表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/16

第十三話 じいちゃんの書斎

第十三話です。


準決勝の直前、世那は少しだけ店の外に出ます。

そこで思い出すのは、歴史教師だった祖父の書斎と、ある言葉。


ミニ四駆と家康の教え。

二つが少しだけ重なる回になります。

模型店の外は、夕方の光に包まれていた。


商店街の通りには、夏の空気がゆっくり流れている。


店の中では、準決勝の準備が始まっているはずだった。


私は少しだけ外に出て、ベンチに腰を下ろした。


白いマシンを手のひらに乗せる。


小さな機械。


でも、この中にはたくさんの時間が詰まっている。


ふと、懐かしい匂いを思い出した。


線香と古い本の匂い。


祖父の書斎だ。


 


駿府城の近くにあった、古い家。


二階の奥の部屋。


そこには、いつも祖父がいた。


 


「世那」


 


本を閉じる音。


 


「急ぐな」


 


祖父はよくそう言っていた。


 


「人の一生は、重荷を負うて遠き道を行くが如し」


 


徳川家康の言葉だと教えてくれた。


 


「ミニ四駆も同じだ」


 


祖父は笑って言った。


 


「速いだけでは勝てない」


 


「耐えること」


 


「整えること」


 


「そして最後に勝つこと」


 


私は白いマシンを見つめる。


未来で、息子と一緒に作ったマシン。


 


「ママ」


 


小さな声。


 


「このローラーさ」


 


「回るとき、ちょっとだけ引っかかる」


 


息子の晴太は、小さなドライバーを持っていた。


 


「よく気づいたね」


 


私は笑った。


 


「ミニ四駆はね」


 


「こういう小さいところで速くなるんだよ」


 


晴太が嬉しそうに笑う。


 


「じゃあ、もっと速くなる?」


 


「なるよ」


 


私は言った。


 


「きっと一番速くなる」


 


 


「世那さん!」


 


声がした。


私は顔を上げる。


直人たちが店の入り口から顔を出していた。


 


「準決勝、もうすぐ!」


 


私は立ち上がる。


白いマシンを手に取る。


 


未来。


祖父の言葉。


息子との時間。


 


全部、この小さなマシンの中にある。


 


模型店の中に戻ると、健太がコースの前に立っていた。


腕を組んで、こちらを見ている。


 


「遅いぞ」


 


私は少し笑った。


 


「ごめん」


 


健太が言う。


 


「でも」


 


「逃げたんじゃなくて安心した」


 


私は首をかしげる。


 


「なんで?」


 


健太は笑った。


 


「逃げるタイプじゃないから」


 


店長が声を上げた。


 


「準決勝!」


 


模型店の中の空気が一瞬で変わる。


 


少年たちの視線。


 


コース。


 


スタートライン。


 


私は白いマシンを置いた。


 


祖父の声が、また聞こえた気がした。


 


「急ぐな」


 


「最後に勝てばいい」


 


 


そして。


 


準決勝が始まる。

第十三話を読んでいただきありがとうございます。


今回はレース前の少し静かな回でした。

世那の祖父と、未来での息子との記憶が少し重なる場面を書いてみました。


次回はいよいよ準決勝のレースです。


面白いと思っていただけたら

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ