナガルみたいなことを呟いてる。
「あ、あの~会長?」
「水無月」
「は、はい!」
また急に名前を呼ばれた!?
「……貴様も使えそうなものを探してくれ」
「え?……あ、う、うん」
おお、おおお?これは――認められたの?
よくわかんないから、確認しようと会長に話かけようとした時、携帯電話が鳴った。
私の。
会長からの冷ややかな視線を一身に受けながらメールを開くと、なんと送り主はナガル(初メールがコレ…)だった。急いで開くと、そこには何やら箇条書きの文が。どうやら指示みたいだけど……。
「ん、どうした?」
「あ、うん。そのー…」
メールの内容を会長に伝える。
すると、会長はバッ、と自分の携帯を取り出して物凄い勢いで番号を押し始めた。
はっきり言って怖い。その鬼気迫る顔の迫力がヤバかった。
ピルルルル…という電子音の後、
「はい、綾な……」
「これはどういう了見だこの野郎!」
キーン……。
ナガルが答える前にものすごい声量で怒鳴る会長は普段の冷徹さからは程遠くて。
「し、シズクちゃーん?クールビューティー忘れてるよー?」
「知るかこの馬鹿!貴様、こんなときにまで趣味を出すんじゃない!」
そう……なのだ。この指示というのがあまりにも……
「僕は大真面目だよ?」
「お前が良くてもオレは……」
「タイミングは今しかないよ?ほら、こういう時よく言うじゃん。『エンディングが見えた!!』って」
「貴様が最近神のみにハマってるのはわかるが、この“プラン”はどう考えても…」
「教頭を揺さぶって、ミハルちゃんを見つける時間を稼ぐにはコレしかないんだよ。シズクが頼りなんだ!」
今度は会長のスピーカーが『キーン』となる番だった。
…………。
息を吸って、吐き出すくらいの沈黙があって、
呆れたような声で会長が呟く。
「……ズルいな貴様は」
「へ?何が?」
「俺もそちらにすぐ向かう。本当に上手く行くんだろうな?」
「そりゃ大丈夫でしょ!何たって魔王(Satan)と女王(Sizuku)の共同戦線だもん」
「……ふ、そうだな」
「略するとSSSになるし」
「それが言いたかっただけだろ馬鹿」
……そんな会話を横で呑気に聞く私。もの凄いアウェー感です。助けて九十九さーん!と叫びたくなったのは許される?
しかしこの二人。本当に息が合ってるなぁ……。
ある意味達観したような会長の横顔を見ながら、そこに一年という歳月の深さを感じてしまった。
随分と話には取り残されたしね。
「んー、ゴホンゴホン」
わざとらしく会長の後ろで咳払いをしてみた。
「!!、じゃ、じゃあ五分でそっちに行くから!それでいいんだろ!?……じゃあ後でな」
プツン。
かなり古典的だけど上手く話は終わったようだ。
はは…、と苦い笑いが出そうになったけど我慢。今は綾波の言うところのシリアスパートだもの。
――Opening of finale――
*
「さて、時間か……」
待ち受け画面の時計を確認し、独り心地に呟く。片手に携帯を、片手にアタッシュケースの用意をしてようやく十分。
あとは――
♪一万年と二千年前……♪
ブチッ。
これもヤバいな。ていうか主人公なのに電話ばっかりじゃね?とか、思いながら電話にでる。
「はい、こちら綾波……」
「ナガル様!これはいったいどういうことですか!」
「ちっ、高遠か」
電話の相手は高遠――今はカエデに付き従って執事のような真似をしている。
そいつがなぜ僕に電話をかけて来るのか。少し考えればわかる。
……カエデのヤツ、やっぱり面倒くさがって高遠に仕事丸投げしたな。
「その冷たい反応……ああやっぱりナガル様……!「で。どうしたの?」」
ああもう、早く用件を言え!という意味を大いに込めて話を打ちきる。
「あああ、そうです!どうしたもこうしたも無いのです!サーバーは乗っ取られているわ、私のパソコンはウィルス改変されているわでもう滅茶苦茶ですよ!?」
おーおー叫ぶね。今日で鼓膜の疲労がなかなか溜まったよ気がする……。
しかしそうか。
「と、するとあのデータの価値は倍増か」
「は?データ?」
「うん。それが分かれば無問題だからもう切るね?」
「あ、待ってください!カエデ様より依頼された人物調査も終わりましたよ?」
相変わらず早いな。パソコンが死んでるのにどうやって仕事をしたの?という質問はこの際するまい。
「仕事は出来るんだよね。中身が残念なだけで」
それでも何か物申したくなってつい呟いてしまう。
「そ、そんな!良いでは無いですか!」
気が滅入るだけなのに。
「ちょっとぐらい虐められるのが好きなくらい!」
「切る(KILL)ね☆」
「ああ!その冷たい言葉が好…」
ブチィィィッッ!
はぁぁぁぁぁ……。
大きく大きく、これまでにないほどに息を吐いた。
ああ、くそ。何でこう、僕の周りにはキャラが濃い人間が多いんだろう?(※綾波が一番濃いからです)
僕はこんなにも普通に“愉しく”生きてるだけなのに(※綾波の辞書に“普通”という言葉はないです)
そこんところは吉良吉○的な感じなんですよ。杜王町にはあんまり住みたくないけど。
はぁ、とまた嘆息しながらも僕は決戦場へと赴くのであった…。




