第十四話 夕暮れのコース
第十四話です。
準決勝。
世那と健太、二人のレースが始まります。
模型店の夕方の空気と、少しだけ静かな勝負の時間を書いてみました。
模型店の窓から、夕方の光が差し込んでいた。
コースの白いプラスチックが、やわらかく光っている。
昼間の熱気は少しだけ落ち着いて、店の中には不思議な
小さなモーター音。
静かに、よく回る。
向こう側では、健太がマシンを整えていた。
青いボディ。
サンダードラゴン。
この店では一番速いと言われているマシンだ。
健太がふと顔を上げた。
目が合う。
少しだけ笑う。
「やっと当たったな」
私は肩をすくめた。
「そうだね」
健太はコースを見たまま言った。
「この店のコース、好きなんだ」
私は少し意外に思った。
「どうして?」
健太は少し考えてから言う。
「なんかさ」
「ここ来ると、ちゃんと勝負できる気がする」
コースのジャンプ台を見ている。
夕方の光が、その角を少しだけ赤くしていた。
「学校とかさ」
健太は続ける。
「なんか全部テキトーで」
小さく笑う。
「でもここだとさ」
「ちゃんと速いヤツが勝つ」
私はうなずいた。
白いマシンを軽く机に置く。
祖父の声が、ふと浮かんだ。
急ぐな。
最後に勝てばいい。
店長の声が響いた。
「準決勝!」
空気が変わる。
コースの周りに、少年たちが集まる。
私はマシンをスタート位置に置いた。
健太も隣に置く。
二台のマシン。
白と青。
静かなスタートライン。
「スタート準備!」
店の中が静まる。
そして。
「スタート!!」
二台のマシンが同時に走り出した。
ストレート。
青いマシンが前に出る。
速い。
本当に速い。
コースの空気を切り裂くように走る。
カーブ。
少し揺れる。
でも止まらない。
歓声が上がる。
そしてジャンプ。
青いマシンが高く跳ねる。
一瞬、店の中が静まる。
着地。
小さく揺れる。
その瞬間。
白いマシンが横を抜けた。
静かに。
滑るように。
ストレート。
ジャンプ。
小さく跳ねる。
着地。
ほとんど揺れない。
そのままゴール。
店長の声が響く。
「一着!」
歓声。
でも。
私は後ろを見た。
健太がマシンを回収していた。
少しだけ笑っている。
「やっぱり速いな」
私は首を振る。
「コースが良かっただけ」
健太は肩をすくめる。
「それも実力だろ」
そしてマシンをポケットに入れる。
「決勝」
そう言って振り返った。
「ちゃんと来いよ」
夕方の光が、コースの上に伸びていた。
第十四話を読んでいただきありがとうございます。
今回は少し静かなレースの回にしてみました。
夕方の模型店の空気が伝われば嬉しいです。
次回はいよいよ決勝です。




