美術部に見学
私が通っていた中学校には、暗黙だが絶対的なルールがあった。
特別な理由がない限り、全員が何かしらの部活に所属しなければならない。
体育会系は論外だ。
根性論、声出し、汗、上下関係。想像しただけで胃が重くなる。
吹奏楽部は可愛いキラキラ女子が多そうで、別の意味で怖い。
合唱部は、高音が出ない時点で選択肢にすら入らない。
消去法の末に残ったのが、美術部だった。
絵が上手くなくてもいいらしい。「アート」という便利な言葉がすべてを許してくれる。
しかも、不良や不登校気味の生徒が仮所属している、ゆるい部活だという噂まである。
私には、美術部しか選択肢がないと思った。
正確には、そう思い込むしかなかった。
放課後、私は美術室の前に立った。
たかが美術部。
それなのに、ドアが近づくにつれて、心臓だけが勝手に早鐘を打ち始める。
意を決してドアを開けると、教室には三人しかいなかった。
女子が一人、男子が二人。
全員がそれぞれのキャンバスに向かい、私語ひとつない。
美術室というより、奇妙に緊張感のある空間だった。
三年生と思われる、部長らしき女の先輩がこちらを向いた。
他の二人の男子生徒は、私に気づいているのかいないのかも分からないまま、黙々と筆を動かしている。
「見学だよね?
この部活、もうすぐ廃部になるかもしれないけど……」
か細い声だった。
黒縁メガネをかけ、艶とコシのある髪を腰のあたりまで伸ばし、耳の下あたりで一つに結んでいる。
ニキビひとつない、透明感のある白い肌。
同じ中学生とは思えないほど整ったその姿に、私は一瞬、言葉を失った。
どうせ廃部になるなら、都合がいい。
それを理由に帰宅部になればいいんだから。
ここは、私が「何もしない」ために選ぶ部活だ。
先輩は、私の胸元の名札に目を落とし、確認するように言った。
「芝関さんね。まあ、見学どうぞ。」
先輩の名札には、「白石」と書かれていた。
白石先輩。
――その時だった。
「あれ?芝関じゃん?」
男子生徒の一人が、初めてこちらを向いた。
さっきまで私など存在していなかったかのように、今度は興味深そうに私を見ている。
「お前、どしたん?
めっちゃブスになっとるやん!
ハハハハハ!!」
乾いた笑い声が、美術室に響いた。
さっきまでの静けさが、一瞬で台無しになる。
うわ……最悪……。




