第四話 パワー主義のライバル
第四話です。
今回は、世那たちの前に最初のライバルが登場します。
平成のミニ四駆らしい「パワーこそ正義」のマシンとの対決が始まります。
世那のチューニングがどこまで通用するのか。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「すげえ……」
赤いミニ四駆を手にした少年が、何度もマシンを見つめていた。
「ほんとに速くなってる」
さっきまでコーナーで飛びまくっていたマシンが、今は安定して走っている。
私は肩をすくめた。
「速くなったっていうより」
「ちゃんと走れるようになっただけ」
少年たちはまだ信じられない顔をしている。
「ローラーちょっと変えただけだぞ?」
「そんなに変わるの?」
私はうなずく。
「ミニ四駆はバランスだからね」
「パワーだけじゃダメ」
そのときだった。
店の入り口のベルが鳴った。
カラン。
模型店の中に、数人の少年が入ってくる。
一番前にいたのは、背の高い少年だった。
腕を組みながら、店の奥を見回している。
「あ」
さっきの少年が小さく声を上げた。
「健太だ……」
健太。
どうやらこの辺では有名な子らしい。
健太はコースを見て、にやっと笑った。
「またやってんのか、お前ら」
「どうせコースアウトだろ?」
少年たちは少し悔しそうな顔をする。
「今日は違うよ」
「ちゃんと走るし」
健太は笑った。
「は?」
「お前らのマシンが?」
彼は赤いマシンをちらっと見た。
「そんなの無理だろ」
「遅いし」
少年は言い返す。
「遅くない!」
「さっき三周走った!」
健太は少しだけ驚いた顔をした。
「へえ」
そして私に気づく。
「……誰?」
私は軽く手を振る。
「ちょっとしたチューナー」
健太は眉をひそめた。
「女じゃん」
「ミニ四駆わかんの?」
私は答える。
「まあ、それなりに」
健太は笑った。
「じゃあ見てろよ」
彼は自分のマシンを取り出した。
青いボディのマシン。
そして一目でわかった。
パワー型。
かなり強いモーターを積んでいる。
重さなんてほとんど考えていない。
典型的な平成改造。
「これが速いってやつだよ」
健太はコースにマシンを置く。
「いけぇ!!」
スイッチが入る。
マシンが唸るような音を立てて走り出した。
「おおっ!!」
少年たちが声を上げる。
確かに速い。
ストレートはかなりのスピードだ。
しかし。
私はコーナーを見ていた。
そして――
ガンッ!!
マシンは壁にぶつかり、大きく跳ねた。
「うわっ!!」
コースアウト。
健太はマシンを拾い上げる。
「チッ」
少年たちが小さく笑う。
私は口を開いた。
「速いね」
健太は振り向く。
「だろ?」
私は続けた。
「でも」
「勝てない」
店の中が静まり返る。
健太がゆっくり私を見る。
「……は?」
私はコースを指差した。
「速いけど」
「制御できてない」
「このコースだと無理」
健太は少し怒った顔をした。
「じゃあお前やってみろよ」
「お前のマシンで」
私は肩をすくめる。
「いいよ」
少年たちがざわつく。
「マジで?」
「勝てんの?」
私は赤いマシンを手に取った。
さっき調整したマシンだ。
そしてスタート位置に置く。
健太が言う。
「一周勝負な」
「いいよ」
店長がぼそっと言った。
「面白え」
私はスイッチを入れる。
「行こうか」
マシンが走り出す。
健太の青いマシンも同時にスタートした。
ストレート。
健太のマシンが前に出る。
やっぱり速い。
でも――
私はコーナーを見ていた。
赤いマシンが滑らかに曲がる。
青いマシンが揺れる。
そして。
ガンッ!
青いマシンが壁に当たる。
赤いマシンが前に出た。
「うおおおお!!」
少年たちが叫ぶ。
そのまま一周。
ゴール。
静寂。
健太が呆然としていた。
「……なんでだ」
私はマシンを拾い上げた。
そして言った。
「急ぎすぎ」
健太が顔を上げる。
私は笑った。
「ミニ四駆も人生も」
「急ぐと負ける」
店長が小さく笑った。
「家康だな」
私はうなずく。
健太はしばらく黙っていた。
そして言った。
「……もう一回やる」
私は肩をすくめる。
「いいよ」
平成のミニ四駆ブーム。
そして。
最初のライバル。
この少年との勝負は、まだ始まったばかりだった。
第四話を読んでいただきありがとうございます。
ついに最初のライバル「健太」が登場しました。
これから世那たちのチームと健太の対決が続いていくことになります。
次回は、少年たちが本格的にチームとして動き始める回です。
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次話もぜひ読んでいただけたら嬉しいです。




