第十二話 白いマシン
第十二話です。
大会もいよいよ終盤。
ここで初めて、世那自身のミニ四駆がコースに立ちます。
このマシンには、未来での思い出が少しだけ詰まっています。
模型店の中は、少しだけ静かになっていた。
予選が進み、残っているレーサーはもう多くない。
コースの周りでは、少年たちが自分のマシンを整えている。
直人たちも机の前で話していた。
「さっきのレース、マジでびびった」
「ジャンプあんなに飛ぶとは思わなかった」
私は少し離れた場所で、その様子を見ていた。
そして、机の上に置いた箱をゆっくり開ける。
中には一台のミニ四駆が入っていた。
白いボディ。
無駄な装飾はない。
シンプルなマシン。
でも。
ローラーも、タイヤも、シャフトも。
すべてが静かに整っている。
直人が気づいた。
「世那さん」
「それ……」
黄色いマシンの少年も近づいてくる。
「初めて見る」
私はマシンを手に取った。
「うん」
「私のマシン」
少年たちが目を丸くする。
「世那さん走るの?」
私は少し笑った。
「たまにはね」
白いボディを指で軽くなぞる。
未来の記憶がよみがえる。
息子の晴太。
「ママ、そのマシン速い?」
小さな机の上。
家のリビング。
工具とパーツだらけのテーブル。
「まだ調整中」
「でも」
私はあのとき言った。
「きっと速くなる」
直人が聞く。
「世那さん?」
私は我に返る。
「あ、ごめん」
「ちょっと思い出してた」
黄色いマシンの少年が言う。
「未来?」
私は笑う。
「そう」
「未来」
直人がマシンをじっと見る。
「なんか」
「強そう」
私は肩をすくめる。
「たぶんね」
そのときだった。
「次!」
店長の声が響いた。
「松平世那!」
少年たちがざわめく。
「来た!」
私はマシンを持ってコースに向かう。
健太が向こう側に立っていた。
白いマシンを見る。
「それ」
「お前のか」
私はうなずく。
「そう」
健太は少し笑った。
「速そうだな」
私は答える。
「速いよ」
そして付け加える。
「でも」
「速いだけじゃない」
健太は眉を上げる。
私はコースを見る。
ジャンプ台。
カーブ。
ストレート。
そして。
祖父の声が頭に浮かぶ。
「急ぐな」
「人の一生は、重荷を負うて遠き道を行くが如し」
私はマシンをスタート位置に置いた。
店長が声を上げる。
「スタート準備!」
模型店の中が静まり返る。
少年たちの視線。
直人たちの緊張。
そして。
「スタート!!」
白いマシンが走り出す。
ストレート。
速い。
でも暴れない。
カーブ。
滑るように曲がる。
そしてジャンプ。
白いマシンが小さく空中に跳ねる。
着地。
揺れない。
そのまま走る。
ゴール。
模型店が静まり返る。
そして。
「……速っ」
誰かがつぶやいた。
直人が言う。
「やばい」
黄色いマシンの少年が叫ぶ。
「めちゃくちゃ速い!!」
私はマシンを手に取る。
健太が近づいてきた。
白いマシンを見て言う。
「なるほど」
「そういうマシンか」
私は笑う。
「制御型」
健太は少しだけ笑った。
「決勝でやろう」
私はうなずいた。
平成のミニ四駆大会。
そして。
未来を知る私のマシン。
どうやら。
この大会、まだまだ面白くなりそうだった。
第十二話を読んでいただきありがとうございます。
今回は世那のマシンが初めて走る回でした。
未来の記憶と、平成のミニ四駆が少しだけ重なるシーンを書いてみました。
次回はいよいよ準決勝。
世那と健太のレースになります。
面白いと思っていただけたら
ブックマークや評価をいただけると励みになります。




