第二話 模型店の少年たち
第二話です。
平成のミニ四駆ブームでは、模型店や駄菓子屋が子どもたちの集まる場所でした。
この物語でも、そんな懐かしい空気を少しずつ描いていきたいと思っています。
今回は、世那が少年たちと本格的に関わり始める回です。
「壊れてないだけって、どういう意味だよ」
少年の一人が眉をひそめて言った。
年は小学校高学年くらいだろうか。
少し日焼けした顔に、短い髪。いかにも元気な少年だ。
「速いに決まってんだろ。見ろよ、あのスピード!」
コースの上では、赤いミニ四駆が唸るような音を立てて走っていた。
しかし次の瞬間。
ガンッ!
マシンはコーナーで弾かれ、コースの外に飛び出した。
「ああっ!!」
少年たちが一斉に叫ぶ。
マシンを拾い上げた少年は、がっくり肩を落とした。
「また壊れた……」
私はそのマシンを見て、思わずため息をついた。
やっぱりだ。
ローラーの位置が悪い。
重心も高すぎる。
これではスピードが出れば出るほど、コースアウトする。
「だから言ったでしょ」
私は少年の手の中のマシンを指差す。
「速いんじゃない」
「壊れてないだけ」
「うるせーな!」
別の少年が言った。
「お前、ミニ四駆やったことあんのかよ」
私は少しだけ笑った。
「あるよ」
「しかも結構ガチで」
少年たちは顔を見合わせた。
「女なのに?」
「……女なのにって何」
私は思わず苦笑する。
まあ、平成ならそういう反応も仕方ないのかもしれない。
「ちょっと貸してみて」
私は壊れたマシンを受け取った。
そして裏返す。
やっぱりだ。
「これ、重心高すぎ」
「は?」
「あとローラー」
私はコーナー部分を指差す。
「これじゃ壁に当たる」
少年たちは黙って私の手元を見ている。
「ミニ四駆ってね」
私は言った。
「速くするだけじゃダメなんだよ」
「コースを制御できるマシンが一番速い」
少年の一人が首をかしげた。
「制御?」
「そう」
私はマシンを返す。
「このままじゃ、いくら速くしても勝てない」
少年はむっとした顔をした。
「じゃあ、お前なら速くできんのかよ」
その言葉を聞いて、私は少しだけ考えた。
令和のミニ四駆知識。
それをこの時代で使ったらどうなるだろう。
たぶん――
かなり勝てる。
私はにやりと笑った。
「できるよ」
少年たちがざわつく。
「マジかよ」
「ほんとか?」
私は指を立てた。
「ただし条件がある」
「条件?」
「うん」
私はコースを見ながら言った。
「ちゃんと話を聞くこと」
「そして」
私は少年たちを見渡した。
「無茶な改造をしないこと」
「……教育的指導ってやつ」
少年たちはぽかんとしていた。
そして一人が言った。
「なんだよ、それ」
私は笑う。
そのときだった。
空き地の奥から、低い声が聞こえてきた。
「お前ら、またコース壊す気か?」
少年たちが振り向く。
「げっ」
「店長だ」
そこに立っていたのは、腕を組んだ中年の男だった。
エプロン姿。
少し怖そうな顔。
そして後ろには、小さな模型店の看板が見える。
モデルショップ・ホンダ
どうやらここが、この子たちの溜まり場らしい。
店長は私を見て眉をひそめた。
「……誰だ、お前」
私は少し考えてから答えた。
「ミニ四駆、直せます」
店長は少しだけ目を細めた。
「ほう」
そして少年たちのマシンを見た。
「じゃあやってみろ」
私はうなずいた。
令和の知識。
家康の兵法。
そしてこの時代のミニ四駆。
全部を使えば――
きっと面白いことになる。
私は少年のマシンを手に取った。
「まずは」
「重心を下げよう」
平成のミニ四駆ブーム。
そのど真ん中で。
私の最初のチューニングが始まった。
第二話を読んでいただきありがとうございます。
いよいよ模型店「モデルショップ・ホンダ」が登場しました。
これから世那は、少年たちと一緒にミニ四駆を改造しながらチームを作っていくことになります。
次回は、世那が初めて平成のミニ四駆を本格的にチューニングする回です。
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次話もぜひ読んでいただけたら嬉しいです。




