第七話 大会への準備
第七話です。
今回は大会に向けた準備回になります。
駿府スピリッツのメンバーそれぞれのマシンが、少しずつ形になっていきます。
ミニ四駆は、走らせる前の「考える時間」も楽しいものです。
そんな空気を少しでも感じてもらえたら嬉しいです。
模型店の奥には、小さな作業スペースがあった。
古い木の机。
壁には工具が並び、引き出しには小さなネジやパーツがぎっしり詰まっている。
窓から差し込む午後の光の中で、少年たちは自分のマシンを机の上に並べていた。
プラスチックのボディ。
細いシャフト。
小さなローラー。
どれもまだ完成にはほど遠い。
それでも少年たちの目は真剣だった。
「大会かぁ……」
黄色いマシンの少年がつぶやく。
「出たことない」
別の少年も言う。
「俺も」
私は作業台に手をつきながら言った。
「大丈夫」
「ミニ四駆の大会ってね」
少年たちがこちらを見る。
「速いだけじゃ勝てない」
私はコースの方を指差した。
「安定」
「それが一番大事」
少年がマシンを持ち上げる。
「じゃあ、俺のこれ」
「どうすればいい?」
私はマシンを受け取る。
タイヤを指で回す。
少しだけ揺れる。
「まず」
私は言った。
「タイヤ」
少年が首をかしげる。
「タイヤ?」
「うん」
私はマシンを机の上に置く。
「これ、少し歪んでる」
少年が驚く。
「え、そんなのわかるの?」
私は笑う。
「ミニ四駆ガチ勢だからね」
店長が奥で小さく笑った。
「ガチ勢ねえ」
私は続ける。
「タイヤが歪むと」
「真っすぐ走らない」
「だから」
私は工具を手に取った。
「まずはここから」
ネジをゆっくり外す。
小さなパーツが机の上に並ぶ。
少年たちは息を止めるように見ていた。
「ミニ四駆ってね」
私は静かに言った。
「急ぐと失敗する」
祖父の声が頭の中によみがえる。
「人の一生は、重荷を負うて遠き道を行くが如し」
私は小さく笑った。
「だから」
「ゆっくりやる」
少年がつぶやく。
「家康?」
私はうなずく。
「そう」
作業が終わる。
マシンを少年に渡す。
「回してみて」
少年はタイヤを回した。
「おお」
さっきより滑らかに回る。
「すげえ」
別の少年も言う。
「俺のも見て」
私は次のマシンを手に取る。
青いボディ。
軽すぎる。
「これ」
私は言った。
「軽くしすぎ」
少年が苦笑する。
「やっぱり?」
「うん」
私は指でマシンを軽く叩く。
「強度が足りない」
「ジャンプで壊れる」
少年は頭をかいた。
「大会前に壊れたら終わりか」
私はうなずく。
「そう」
そのときだった。
カラン。
店のベルが鳴る。
少年たちが振り向く。
入口に立っていたのは――
健太だった。
腕を組み、こちらを見ている。
「準備してんの?」
私は答える。
「してる」
健太は店の中を見回した。
机の上のマシン。
真剣な顔の少年たち。
そして私。
健太は少しだけ笑った。
「へえ」
「ちゃんとやってんじゃん」
私は言った。
「大会なんでしょ」
健太はうなずく。
「日曜」
「清水」
少年たちがざわつく。
「清水の店って」
「強いとこじゃん」
健太は笑った。
「そうだよ」
そして言った。
「だから面白い」
私は腕を組んだ。
確かに。
強い相手がいるほうが楽しい。
私は少年たちを見る。
「どうする?」
少年たちは顔を見合わせた。
そして。
「出る!」
声が重なった。
私は少しだけ笑った。
平成のミニ四駆ブーム。
駿府スピリッツ。
そして。
私たちの最初の大会が、いよいよ近づいていた。
第七話を読んでいただきありがとうございます。
大会に向けた準備が始まりました。
次回はいよいよ大会直前、そして清水の強豪チームが登場します。
駿府スピリッツがどこまで通用するのか。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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次話もぜひ読んでいただけたら嬉しいです。




