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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ポッキンアイスの話

作者: あおたん
掲載日:2026/05/10

小さい頃、私の家ではよく、ポッキンアイスを食べていた。真ん中がくびれていて、端っこと端っこを持って折り曲げて、ポキッとして食べるあれだ。


端が円い方がわたしで、尖っている方が兄。朝になると、冷え冷えのアイスを兄がボキッて折って渡してくれる。私はゆっくり、ゆっくり。甘いアイスを味わって食べた。


兄は反対にガリガリ、バリバリ、むしゃむしゃと。3口で食べた。左の頬に、右の頬に、真ん中に。兄はアイスを突っ込んで、顔をギュっと顰める。

冷たくて、頭がキーンと痛んだ時みたいな顔になる。


私はいつも不思議だった。そんなに痛いなら、キーンってするなら、ぺろぺろ舐めながら食べればいいのに。3口で、なんて贅沢言わずにペロペロ食べればいいのにって。


せっかくのアイスが勿体ない。ゆっくり、ゆっくり食べないと,勿体ないお化けが出てきて食べられてしまうかもしれないし。

勿体ないお化けが出てきたらきっと言うんだろう。


「お前、食べ物を粗末にして!穀潰しの餓鬼が!」


だなんて声を上げて、血走った眼で兄を睨むんだろう。それで、兄もアイスも一緒に食べられてしまう。ガリガリ、バリバリ、むしゃむしゃと。

勿体ないお化けに3口で食べられてしまっても困る。


兄がアイスを突っ込んでキーンってやっている所を見てから、私はポキッて折られた円い方を見た。持っている手が冷たくて、お腹がグーっと鳴る気がした。

それでやっぱり私は、ペロペロ食べた。ゆっくり、ゆっくり時間をかけて。今日もまた、学校でお腹が鳴ってしまっても困る訳だし。


勿体ないと言えば、給食だ。グリンピースに、牛乳に、シイタケに、ピーナッツ和え。


「青臭い」「まずい」「ぐにょぐにょする」「変な味」


みんなそう言ってお皿の端っこに集めると、お話に夢中になる。お母さんが焼いてくれたクッキーの話とか、お父さんが買ってきてくれた焼き鳥の話とかに夢中になる。


黒板の隣に書かれている「好き嫌いはしないクラス」だなんて4年2組のクラス目標と一緒で、グリーンピースはみんなに忘れられて干からびていく。


私はやっぱり、勿体ないから全部食べた。先生に聞いて、みんなが残したやつも貰った。お家に帰ってお腹がグーって鳴ってしまっても困る訳だし。

干からびたグリーンピースがぶちぶち弾けて、ピーナッツが歯に挟まる。それを牛乳で流し込んだ。


帰ったらまた、ポッキンアイスが待っているんだと思うと、学校も苦じゃなかった。

黄色に青に紫に、冷蔵庫の中はいつだって沢山の色で満ちている。お母さんはたくさん、アイスを買ってきてくれた。お兄ちゃんと半分こをしなさいって言われて、兄がポキッて割ってくれる。兄はまた、バクバクと3口で食べて、顔を顰める。


お母さんはよく、お客さんから貰ったんだという、高そうなアイスを食べた。黄色でも、青でも、紫でもない、白いアイス。兄が食べたら5口で終わってしまいそうな小さなカップのアイス。


一個200円もするんだと、働いている人の特権だと、お母さんは言っていた。

白くて、小さくて、色が濃い。スプーンがスルッと入っていくそれを、兄はじっと見つめていた。お母さんにバレないようにじっと見つめていた。その顔はアイスで頭がキーンとなった時のように歪んでいた。


わたしは馬鹿だなぁと思った。そうやって見つめて、お腹がなったら困る訳だし。と、そう思っていた。




大人になった私は今、1個200円のあの小さいアイスを食べている。毎日、食べている。

ポッキンアイスはもう食べていない。働くようになったから、ではなくて、単純に尖がった方を食べる人がいないからだ。

ポッキンアイスだったらば月300円で済むのに、200円のアイスだから月6000円だ。だから、私のお財布はアイスの冷たさで冷え冷えになってしまった。それもこれも、尖った方を食べてくれる兄がいないせいなのかもしれない。


ポッキンアイスを一緒に食べる兄はいつしか尖っている方も食べるようになった。非常に困ったものだ。丸い方も尖った方もバクバク食べて、6口で終わった。200円のアイスは5口だから1口分得したことになる。でも私に3口借金しているのだ。


その3口の借金も返さないまま兄は私が中学に上がる前に私の前からいなくなった。ついでにお母さんも居なくなった。

3口の取り立てにでも行こうかと思ったけれど、それは職員さんに止められた。

5年生に上がる前に先生に連れて行かれた白い部屋の職員さんに止められた。止められて、それでどうしてか200円のアイスを一緒に食べさせてもらった。


働いていないはずの私は、あの時、200円の美味しさを知ったのだ。あの一口は3口の借金なんて帳消しにしてしまえるものだった。

職員さんは、私の頭に手を乗せて、にっこり微笑んだ。微笑んで、それで話始めた。


「もう安心して」とか。

「あなたは悪くない」とか。

「もう怖いことはしないよ」とか。


そして職員さんは私に尋ねた。何を聞かれたかは覚えていない。


私は渋々200円のアイスを食べる手を緩めて、3口の借金なんて気にしてないよと伝えた。職員さんが気にすることでも無い訳だし。3口の借金は私と兄の問題な訳だし。


200円のアイスをもう一口。スプーンの上の濃い白色とペロペロ舐めると、職員さんは顔を歪ませた。


ポッキンアイスを3口で食べていないはずなのに。キーンと痛んだ時の顔をしていた。

お読みいただきありがとうございます。感想や評価いただけると幸いです。

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