転落
小学生のころの私は、わりと勝ち組だった。
少なくとも、顔面に関しては。
目と目の距離は適度で、鼻も曲がっていない。
集合写真では、なぜかいつも真ん中に近い位置にいた。
男子にからかわれることもなく、女子からも敵視されない。
今思えば、あれは顔が整っていたからだ。
中学生になって、世界は一気に現実を帯びた。
最初にできたニキビは、額の右端だった。
「一個くらいなら」と思っていたら、翌週には仲間を連れてきた。
さらに翌週、頬に拠点を作り始めた。
鏡を見るたびに、増えている。
減る気配はない。
これはもう、侵略だ。
体重も、なぜか増えた。
食べる量は変わっていないのに、太ももが自己主張を始めた。
制服のスカートが、ある日突然、きつい。
こうして私は、
モテのヒエラルキーの最下層へと、無言で突き落とされた。
外見が落ちると、人は性格も変わるらしい。
私は急に、世界を斜めから見るようになった。
廊下で楽しそうに笑う女子を見て、
「どうせ、可愛いから許されてるんでしょ」と思う。
これは嫉妬ではない。
事実確認だ。
女子は親切だった。
ある意味、残酷なほど。
「この洗顔、めっちゃいいよ!」
「ニキビ減ったから使ってみな?」
勧められるままに使った洗顔は、
顔にのせた瞬間、ヒリヒリした。
でも、私はやめなかった。
だって、やめたら「努力してない側」になるから。
結果、翌朝。
ニキビは減るどころか、赤く腫れて存在感を増していた。
鏡の中の私は、
頑張った人の顔ではなく、
間違った努力をした人の顔だった。
男子はもっと正直だった。
「うわ、肌汚ね」
その一言で、頭の中が真っ白になった。
泣くこともできなかった。
ただ、理解してしまった。
ああ、私はもう、
“可愛い”側には戻れない。
ここで私は、人生について考え始めた。
まだ十三歳だけど。
顔がダメなら、他で勝つしかない。
でも、何で?
運動? 無理。
勉強? クラスにもっとすごいのがいる。
性格? すでに歪み始めている。
じゃあ、
観察力はどうだろう。
可愛い子が、どんなタイミングで笑うか。
男子が、誰に優しくするか。
先生が、誰には甘いか。
私は、見られない側になった代わりに、
見る側になった。
モテないというだけで、
世界はこんなにも仕組みを露わにする。
私は今日も、
増えたニキビを数えながら思う。
この顔のまま生きるなら、
せめて、
この世界を一番冷静に理解している人間になろう。
非モテJC、オワタ。
でも、思考は始まったばかりだ。




