Mission possible ~but difficult task~
ハルヒの短編のタイトルからサブタイトルをつけてたけど尽きたので某泣きゲーのBGMからタイトル借用。意味は特にありません。久々にやったら徹夜でオーラスまで突き進んで号泣したとかそういうことでは断じてありません。きょうすけぇーっ!!って一人で叫んだけど関係ありません。
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「あ、そうだ。この件について生徒会の何人くらいが知ってるの?」
「……俺と副会長だけだ」
「副会長?あの女装が似合いそうな?」
じょ……女装?
「お前は普段人をどんな風に見てるんだ……?」
「それと、その紙はこれ一枚だけ?」
聞いちゃいねぇし……。
「それはコピーだ。原本は生徒会室に置いてある」
「へぇ……」
そう言って綾波は何かを考える素振りを見せて、よくわからないことを呟いてきた。
「その原本を偶然見ちゃった誰かがさらに偶然犯人がそこに来て鉢合わせをしちゃって薬を嗅がされて口封じに連れ去られたみたいな事件は起こってないよね?」
………………。
「……まさか。漫画じゃあるまいし」
突然何を言い出すんだコイツは?そんな話普通はあるはずが無いだろうに。
「そんな都合の良いような悪いようなヤツ居るのか?」
「……さぁ。何となくそんな気がしたんだよね」
珍しく歯切れの悪い綾波の言葉。またいつもの妄言だと思って俺はそれを頭の隅に追いやってしまった。
それも、また一つの、俺の選択。
「それより犯人に目星は付いているんだろうな」
そう。これを聞かなければ意味がない。この事件を起こした犯人を、コイツは――
「知ってるよ。たぶんシズクちゃんも、ね」
「それは誰だ」
俺が聞くと、綾波はニヤリと“愉しそう”な顔をする。……そして答えた。
「大して重要なキャラじゃないんだけど今日微妙にチラッと出てきて何か変な印象を残していった人、かな」
…………。
もう一発殴っていいだろうかコイツは?
「ハッキリ言え」
「ん?だって大体の人は分かるよコレで。というかもう察しがついてた人もいるんじゃない?」
「だからそれは一体……」
誰なんだ、という後の言葉は呑み込んだ。
それは俺の目の前に何かの『名簿』が突きつけられたからだ。
電子端末に羅列された名前には、……俺の見覚えのある名前がちらほらと見える。
「これは……」
俺が綾波を見ると、ヤツはコクりと頷いて、
「うん。これはこの学園にいる、綾波財団に所属する『社員』兼『教師』の名簿だよ」
社員、兼、教師?
「……公務員の兼業は禁止じゃないのか?」
「うーん、私立学校法人だから何とかなってんじゃない?ほら、某北海道の学園でも『企業』の『スタッフ』が教師として入り込んでたし」
「おい理事長」
良いのかそれで?
「しかし、何故社員を教師としてここに送り込む必要がある?……まさかお前の“監視”の為か?」
訝しげに呟くと、綾波は大きくかぶりをふって否定した。
「まさか!僕が理事長になったのなんて最近だよ?……彼らはもっと前から居たんだよ。僕の父様がここの理事長だった頃からね」
「……貴様の、父親?」
初耳だ。そういえばコイツから家族の話を聞いたことはなかった気がする。俺からもそういう話はしないからな。話といえば仕事だとか、綾波の好きな漫画がどうだ、とかそんなものばかりだった。
ふ、と軽く顔を歪める。
……肝心な事は、まだまだ、か。
「それで?」
俺は先を促した。
「んーと…あ、そうそう。その社員ってのは僕の父様の補佐の為に居たんだよね。と言っても仕事の殆ど全部をその人達にやって貰ってたらしいけど」
それを聞いて、だんだん理解が追い付いてきた。
その犯人の正体に。
「じゃあ、この名簿にある教師は……」
「かなり深く学園経営に関わってた、ってこと。――――自由に資金口座を操作出来るくらいにね」
学園を切り盛りするうちに見つけてしまった死角を、その教師は――
「複数犯か?」
そう聞くと、また綾波はかぶりを振る。
「いや多分一人だよ。それほど労力のいる事でもないし、単独の方が秘匿性が高いから。……多分そこまで考えてやってると思うよ」
そう言った綾波の顔は、何処か辛そうだった。
「綾波……」
そうか。良くも悪くも財団の関係者が犯人なら、その気持ちも……。
「だってこれだけのお金があれば漫画喫茶がたてられるよ!?ローゼンメイデン伯爵には無理だったけど」
「……そんなことだろうと思ったがな。国営漫画喫茶は流石に駄目だと思うぞ俺は」
ああくそ。綾波に対する基本的な対処法を忘れてた。
“コイツとまともに取り合うと疲れる”ってことを。
「はぁ。俺も疲れた」
ドサッ、と座る。
……綾波の隣に。
「あ、あの~…雫さま?」
探るような目でこちらを見てくる綾波。怯えているようにも見えるのは錯覚であって欲しいんだが。
また嘆息が出そうになるのを抑えて、俺は少しばかりの勇気を出した。
「良かった」
ポツリと、あいつに届くように呟く。
「お前を失うかと思った」
俺が呟くと、――何故か綾波は顔を赤くする。
???
「ん、どうした?」
訳がわからずそれを聞くと、
「いや、雫ちゃんも大概無自覚に凄いことを言うから……」
……無自覚でもないんだがな。
「忘れろ、とは言わないぞ」
「へ?」
「たまには正直な気持ちを言ってみようと思ってな」
「そ、そっか……」
…………。
そうして言葉が途切れた。妙な雰囲気のまま沈黙が降りる。
と。
「あの」「おい」
…………。
変に言葉が被ってさらに変な空気が深まった。
「ちっ――――何だ。気になるから言え」
オレがその空気に耐えられなくなって(暑くもないに変な汗をかいてきたし)綾波をせっつくと、言いづらそうに一言。
「正直ついでに笑顔とか見せてくれたりはないの?」
「……っ。調子に乗るな」
ちょっと内心動揺して蹴り飛ばしてしまった。
「ひでぶっ!!!」
隣の丸椅子(学校の実験室とかによくあるヤツ)が派手な音をたてて転がっていったのが見えたが気にしない。
…………。
笑顔、か。
口角を上げ、表情筋を動かす。
それだけの、そんな活動。
「……笑ったほうが、いい、のか?」
そう聞くと、ゴロゴロ転がってしばらく動かなかった綾波が、「寝不足だって分かってんだったら手加減してよ…」とか言いながらものっそりと復活して隣に座った。
いやお前は年の半分くらいは寝不足だろ、という言葉はつぐんでおいたのだが、
「良いと思うよ。あー…、あれだギャップ萌え?」
返って来たのはまた妄言。
「……聞いたオレが馬鹿だった。それより黙ってろ、今顔の筋肉を動かすことに集中している」
く……、む……、キツイ……。
「え……?そのひきつけを起こしたラフレシアみたいな顔がまさか笑顔とか言っちゃう感じ……」
「ラっ…!言うに事欠いて人ですら無いのか……?」
俺だってそんなことを言われると普通に傷つくんだけが……。
「……いや、鉄仮面って意味もあるけど」
「ん?」
「いや気にしないで。ただのツイートだから」
よくわからんが、それはそれでショックだぞ?
何となく“しゅん”としていると、綾波がニヤニヤした顔でこちらを見ていた。
「……何だ?」
仏頂面のままに聞くと、
「いやあ、シズクちゃんも随分柔らかくなったな~、って。何となくそう思ったんだけど」
「俺だって少しは努力してるんだ」
「努力?それってどんな?」
「…………ちっ」
それを聞くか?と、思いながらも聞かれた事には答えよう。
「授業中の笑いのポイントとかで笑おうとしたり」
「どうせさっきのハ○マ=ハンマが出現したんでしょ?」
「歓談している連中の話を聞いて話術の勉強をしようとしたり」
「どうせ生徒会の素行調査だと思われて逃げられたんでしょ?」
「生徒会でちょっと冗談を言ってみたり」
「どうせ冗談を理解して貰えなくて大火傷したんでしょ?」
「……見てたのか?」
おかしい。殆ど当たりなんだが。
「大体は予想がつくよ。シズクちゃんも大概不器用だもの」
「お前に言われたくはないな」
「あー……、確かにそれは同感かも」
…………。
「……ぷっ」「……ふん」
また二人で顔を見合わせてしまった。そして漏れる“俺の中での”自然な『笑い』。
ああ、これだ。俺が失いたくなかったモノは。目の前には綾波の顔。一年前と、変わらない。
――――――っ!!
「ナガ……!」
――自分でも何を言おうとしたのかは分からなかった。
ただ、心の動くままに声が口をついて出ていこうとしていた。
そんな時、幸か不幸か運命のカミサマは気まぐれで。
ガラッ!
「ナガルっ!!どうしようミハルちゃんがいなくなっちゃっ……」
『て』。
いきなり室内に入ってきた女は、その口の形のまま固まっていた。
クライマックスまではあと少し、なのかな。もう少し続きます!