六章 森林に住む一族
召喚された城から、初めて抜け出した俺とガッセは、深い森の木々の間で、野宿していた。
寒さで、温め合うために焚き火をしていたが、俺たちは、肌を重ね合っていた。
「んっ…!」
俺は、ガッセに抱きつき、口づけを交わす。
「ミハル様…!」
ガッセも、強く抱きしめてくれた。そして、互いに舌を絡める。
それは、魔法なんかかけられていないのに、とても気持ち良くなって、自然と腹の下が疼いた。
ガッセも、すでに硬くなっている。そして、今まで我慢していた分、強く求めてくる。
その力強さに、俺も首に腕を回す。
「ぁあっ…!ガッセ…!」
逞しいガッセの体が熱くなって、俺の中にそれを入れてきた。
久々の感触に、少し腹がキツく圧迫感を感じるが、ガッセが腰を動かすと、それにつられて、俺も腰を揺らしてしまう。
「はぁあっ!ガッセ…!」
「んっ!ミハル…様!」
自然と、互いに液を放った。
それが、ガッセの立派な腹にかかり、俺はそれを口に含むと、ガッセに口移しする。
抵抗する事なく、ガッセはそれを飲み干す。
すると、ガッセの身体が光る。一気にシワが取れていき、40歳くらいになった。ますます、男前になって、イケオジ感が増した。
「ガッセ…。カッコイイ!」
俺は、息を荒くして、逞しい身体を触る。
「うっ…!」
すると、ガッセのモノが、再び硬くなり、再び俺を求めてくれた。
「ミハル様!」
ガッセは、激しく身体を動かしてきた。
その快感に身を委ねて、俺は喘ぎ続けた。
「ぁあっ…!ガッセ…!ガッセェ〜!!」
再び、俺は気が遠くなるのを感じた。それと同時に、頂点に達する。
俺の腹の中にも、ガッセのものが放たれる。
日が出始め、俺はガッセの腕の中で気を失っていたことに気が付く。目を開けると、ガッセは見張りをしていたのか、顔を覗き込んできた。
「ミハル様、おはようございます。」
ガッセの微笑みが、眩しく感じた。
『イケオジが、更にカッコ良くなっちゃって…。』
俺は、ドキッとして、顔を赤くする。
「おはよう。ずっと、起きてたの?」
俺は、ガッセの頬に手をやる。
「はい。ミハル様の生気をいただいて、気を失われていたので、危険が起きた時にいつでも動けるように。」
「…あ、ああ。そっか…。」
ガッセは、袋に手を入れて、俺に渡す。
「シドル殿が持たせてくれた食料です。食べてください。」
それは、チーズとパンだった。
「ありがとう。」
俺は、それを口に入れる。生気を養う為、食料は貴重だ。足を引っ張る訳にはいかない。
※
ある程度、生気を取り戻した後、ガッセが地図を広げる。
「我らは、首都カイラから離れて、今はこの一里先の"イシス"と言う森林に居ます。ここには、"ナンカガ"と言われる森林の一族が住んでいて、首都カイラの侵入を嫌っています。」
「他民族的なやつ?」
「簡単に言えば、そうですね。彼らは、精霊の守護を受けていると言われており、他国の介入を嫌っています。ですが、緑魔道士のミハル様の事を、受け入れてくれるのではないかと思います。」
「精霊…!?じゃあ、精霊の召喚の方法を知っているかも知れないってことか!」
「おそらくは。そこで、ミハル様の魔法を取得して、力をつけたら、カイラの敵国である"ヴォウン"に向かい、バンズ王の庇護にすがるのはどうかと思っています。」
ガッセは、木の棒で地図を指しながら、説明してくれる。
「それって、アクサル王の敵ってこと?」
「その通りです。バンズ王は、思慮深い方だと噂に聞いていますが、民草を無下にはしないと聞きます。本当なら、直ぐにでも向かいたいのですが、アクサル王が若返った事で、昔のような野望に満ちた力を手に入れて、ヴォウンに戦を仕掛けています。もう、すでに、国境を制圧したと聞いています。このままでは、ヴォウンに足を運んでも、戦況次第でどうなるか分かりません。アクサル王の息子であるカイザル王子が、先頭をきって軍を指揮していると聞きます。カイザル王子は、策士。ヴォウンが、陥落する事もあり得る話しです。」
俺は、はい?と頭を抱える。
「…って事は、俺の生気をアクサル王が手に入れてしまったから、戦を仕掛けていたのか!?初耳なんですけど!」
ガッセは、フッと軽く笑う。
「貴方様に言わなかったのも、アクサル王の性格を知れば分かりますよ。」
それを聞いて、俺は、うっと下を向く。
「そうだよな…。俺、生気を取られて、ボロボロになったもんなぁ。用無しって言ってたから、俺の事を単なる使い捨ての駒だと思ってたもんな。教える必要なかったわけだ。」
言っていて、虚しくなる。
そんな俺の気持ちを知ってか、ガッセが肩に手を置く。
「長年、アクサル王の陰から見ていたからこそ、私はミハル様の身の危険を案じていたのです。だから、機会を見て助け出そうとしたのですが、ハンスに先を越されて、いつ城からお連れしようかと伺っていたのです!」
ガッセの気持ちが、今は元気をくれる。
「ありがとう。だから、わざとハンスの前で、"お慕い申し上げております"って言ったんだろ?」
俺は、苦笑いする。
「う、嘘ではありません!…で、ですが、その方が、貴方様の側に居ることを、不審に思われないかと…!」
「はいはい。とりあえず、俺を様付けで呼ばないでくれよ。これからは、共に旅するんだから、ミハルって呼んでくれよ。」
ガッセは、うっと肩に乗せていた手をどけて、そっぽを向く。
「ぜ、善処します…。」
頑固な所は、まだ抜けないんだな、と呆れる。
ガッセのおかげで、シドルに教えてもらい損ねたことを、いくつか教えてもらうことが出来た。そして、俺達は、森林のナンカガ族に会うために、旅をする事になるのだった。道すがら、色々な事を学んだ。
「ねえ、ガッセ。この宝石みたいなものが乗っかってる植物は何?」
俺は、赤く光る宝石と青く光る宝石の生えた植物を指差す。
「それは、コンと言う植物です。赤い物が、体力を回復させて、青い物が、魔力を回復します。市場にも、それなりの値段で売られています。口に含むと、効果が出ますよ。」
「ふ〜ん。じゃあ、袋に入れておこう。いざという時に、役に立つ!」
俺は、ゲーム感覚の生活に、胸を弾ませていた。
「そう言えば、モンスターとか出てこないの?」
「もちろん、いますよ。ですが、この森林のモンスターは、ほとんどナンカガが狩ってしまっていますね。ですが、油断は禁物です。ナンカガが、飼い慣らしているモンスターも、たまに居ると聞いています。」
「飼い慣らしす?」
すると、俺の背後から、一匹の狼が現れた。その狼の額には、紫の宝石が埋め込まれている。
「ガルガ!」
ガッセは、俺の前に立ち、双剣を抜く。
すると、ガルガは、ガルルル!と口を開けて飛びかかってくる。
「うわぁ!」
俺は、初めて出会ったモンスターに、恐怖で声を上げる。だが、ガッセは瞬時にガルガを4等分に切り刻んでしまう。
そして、背を向け、マントをなびかせる。
声もなく地面に肉片が落ちる。
しばらく、俺はガッセの姿を見て無言になる。
「っ…!」
思わず、口に手を当てる。
「お怪我はありませんか、ミハル…様?」
ガッセが、手を伸ばしてくる。
俺は、顔を赤くする。
「どう…なさいました?」
「か、…カッコ良すぎるぅ〜!!」
思わず、鼻血が出そうになってしまい、顔を上に向ける。
ガッセは、首を傾げる。
『二刀流、バンザ〜イ!!ゲームよりも、生で拝めて、幸せだぁ〜!!』
俺は、初めて天に感謝する。
「あ〜!ありがとうございますっ!!生ユ◯様、最高です、神様…!!」
両手を上に上げて組み、感謝の意を示すと、横にいたガッセが、手を止めて、ただただ俺の方を見ている。
「ガッセ!お前に出会えて、俺は幸せ者だぁ〜!」
俺は、勢いに任せて抱きつく。
「そ、それは、どうも…。…にしても、言ったやさきから、飼い慣らされたガルガが現れましたね。」
ガッセは、ガルガの死体から、あの額にはめ込まれていた宝石を拾い上げる。
「飼い慣らすって、その宝石が?」
「ええ。これをつけると、その主人の言う事を聞くんです。おそらく、近くにナンカガ族が居ますね。モンスターをけしかけて来たと言う事は、こちらに敵意を向けていると言う事です。」
敵意と聞いて、俺は身体を強張らせる。
「それって、ナンカガが、俺達を殺そうとしてるってこと!?」
ガッセは、頷く。
「これは、簡単に会うことすら出来ないかもしれませんね。」
「そんなぁ〜!じゃあ、精霊召喚の魔法を教えてもらえないじゃないか!」
ガッセは、顎に手を当てる。そして、1つ考えてから答える。
「…このまま、先に進みましょう。彼らと話が出来れば、もしかして協力してくれるかもされません!」
ガッセは、宝石を握って道の先を見た。
「う、うん。分かった!」
俺は、気を取り直して、ガッセが見ている方を見た。
俺達は、それから何日か先に進み、夜は野宿をした。
ナンカガに飼い慣らされていると思われる、額に宝石をはめ込まれた様々なモンスターが、先に進むほど多くなり、更に凶暴な物まで出てきた。
「く、熊!?」
あまりの迫力に、俺は立ちすくんでしまう。
「マグマロックです!」
名前の様に、赤いマグマのような物が、体の真ん中の線に浮き出ている。
そして、こいつも額に宝石がはめ込まれていた。
「お下がりください!こいつは、少々手強い!」
「わ、分かった!」
俺は、近場の樹の幹に隠れて様子を見る。
ガッセは、俺が隠れたことを確認すると、身構える。
「ぐあぁあ〜!!」
マグマロックの雄叫びが、空気を揺らす。
俺は、隠れていることしか出来ない事に、歯がゆさを感じた。
『くっそ!俺も、召喚魔法さえ使えれば、ガッセに加勢出来るのに…!』
ガッセは、マグマロックの攻撃を軽くかわして、剣を振り下ろす。
「フンッ!」
右手を斬り落とし、その先の樹の幹に足をつくと、その助走で、再び向かっていく。
マグマロックは、唸りながら、左手をガッセに振り下ろす。その指先が、ガッセの腹部をかする。
「くっ…!」
致命傷を避け、ガッセは下に転がる。
「ガッセ!」
地面に、血が滴り落ちる。だが、ガッセはなお立ち向かっていった。
「でやぁあ〜!」
ガッセの雄叫びと共に、マグマロックの左手が地面に落ちる。
「グオー!!」
マグマロックは、その巨大を傾かせ、大口を開いてガッセに襲いかかる。
ガッセは、ヒラリと身をかわして、双剣を首に振り下ろす。
途端に、マグマロックの首が地面に落ちて、大きな巨体も音を響かせながら、倒れていく。
途端に、ガッセは膝を折る。
「ガッセ!」
俺は、直ぐに駆け寄り、右の指先を斬る。
「さあ、飲んで!」
ガッセは、俺の指を口に当てて、血を飲む。すると、傷口が癒えていく。
それを見て、ホッとする。
「良かったぁ〜!」
「あ、ありがとうございます。」
ガッセは、笑みを見せていたが、額に汗が浮かんでいた。本当に、危うかったようだ。
そんな俺達の様子を、こっそり見ていた者がいた。
「へぇ〜、驚いた!あんた、良い腕してるねぇ!」
森林に響いて聞こえてくる声に、俺達は辺りを見渡す。
「コイツを殺す事が出来るとはねぇ。」
すると、黒い肌をした女性が、突如姿を現した。
透明になっていたらしく、その術を解いてマグマロックの死体の後ろから出てくる。
「よそ者が、一体こんな奥まで来て、どういうつもりだい?」
黒い肌の女性の登場に、ガッセは立ち上がりながら言う。
「どうやら、ナンカガ族に会うことが出来たようですね。」
女性の出現と共に、その後ろで控えていた2人の黒い肌の男たちが姿を現す。
『こ、こいつらが…!』
俺は、ガッセの腕にしがみついて、様子を伺う。
「答えろ。場合によっては、排除する!」
女性は、俺達に刃を向けてきた。
せっかくのナンカガ族との再会は、歓迎されたものではない様子だった。