第一話 ママ、平成にタイムリープする
はじめまして。
この作品は、平成のミニ四駆ブームを舞台にした物語です。
もし、令和の知識を持った人がミニ四駆ブームの真っ只中だった平成に行ったらどうなるのか。
そんな妄想からこの作品を書き始めました。
静岡の街並み、模型店や駄菓子屋、そしてミニ四駆に夢中だった少年たちの熱気を、物語の中で描いていけたらと思っています。
ゆるく、時々熱く、少し懐かしい物語にしていく予定です。
よろしくお願いします。
「ママ、このマシン遅いよ」
息子の晴太が、机の上に置かれたミニ四駆をつまらなそうに見つめていた。
私は苦笑しながらマシンを手に取る。
「遅いんじゃないよ。セッティングが合ってないだけ」
ミニ四駆は、ただモーターを強くすれば速くなるわけじゃない。
ギヤ比。
ローラー。
重心。
そして制震。
すべてが噛み合ったとき、マシンは本当の速さを手に入れる。
それは人生と同じだ。
そう教えてくれたのは、じいちゃんだった。
私は今、祖父の家に来ている。
祖父が亡くなってからしばらく経つが、この書斎だけは当時のままだった。
古い本棚。
木の机。
そして、線香と古本が混ざった独特の匂い。
机の上には、祖父が大切にしていた小さな木像がある。
徳川家康公。
祖父は歴史教師で、家康を心から尊敬していた。
ふと、祖父の声が頭の中によみがえる。
「世那」
「急ぐな」
「人の一生は、重荷を負うて遠き道を行くが如し」
その言葉を思い出した瞬間だった。
ぐらり。
世界が大きく揺れた。
「……え?」
気がつくと、知らない天井が見えていた。
「ここ……どこ?」
私はゆっくり体を起こす。
畳の部屋だった。
さっきまで祖父の書斎にいたはずなのに、見覚えのない部屋だ。
近くに鏡があった。
私はなんとなくその鏡をのぞき込む。
そして――固まった。
鏡の中に映っていたのは、見知らぬ少女だった。
長い黒髪。
白い肌。
凛とした顔立ち。
十四歳くらいだろうか。
でも、その目は確かに私のものだった。
「……え?」
私は自分の頬に触れる。
鏡の中の少女も同じ動きをする。
「うそ……でしょ」
私は三十八歳の主婦だ。
ミニ四駆好きの息子がいて、普通の生活をしていた。
なのに、どうして。
そのとき、外から子供たちの歓声が聞こえてきた。
「うおおおお!!」
「速ええええ!!」
「壁当てたー!!」
私は思わず窓を開けた。
そこには空き地があった。
そして――
ミニ四駆コース。
少年たちがコースの周りを囲み、歓声を上げている。
「行けぇぇ!!」
「ドラゴン速ぇ!!」
走っているマシンを見た瞬間、私は思わず声を出した。
「……うわ」
「これ、めちゃくちゃだ」
ローラーはガタガタ。
重心もバラバラ。
ただパワーモーターを積んでいるだけ。
完全に――
平成のパワー主義改造。
そのとき、少年の一人が私に気づいた。
「おい」
「誰だよお前」
「見たことないぞ」
私はコースを見ながら答える。
「そのマシン」
少年たちは怪訝そうな顔をした。
「速くないよ」
「壊れてないだけ」
「は?」
少年たちがざわつく。
私はコースのマシンを見つめながら言った。
「本当に速いマシンはね」
「壊れないマシンなんだよ」
ふと、私は空き地の入口に立っている看板に気づいた。
そこには大きく書かれていた。
平成八年
私は小さくつぶやく。
「……なるほど」
「平成のミニ四駆か」
少年たちを見ながら、私は思った。
令和のミニ四駆知識。
祖父から教わった家康の兵法。
もし、この二つがあれば。
この時代で――
天下が獲れるかもしれない。
第一話を読んでいただきありがとうございます。
この作品では、
・平成ミニ四駆ブーム
・静岡の街
・家康の言葉
などを物語に織り込みながら進めていく予定です。
次回は、世那が少年たちと出会い、初めてミニ四駆を改造する「模型店編」が始まります。
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次話もぜひ読んでいただけたら嬉しいです。




