第五話 チーム結成
第五話です。
健太とのレースのあと、少年たちの気持ちに少しずつ変化が生まれていきます。
今回は、世那と少年たちが本格的にチームとして動き始める回です。
ミニ四駆は一人でも楽しめますが、仲間と一緒だともっと面白くなる。
そんな雰囲気を書けたらと思っています。
「……もう一回やる」
健太はそう言ったが、結局その日はそれ以上レースをしなかった。
黙ったままマシンを持って店を出ていった。
模型店の中には、少しだけ気まずい空気が残る。
少年の一人がぽつりと言った。
「……勝った」
もう一人が言う。
「健太に勝った」
そして。
「うおおおおお!!」
突然、みんなが騒ぎ出した。
「マジで勝った!!」
「すげえ!!」
「初めて見た!」
私は少し苦笑した。
「そんなにすごい?」
少年が言う。
「すごいよ!」
「健太、この辺で一番速いんだぞ!」
どうやら本当に強いらしい。
私は作業台に寄りかかった。
「でも」
少年たちがこちらを見る。
「さっきのはマシンの差」
「まだ本当の勝負じゃない」
少年が言う。
「どういう意味?」
私は赤いマシンを机の上に置いた。
「このマシン」
「まだ全然完成してない」
「えっ?」
私は指でマシンを軽く叩いた。
「ローラー」
「重心」
「タイヤ」
「まだ直すところいっぱいある」
少年たちは真剣な顔で聞いている。
「ミニ四駆ってね」
私は言った。
「改造していくのが一番楽しい」
少年の一人が言う。
「……じゃあさ」
「教えてくれよ」
私は少し笑った。
「いいよ」
そのとき、店長が口を開いた。
「ただし条件がある」
少年たちが振り向く。
店長は腕を組んだままだった。
「ここでやるなら」
「ちゃんと片付けろ」
「コース壊すな」
「あと」
私を見る。
「途中で投げ出すな」
私はうなずいた。
「もちろん」
少年が言う。
「じゃあさ」
「俺たち、みんなでやろうぜ」
「チームってやつ」
別の少年も言う。
「いいな、それ」
「大会とか出たい」
私は少し驚いた。
平成のミニ四駆。
確かに大会はあった。
でも、チームという発想はまだあまり広まっていないはずだ。
少年が私を見る。
「名前どうする?」
私は腕を組んだ。
名前か。
少し考える。
そして、ふと思い出す。
祖父の書斎。
家康の木像。
そして――
静岡。
私は言った。
「駿府」
少年が首をかしげる。
「すんぷ?」
「昔、この辺の名前」
「家康がいた町」
少年たちは顔を見合わせる。
「なんか強そう」
「いいじゃん」
私は少し笑った。
「じゃあ」
「駿府スピリッツ」
少年の一人が拳を握った。
「よし!」
「俺たち駿府スピリッツだ!」
みんなが笑う。
そのときだった。
店の外から声が聞こえた。
「へえ」
低い声。
みんなが振り向く。
そこに立っていたのは――
健太だった。
腕を組んだまま、こちらを見ている。
「チーム?」
彼は少し笑った。
「面白いじゃん」
そして言った。
「じゃあ次」
「チーム対決な」
私は少しだけ笑った。
平成のミニ四駆ブーム。
少年たちの熱狂。
そして。
駿府スピリッツ。
この小さな模型店から、私たちの挑戦が始まった。
第五話を読んでいただきありがとうございます。
ついに世那たちのチーム「駿府スピリッツ」が誕生しました。
ここから本格的にチームとしてミニ四駆に取り組んでいくことになります。
次回は、チームメンバーそれぞれのマシンを改造していく回になります。
そして健太との再戦も近づいてきます。
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次話もぜひ読んでいただけたら嬉しいです。




