第十六話 次のコース
第十六話です。
大会が終わった後の、少し静かな時間を書きました。
ここから物語は少しだけ広がっていきます。
模型店の中は、少しずつ静かになっていた。
夕方の光が、コースの白いレーンを長く照らしている。
さっきまであった歓声も、もう落ち着いていた。
大会は終わった。
子どもたちはマシンを手にして、まだ興奮した様子で話している。
「世那さんマジで速かった」
「ジャンプのとこ、全然暴れなかったし」
直人が言う。
私は少し笑って肩をすくめた。
「コースが良かったんだよ」
作業台の上には、まだ工具やパーツが散らばっている。
モーターの匂い。
少しだけ熱を持ったプラスチック。
懐かしい空気だった。
そのとき。
「なあ」
声がした。
健太だった。
青いサンダードラゴンを手にしている。
私は顔を上げた。
健太はコースを見ながら言った。
「またやろうぜ」
私はうなずいた。
「うん」
健太は少し考えてから言う。
「でもさ」
コースのジャンプ台を見る。
「ここだけじゃ、もう足りないかもな」
私は少し驚いた。
「どういうこと?」
健太は笑う。
「この前さ」
「隣の市のやつが来てたんだよ」
私は聞き返す。
「隣の市?」
健太はうなずく。
「清水」
直人が反応した。
「清水?」
健太は続ける。
「なんかさ」
「めちゃくちゃ速いチームがあるらしい」
模型店の中が少しざわめく。
「チーム?」
「どんな?」
健太は肩をすくめる。
「知らねえ」
「でも」
少しだけ笑う。
「静岡で一番速いって言われてる」
私はコースを見る。
夕方の光が、ジャンプ台の角を赤くしていた。
祖父の言葉がふと浮かぶ。
遠き道を行くが如し。
私は小さく息を吐く。
「面白そう」
健太がこちらを見る。
「だろ?」
私は白いマシンを手に取った。
まだ少しだけ温かい。
未来の記憶が、ふとよみがえる。
大きな大会。
広い会場。
たくさんのレーサー。
でも。
私は目の前のコースを見る。
小さな模型店。
三レーンのコース。
そして少年たち。
たぶん。
物語は、こういう場所から始まる。
健太が言った。
「行くか」
私はうなずいた。
「うん」
次のコースへ。
第十六話を読んでいただきありがとうございます。
大会の後の静かな時間を書きました。
ここから物語は少しずつ広がっていきます。
次回は、新しいチームが登場する予定です。




