第三話 令和チューニング、はじめます
第三話です。
今回は、世那が初めて平成のミニ四駆を本格的にチューニングする回です。
令和の知識を持った主人公が、平成のミニ四駆とどう向き合うのかを描いていきます。
ミニ四駆を知らない方でも楽しめるように書いていきたいと思っています。
「重心を下げる?」
少年が首をかしげた。
私はうなずく。
「そう。ミニ四駆はね、速さだけじゃ勝てない」
模型店の作業台の上には、さっきコースアウトした赤いマシンが置かれている。
店長は腕を組んだまま、こちらを見ていた。
「続けろ」
低い声だった。
どうやら追い出されることはなさそうだ。
私は少し安心して、マシンを裏返す。
やっぱり、かなり荒い。
モーターは強い。
でも、それだけだ。
「これ、パワーモーター?」
少年が胸を張る。
「そうだよ! 速いやつ!」
私は苦笑する。
「うん、速い」
「でも」
マシンを軽く揺らした。
「暴れすぎ」
少年たちが顔を見合わせる。
「暴れる?」
「うん」
私はコースを指差した。
「さっきコーナーで飛んだでしょ」
「あれはスピードのせいじゃない」
「制御できてないから」
少年の一人が言う。
「そんなのどうやって直すんだよ」
私は少し考える。
令和なら、いくらでも方法がある。
でも、ここは平成。
パーツも限られている。
それでも――
できる。
「まず」
私は工具を手に取った。
「ローラーの位置を変える」
少年たちが身を乗り出す。
「そんなので変わるの?」
「変わるよ」
私はネジを外しながら言った。
「ミニ四駆はね」
「ちょっとしたバランスで全然違う」
店長が小さく鼻を鳴らした。
「ほう」
私はローラーを少し外側にずらす。
そしてマシンを机の上で押してみる。
「次」
私はマシンの上を軽く叩いた。
「重心」
少年が聞く。
「重心って何?」
私は笑った。
「簡単に言うと」
「重さの中心」
そしてマシンを指差す。
「これ、上に重さが集まってる」
「だからコーナーで倒れる」
少年たちは真剣な顔で聞いていた。
私はふと思い出す。
祖父の言葉。
「急ぐな」
「人の一生は、重荷を負うて遠き道を行くが如し」
私は小さくつぶやいた。
「速さばっかり求めるとね」
「足元をすくわれる」
少年が首をかしげる。
「何それ」
私は笑う。
「昔の偉い人の言葉」
店長がぼそっと言った。
「家康か」
私はうなずいた。
そしてマシンを組み直す。
「よし」
完成だ。
少年が言う。
「そんなので速くなるの?」
私はマシンを渡す。
「試してみなよ」
少年はコースのスタート位置にマシンを置いた。
他の少年たちも集まる。
「ほんとに速くなるのか?」
「どうだろ」
少年はスイッチを入れた。
「いけぇ!!」
マシンが走り出す。
コーナーに入る。
私は静かに見守った。
そして――
マシンは壁に当たらず、そのままコーナーを抜けた。
「おおっ!?」
少年たちが叫ぶ。
二周。
三周。
さっきまで何度もコースアウトしていたマシンが、安定して走っている。
「マジかよ!!」
少年は目を丸くした。
マシンを回収して、私を見る。
「なんで!?」
私は笑った。
「制御したから」
「速いだけじゃ勝てない」
「ちゃんと走れるマシンが、一番速い」
少年たちはマシンと私を交互に見た。
「……すげえ」
ぽつりと誰かが言った。
私は腕を組む。
そして言った。
「どう?」
「教育的指導、受けてみる?」
少年たちは顔を見合わせる。
そして一人が言った。
「……教えてくれ」
私は少しだけ笑った。
平成のミニ四駆ブーム。
その中心で。
私のチーム作りが、静かに始まった。
第三話を読んでいただきありがとうございます。
今回は世那の最初のチューニング回でした。
ここから少年たちとの関係が少しずつ深まっていきます。
次回は、世那が少年たちのマシンを本格的に改造し、初めてのレースに挑む回になります。
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次話もぜひ読んでいただけたら嬉しいです。




