エピローグ
火山の噴火と、その最中に届いた東方ウジャインの反乱の報で、タジボグ王は兵を引いた。しかしそのとき王の軍は、かなりの痛手を受けていた。そのため、ミーアンの地の統一は次代に持ち越された。
キーリング・グマンは残った兵を集めて砦に戻った。グマン家以外の一族の人びとが去ったことは、彼にとって大きな打撃であったが、のちにグリマルが和平の使者として来た際、アヴァール族の新しい長として、そのことをおくびにも出さなかった。
タジボグ王はアヴァールに譲歩し、彼らを配下とするのではなく、盟友として遇することを約束した。それによって辛うじて、アヴァール族の独立は保たれた。しかし「王家に代々、四家の娘を差し出すことと、〝エクトゥスの秘儀〟を教えること」という条件は飲まねばならなかった。
このとき以後、キーリングは四家がすでになく、グマン家のみであることを隠し通した。差し出されたグマン家の娘・キーリングの長女は、王の側女とされ、超常の力を持つ子を産むことを期待されたが、生まれた四人の子はみな女子で、力を持たない者ばかりだった。子どもらは王の庶子として、貴族たちに下賜された。そしてタジボグ王が亡くなると、無駄なことであるとして、次代の王はアヴァールの持つ超常の力を王家に取り入れることを止めた。タジボグ王の後継は傲慢な道士たちを嫌い、道士の力を借りずに統一を成し遂げたので、アヴァール族に伝わる超常の力を重視していなかった。そのため、老いたキーリングは娘や孫を差し出さずに済むことに安堵したのだった。その代わり、アヴァールは他の部族同様の税を支払うことを課せられた。
また、自然を操る〝エクトゥスの秘儀〟について、敗戦のときその詳細を知る者は、長老とミリウス・シンド、そしてキーリング・グマンだけとなっていた。だが、長老とミリウスは去っておらず、残ったキーリングだけがその知識を持っていたが、彼は秘儀の重要部分を巧妙に改変して王家に渡し、再現しようとした道士ドゥマーが失敗して彼に詰め寄られると、「やはり血族でないと、だめなようですなあ」と申し訳なさそうに答えた。
キーリングは王とドゥマーの要求をのらくらとうまくかわし、後継の太子が超常の力に興味がないことをうまく利用して、タジボグ王とその側近ら亡きあとも生きて一族の独立を保った。しかし、秘儀については、「危険だ」として、子どもたちに伝えることはなかった。また、キーリング以後、ミーアンの地の一部となったアスティニアに残ったアヴァール族に超常の力を持った者は生まれず、強制的に改宗させられた一族は独自の文化を失い、しだいに衰退してヒスタニア人と同化したのだった。
このあとタジボグ王の直系は四代で途絶え、傍系から出た者が王となったが、それは道士たちの傀儡に過ぎなかった。王朝は二百年続き、道士たちの術の暴走と内乱の果てに滅びた。
その一方、故郷アスティニアを捨て、地下道を通って西方山脈に逃げのびた人びとは、土地を切り開き、新しい生活を始めた。アリウスの亡骸を一族の墓地に葬ったハーバーズもグマン家に従わなかった生き残りの兵たちをまとめ、やがて彼らと合流した。
この生活の中で、エリジェーヌは月満ち、子を産んだ。
「ねえさん、男の子だよ」
泣き声を上げている赤ん坊を、ミリウスは姉の前に差し出した。
「名前はどうする?」
「な……まえ? 名前は、そう……アリウス。アリウスよ」
朝日の中で初めて母となった彼女は、輝くような笑みを見せた。誇らしげに。
アリウスとユリウスの兄弟、そして姉との関係、彼らの想いをすべて身近で見て知っていたミリウスの心中は、複雑だった。けれども、その子は一族の希望の光であるのも確かだった。
最も力のあった長の名を継いだ子は周囲の期待通り、やがて超常の力を発現し、彼らの良き指導者となる。
時を経て、山中に隠れ住むアヴァール族たちは伝説として語られるようになり、ヒスタニア王国が滅亡したのちでも一族の伝統を守り、長く存在し続けたのだった。
終
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