世界の亀裂
あんなに高く登るべきじゃなかった。今ならわかる。でも、十六歳の時、人は自分が不死身だと信じているものだ 。世界は自分が征服するために存在しているのだと。
僕たちは見慣れた道を後にした。僕たちが選んだのは、もはや道ですらなかった。 それは、純白の雪に厚く覆われた、険しい岩の尾根だった 。
「あと少しだ、メグ」 僕はあえぎながら言った。薄い空気の中で、吐く息が濃い霧となる。 メグは躊躇した。彼は立ち止まり、氷の地面を蹄でひっかいた。低く、神経質ないななきをもらす 。 耳が前後に動いている。動物には危険を察知する第六感がある 。彼らは人間が無視してしまうような大地の振動を感じ取ることができるのだ。 彼は僕に止まれと言っていた。何かがおかしいと訴えていた 。 けれど、僕は愚かだった。
「怖がるなよ」僕は笑って、彼のたてがみを優しく引いた。「見ろよ、この景色! ここなら僕たちは世界の王様だ!」
僕は前に踏み出した。空に突き刺さる牙のような、あの頂に到達したかったのだ。 メグはついてきた。彼はいつだってついてきた。それが彼の忠誠であり、それが彼の呪いだった 。
平らな場所に出た。二つの峰の間に横たわる、広い雪原のように見えた。美しかった。太陽が雪に反射してあまりに眩しく、僕は目を細めなければならなかった 。 僕はそのフィールドの中央まで歩き、両手を大きく広げた。
「ほら!」僕は風に向かって叫んだ。「完璧だ!」
その時、音がした。 咆哮ではない。悲鳴でもない。鋭く、胸が悪くなるような破裂音だった。 パキィッ。 静かな図書館で銃を撃ったような音だった 。
僕は凍りついた。心臓が肋骨を激しく叩く。足元を見た。 白い雪の上に、蜘蛛の巣のような細い線が走っていた 。それは一瞬にして伸び、稲妻のように地面を駆け抜けた 。 ここは野原ではなかった。凍った湖だったのだ。僕たちは雪の下に隠れていた氷の薄い膜の上に立っていた。 そして今、それが壊れようとしている 。
「メグ――」 僕は硬い岩場へ走ろうと振り返った。
ドゴォォォォン! 世界が足元から抜け落ちた 。
落下する感覚は恐ろしいものだ。胃袋が喉までせり上がる。一瞬の間、無重力になる 。 そして、冷気が襲ってきた。
僕たちは水の中に落ちた。ただの冷水ではない。「液体の氷」だ 。 それは物理的なパンチのように僕を殴りつけた。肺から空気が叩き出される 。何千本ものナイフで全身を一度に刺されたような激痛だった。 叫ぼうとして口を開けたが、水が流れ込んできた。太古の霜と塩の味がした 。
僕は腕をバタつかせ、上に泳ごうとした。頭上に氷の穴が見えた。青い空が見えた。それはとても遠くに見えた 。 隣でメグも暴れていた。巨大な足が水を蹴り、暗い水をかき回す。鼻から気泡が昇っていく。彼の大きく見開かれた黒い瞳に、パニックの色が見えた 。
メグ! 僕は彼に手を伸ばそうとした。 指先が彼の脇腹にかすった。だが、体が動かなくなっていた。寒さが恐ろしいことをし始めていたのだ 。 ただ凍らせるだけではない。動きを奪っていく。いつもなら強靭な僕の筋肉が、石へと変わっていく。
僕の足――誇り高きランナーの足――が、言うことを聞かなくなった 。
僕は深く沈んでいった。水面からの光が消え始めた。 頭上の氷の穴が、落ちてきた瓦礫と氷泥によって塞がれ、閉じていくのが見えた 。 心のパニックが薄れ始め、奇妙で重苦しい疲労感に取って代わられた。
最後にもう一度、メグを見た。 彼はもう暴れていなかった。僕の近くの水中で、彫像のように漂っていた。安らかで、まるで眠っているかのように見えた 。
ごめん。 唇は動かなかったが、僕はそう思った。 ごめんよ、兄弟 。
暗闇が僕たちを包み込んだ。そこは氷の墓場だった。 僕たちがそこを漂っている間に、太陽が何千回も昇り、沈むことを僕は知らなかった 。 僕たちが眠っている間に、帝国が滅び、都市が崩れ、世界が終わってしまうことを、僕は知らなかった 。
僕は目を閉じた。 冷たさがすべてを奪っていった。静寂は絶対だった。 そして……無になった 。




