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五章 二刀流の剣士と緑の魔道士

 城の中は、大騒ぎになっていた。

「なんだと!ミハルが、ガッセと共に姿を(くら)ましただと!?すぐに、探し出せ!!」

「ははっ!」

 アクサル王は、城に残る兵士たちで、城外を探索させる指示を出した。そして、胸がドキドキして、落ち着かず左右に歩き回る。

「クソッ、ミハル…!」

 アクサル王は、ミハルに触れる事が出来なくなってから、性欲を維持出来なくなり、どんな事をしてもミハルのことを考えてしまっている状態に陥っていた。

「ミュンヘン!何故、魔法が解けないのだ!?」

「お、落ち着いてください、王よ!魔法は、時が経てば直ぐに…。」

 その言葉に、アクサル王は壁を拳で叩いて穴を開けた。

「直ぐに直ぐにと、もう2ヶ月経っているのだぞ!?少しも、魔法が解けぬではないか!!ミハルの姿が見えないだけで、不安になって仕方がない!!」

 ミュンヘンは、呆れた顔をする。魔法の効果など、もうとっくに解けている。この哀れな王は、本気で精者のミハルを"想う"ようになってしまったのだ。

「ミハル!何処に行ったのだ、ミハル…!!」

 アクサル王は、勃起していた。

「…王よ。今宵は、お妃様と閨を共にしては…?」

 ミュンヘンの言葉に、アクサル王は殺意の目を向ける。思わず、肝が縮む。

「な、なんでも、ございません!」

 極悪最悪の王は、初めて人に夢中になっていた。


 教会の庭先。緑がお生い茂っている場所で、ガッセが剣の特訓をしていた。

 俺は、鍛え上げられたその肉体美と、剣さばきにウットリして、窓から覗き見ていた。

『ああ。なんと言うイケオジ…!ナ◯◯カのユ◯様のようだなぁ〜。』

「カッコイイ…。」

 思わず呟くと、その声がガッセの耳に入ったらしく、一瞬動きが止まり、頬を赤くする。

「っ…!」

 ガッセは、何かムラッときたらしく、先ほどよりも太刀筋が乱雑になり、煩悩と戦っていた。

 分かりやすくて、思わず苦笑いするが、このイケオジは、どんなに誘ってみようかと思っていても、そんな時に限って距離をおき、俺の心を察しているようだった。本当に、頑固一徹だ。

「ミハル様。そろそろ、試されてみては?」

 司祭のシドルが、声をかけてくる。

「うん、そうするよ。」

 俺は、教会に伝えられている古い書物から、緑魔道士の精霊召喚の事について学んでいた。始めは、この世界の文書が読めるのか不安になったけど、なんと、日本語に変換されて、文書が読めていた。これは、いわゆるチートスキルなのでは?と嬉しくなった。

 書物に書かれていたのは、その地の精霊の形を、イメージする事だった。

 俺は、シドルと共に庭先に行き、緑の草や風を感じて、目を閉じ頭の中で、この教会の庭先にいるであろう精霊の形をイメージした。

「フー…。」

『…緑。風。教会…。』

 すると、様々な小さな光が集まってくるが、なかなか1つにまとまることが無く、小さな笑い声だけが響く。そして、まとまりそうになると、弾けてしまった。

「くはっ!」

 俺は、中々精霊の形がイメージ出来ずに、集中力を途切れさせてしまう。これが、なかなか体力のいる魔法で、1日に2回が限界だ。

「だ、駄目だぁ〜!」

 俺は、その場に座り込む。体中、汗が吹き出ている。

「ふむ。ですが、何匹かの精霊は来ておりましたぞ。」

 シドルが、顎の髭を撫でる。

 俺は、頭を抱えた。1つ、気にかかる事があったからだ。

「う〜ん。やっぱり、あの解読不可能な文書に書かれていた、"召喚する際の条件"が足りないからかなぁ?」

「条件…ですか?」

「ああ。その部分が、虫に食われていて、穴が空いていたんだ。おかげで、解読不可能なんだ。」

 俺は、クソッと頭をかく。

「ふむ。それでは、例えばですぞ。他の魔道書が、参考になったりしませんかなぁ?」

 シドルの的確な案に、俺は食いつく。

「それだ!片っ端から、他の魔道書を読んでみるよ!」

『これは、徹夜決定かな。』

 街中に、兵士たちが俺たちを探していることを知り、俺は一刻でも早く魔法を獲得しなくてはいけなかった。アクサル王は、もう俺のことを捨て駒にしたくせに、今更なぜ必死に探さしているのか、不思議に思っていた。

「用無しだ。好きにすれば良い。」

 アクサル王が、ミュンヘンに言っていた言葉が頭をよぎり、怒りが込み上げてくる。

『今更、なんの用があるって言うんだぁ?用無しになって、俺を牢屋にぶち込んだくせに!』

 俺は、止め止め!とアクサル王の事を打ち消した。

 魅惑の魔法の効果がようやく切れて、俺は未練が無くなりつつあった。だが、1つあるとすると、人間には仕方のない、性欲だ。こればかりは、まだ育ち盛りの俺にはどうしようもなかった。何度か、アクサル王との閨のことを思い出しては、勃起してしまい、1人淋しく後始末をしている。

 その為、この目の前にいるイケオジのガッセをモノにして、処理を手伝ってもらいたいのだが、これがなかなか手強く、気配を察した隙に逃げるのだ。堅物すぎるにも、ほどがある。

『大体、俺の事を慕っているって、自分から言ったじゃないか!』

 俺が、ガッセを睨みつけると、ガッセはビクッと動きを止めて、逃げようと構える。

「言葉にして言わないと、相手にしないのかぁ!?」

 大声で騒ぐと、ガッセはそそくさと退散する。まったく、困り果てたものだ。

 俺達のやりとりを見ていて、シドルは、ホホッと笑顔を見せている。

            ※

 シドルに持ってきてもらった、魔道書&魔法の使い方初心者向の書物を開く。初めは、やはり初心者向書物からだな、と軽く開く。すると…。

「魔法使いに必要な事は、イメージ、集中、煩悩を断ち切ること…。煩悩…?そんなん、無理に決まってるじゃねぇか!人間は、煩悩だらけだぞ!?」

『それに、今の俺は、あのイケオジの存在の事で、邪念のような、欲求が溜まりまくり、煩悩だらけだ。つまり、あいつの存在が、妨げになってるんじゃねぇか!?』

 俺は、本を思い切り、バタン!と閉じ、頭を抱える。

「つまりは、ガッセを攻略して、俺の欲求が発散できれば…!いやいや、あいつ、そう言う気配に敏感すぎて、直ぐに逃げやがるじゃねぇかぁ!って言うか、俺は、あいつの事をどう思ってるんだ!?欲求発散の対象?それじゃあ、ただの獣みたいじゃないか!」

 俺は、顔を赤くして、ガッセの事を考える。

「そもそも、俺って、ガッセのこと好きなのかぁ?そりゃあ、良い体格してて、カッコイイとは思っているが…。好きの種類が違う…?そもそも、俺ってイケオジに好きになったのって、ごく最近だぞ!」

 初っ端からの壁が、俺の前に現れ、俺は一睡も出来なかった。


 朝になり、シドルが用意してくれた、食事をつつく。教会だけあって、肉無しの大豆の料理やら、野菜のスープなど。唯一、パンがあるのは有り難かった。

 俺は、皿に数個しかない豆の1つをフォークを指して、目の前で食べているガッセになげる。

「なぁ。お前って、俺のこと名前で呼んだことないよな。」

 俺の質問に、ガッセは、固まる。

 今は、食事時。途中で席を立つのは、マナー違反だ。

「俺の事、ミハルって呼べよ。」

「は、はあ…。」

 明らかに、動揺している。

「ほら!さん、はい!」

 ガッセは、目を泳がせながら、小さく呟く。

「そ、その…。み、ミハル…様。」

 俺は、ガッセの様子に、ため息を吐く。

「俺の事、慕っているなんて、嘘だろ?」

 そう言うと、ガッセはテーブルを両手で叩く。

「嘘ではありません!とても、お慕いしております!」

 ガッセは、真っ直ぐな眼差しで俺を見る。

「それって、好きってこと?それとも、違う意味?」

「そ、それは…!貴方様を、お美しいと、一目惚れいたしまして…。それで、お側にこの肉体が滅びるまで、共に居たいと…!」

 俺は、眉間にシワを寄せる。

「それって、侍従関係ってこと?」

 ガッセは、うっ、と唸る。

「お恥ずかしい話しですが、貴方を見ていると、俺のタガが外れそうで…、それで…。きっと、抑えが利かなくなってしまいます!」

「…つまりは、お前も欲求を我慢していたってこと!?」

 ガッセは、赤い顔をして、頷く。

 それを聞いて、俺はどうしようもない嬉しさに、真っ赤になった顔を両手で隠す。

『ヤベッ!嬉しい…!』

「じゃあ、俺の事を避けてたのは、単なる自制?」

「っ…。はい、そうです。」

『これって、両想いってこと!?』

 俺は、嬉しくなり、早速提案した。

「実は、俺は今とても困っているんだ。魔法の基本が書かれてあって、その1つに、煩悩を無くせと…。俺、やっぱりガッセの事が好きみたいだ…!あんたと、閨を共にしたい!そうすれば、煩悩が無くなって、召喚魔法を成功させる可能性が高まると思うんだ!」

「閨を…!?」

 ガッセは、赤くなって口元を押さえる。

「俺の事を思って、協力してくれないか!?」

 ガッセには、直球でないと伝わらない事が分かっているため、俺は、ストレートに伝えた。俺から、誘うなんて、恥ずかしいに決まっている。だが、ガッセの真意を知りたかった。

「…承知いたしました。うまく、やれるかわかりませんが…。」

「俺に、任せて!閨なら、何度も経験したから!」

 言った後に、苦い思い出をまた思い出てしまった。

「ならば、今晩貴方の…。いや、ミハル様の部屋を訪ねます。」

 俺は、パアッと満面の笑みを浮かべた。

「うん、待ってる!」

 念願のイケオジとの思いが通じた事で、俺は今晩を待ち遠しく思っていた。

 風呂場で、鼻歌を歌いながら身体を綺麗にして、部屋でガッセを待ち遠しく思って、ベッドの上に座っていた。

 だが、思わぬ出来事が起きるのである。


 どこからか、焦げ臭い臭いがしてくる。

「な、なんだ?」

 すると、シドルが大声をあげて、ドアを開けて来た。

「今すぐに、お逃げください!教会が、アカサル王の兵士によって、火を放たれ、火の海です!」

「なんだって!?ガッセは?」

 すると、煙に巻かれて、なんとか部屋にたどり着いたらしく、むせながら入ってくる。

「ミハル様、シドル様が裏手に小舟を用意してくたまさっています!すぐに、ここを離れましょう!」

「え!まだ、魔道書を読み終えてないのに!」

 俺は、ガッカリする。

「ご心配なさらず。ちゃんと、舟に積んであります。まあ、全てというわけにはいきませんでしたが。」

「あんたはどうするんだ、シドル?」

 シドルは、ニッコリ笑って見せた。

「青魔道士の私は、この地の加護を受けております。なので、離れる訳にはいかないのです。」

 それを聞いて、俺はシドルを抱きしめる。

「そうか。とても、世話になったよシドル。どうか、死なないで…!」

「ありがとうございます。」

 シドルも、俺の背中に手を回してハグしてきた。

「お互い、ご縁がありましたら、またお会いいたしましょう!」

「ああ!」

 俺は、ガッセと共に小舟に乗り、燃えている教会を眺めながら、後にするのだった。

『シドルは、本当に大丈夫だろうか?兵士たちの声が、聞こえてくる。』

「炙り出し、精者を捕まえるのだ!」

「おい、教会から誰か出てきたぞ!」

 その言葉に、ドクンと心臓が跳ね上がる。

「シドル…!?」

 思わず、体を浮かせるが、ガッセが制する。

「大丈夫です。司祭様を、信じましょう!」

 ガッセが、冷静に言う。

 俺は、2度目の脱走を試みるのだった。







 一晩経ち、俺はガッセと街外れの森の中の樹の幹で朝を迎えた。

 寒さで身震いすると、ガッセが前を肌けた状態で、俺の体を抱きしめて温めてくれた。

「…温かい。ありがとう。」

 俺は、逞しいイケオジの硬くて温かい肌に顔を埋めた。」

 街中が見渡せるその場からは、教会があった位置からの煙が見えていた。

「ミハル様。これから、追っ手が来る前に、国外に逃亡いたしましょう。」

 思い切ったガッセの提案に、俺は頷く。

「ガッセが居るなら、どこでも行くよ!」

 ガッセは、微笑んで強く抱き返してくれる。

「はい。必ず、お守りいたします!」


 2人の逃亡生活が、始まろうとしていた。だが、様々な試練も待っているのだった。

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