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四章 この異世界を学ぶ

「こやつ、いかがなさいますか?」

「すでに、用無し。好きに使うがよい。」

「よろしいのですか?それにしても、死に絶えるまで絞り尽くさなかった事が、驚きです。」

「フッ。せめてもの情け、と言うやつじゃ。それにしても、この魔法はまだ解けぬのか?まるで、本気で好きになっているようで、気色が悪い。」

「数日、距離を置けば、次第に薄れていくかと。」

「なんとも、厄介な魔法だな。」

 目を瞑っていると、頭の中で、2人の会話が入ってきた。それは、アクサル王とミュンヘンの声だった。

「アクサル様…!?」

 俺は、声をあげて目を覚ました。


 目を覚ますと、俺はベッドに横になっていて、アクサル王とミュンヘンの姿はなかった。

 しかし、1人の男の姿があった。

「あ!ようやく、お目覚めですか!だから、アクサル様は恐ろしい方だとご忠告さしあげたのに!」

 そこに居たのは、赤魔道士のハンスだった。

「おい、水と食料をお持ちしろ!」

「はい!」

 宮女は、急いで取りに行った。

「…ハンス。俺…、一体…?」

「気を失われてから、1週間お目覚めにならなかったのです。その間、白魔道士を呼び、回復魔法をかけてもらうために、牢屋からお連れしたのですよ。あの王が、命を取らなかっただけ、運が良かったと思ってください。」

 ハンスの言葉を聞いて、俺はまだアクサル王に会いたいと思っているこの厄介な魔法を肌で感じ、笑いながら涙を流した。

「…そっか。俺、また…、使い捨てにされていたのか…。」

 元の世界でも、異世界でも、俺は使い捨てでしかない事を知り、情けなくなる。

「お気を確かに!この私が、お助けいたします!」

 言いながら、左手を握ってくる。

「お持ちいたしました!」

 宮女が、水と食料を持って来ると、ハンスは動けない俺の身体を支えながら起こして、水を飲ませてくる。

「グフッ!ゲホゲホ!」

 むせる俺の背中を、優しくさする。

「ゆっくり、お飲みください。もう、何日も口にされていませんので。」

 言いながら、水と食料を少しずつ口に入れてくれた。

「お元気になるまで、私が看病いたします。」

 正直、もう誰も信じる事が出来なかった。だから、誰でも良いや、と任せることにした。


 ハンスに、看病してもらっている間、陰からガッセがまだ見張りをしていた。

「…ねえ。なんで、まだガッセが側に居るの?俺、用無しなんでしょ?」

 ハンスに聞くと、苦笑いして…。

「本人に聞いてください。」

 ハンスが手招きすると、今まで微動だにしなかったガッセが、サッサと中に入って目の前で膝を折る。

「私は、王の命でお側に仕えていました。ですが、貴方様をお慕い申し上げております。そのため、これからもお側に仕えさせていただくことを、お許しください!」

『直球〜!』

 俺は、思わず苦笑いする。

「こやつは、バカ正直者なのです。なので、お許しください。曲ったことが嫌いな堅物ですが、剣士としての腕は、本物ですので、ご安心ください。」

 ハンスは、ため息を吐く。

「か、構わないよ。よろしく、ガッセ。」

「はっ!ありがたき幸せ!」

 ガッセは、頭を下げる。

「そう言えば、だいぶ日にちが経ったけど、俺にかけられた魔法って、薄れてるんだよね?」

「はい。魅惑の魔法は、互いに距離を置いて、時間が経てば、薄れていきます。どうです、まだ王の事を思っていらっしゃいますか?」

 俺は、目を閉じて身体の感覚やら、頭で考える。

「う〜ん。前ほどではないけど、何回も身体を触られたからかな。まだ、ちょっとズキンと胸が痛くなって、会いたくなっちゃうかな…?」

 ハンスは、はて?と顎に手を当てる。

「ズキンと痛くなると?欲求が、まだ残っているのでしょうか?」

 言いながら、ハンスは俺の顔に手を当てた。

「な、何…!?」

「何も、感じませんか?」

「はあ?…べ、別に。」

 すると、ハンスは首に手を当ててくる。

 俺は、ビクッと少し反応する。

「ちょっ、何…!?」

 俺が、急いでハンスの手をどけると、ハンスは笑い声をあげる。

「これは、失礼!まだ、魔法の効果が残っているようですね。」

『わざとらしい!』

 俺は、フンッとハンスが触った首に手を当てる。

            ※

 しばらく、ハンスに世話になり、体力も戻ってきた。

「だいぶ、お元気になりましたね。何か、なさりたいことはありますか?」

「そりゃね。この世界、"サフラ"だっけ?の事も知りたいし、俺も他に魔法とか使えないかとか、試してみたい!」

「なるほど、とてもよろしいことですね!ならば、司祭様をお呼びいたしましょう。サフラの事も、全て教えてくださいますし、どの魔法に適しているのかも、お調べになってくださいます。」

『司祭って、本当にゲームの世界だよなぁ。』

 そんなことを考えながら、肝心な事を言い忘れていた。

「そうだ!煙草、出してくれない?」

「煙草?…はて、もしや、中庭で口にしてらした物でしょうか?」

「そう!それそれ!」

 ハンスは、う〜んと悩んだ後、妥協した。

「あれは、有害なものだと思われますが、貴方様の願いならば、仕方がありませんね。」

「サンキュ〜!」

 俺は、久々の煙草を口にした。本当ならば、このまま止めてしまうのが正解なのだが、目的もないので、気晴らしぐらいはしたいと思っていた。

「はぁ〜…、最高〜!」

 そんな、俺の顔を見て、ハンスは一言声をかける。

「では、司祭様を手配いたしますので、それまで、お楽しみください。」

「分かったよ。」

 ハンスが居なくなり、俺は、ようやく一息ついた。

「あ〜あ。やっぱり、完全にあいつを信じる事なんか出来ねぇな。含みのある態度を撮ってくるし、良い人ですよアピール全開。歳をとると、そんな風になっちゃうのかぁ…。」

 煙草をふかしながら、まだ30歳にもなっていない自分が、まだ経験不足な事を思い知らされる。

『まずは、この世界の事を知る事からだな!』

 俺は、ターニングポイントだと言うことを自覚し、目標探しから始めることにした。

            ※

 次の日。早速、司祭様が城に来てくれて、俺に"サフラ"の授業をしてくれることになった。場所は、庭先のテーブルだ。

「この世界サフラは、剣士と魔法使い、錬金術師の居る世界です。魔法使いと言っても、一括りにしているだけで、色別の能力に別れています。白魔道士、黒魔道士、赤魔道士、青魔道士。そして、まれに緑魔道士が出現します。されど、そのどれにも属さない人間は、剣士の道を選びます。白魔道士は、貴方様を治癒した通りに、治癒する魔法を使い、黒魔道士は、アクサル王様のように、攻撃的な魔法を使います。赤魔道士は、自分の血脈を使った魔法を使い、貴方様を召喚した時に、自分の血を使って異世界から特殊に異世界人を呼び出します。ハンスが、その役割りを担っています。そして、緑魔道士は、伝承でしか書き知らされていないのですが、選ばれた者が、その地に住む精霊を召喚することが出来ると言われています。」

「ふ〜ん。なるほど…。人間以外に、種族は居ないの?」

 俺の質問に、司祭様はドキッとして、緊張感が走る。そして、少し間を置いてから、話をする。

「…居るのではありますが…。その人種は、滅多に口にすることが出来ないのです。ただ、一言言うならば、人間が闇の中に堕ちた人種の事です。」

「ふ〜ん。それって、魔族、とか…?」

 俺が言うと、司祭様は、青い顔をして立ち上がり、口に手を当てて、声を潜める。そして、側で聞いていたガッセも、青い顔をして、背中の剣に手をかける。

「滅多な事を口にしてはなりません!それは、人間がなってはいけない者なのです!口にしただけでも呪われてしまいますぞ!!」

「そ、そうなのか。分かったよ。」

 司祭様は、冷や汗を拭きながら、座った。

「と、ともかく、その人種は、人間が闇堕ちした自体の者です。もしも、出会ってしまったら、直ぐに逃げて、関わってはいけません!」

 言いながら、司祭様は俺の側に来て、耳打ちする。

「この国のアクサル王様も、闇堕ちするのではないかと、周囲に囁かれているのですが、口外無用ですぞ!」

 司祭様の言葉に、俺は、頷く。

『十分にあり得る話しだよなぁ。人を平気で使い捨てにするし…。』

 俺は、ため息を1つついた。

「では、あなたが一体どんな適性の魔法を使えるのか。これは、硝子の花瓶に水を張り、この私が持ってきた由緒正しい聖水を混ぜて調べます。ここに、貴方様の血を一滴たらしてください。」

「…なるほど。」

 話しを聞いていたガッセが、側に来て、俺に小刀を渡してくれる。

 俺は、左手の薬指を少し切り、花瓶に落とす。すると、多種多様な色に変化したかと思うと、緑の色になった。

「な、なんと!緑魔道士…!」

 司祭様は、驚きの声をあげる。

『ああ。まれにって言ってたやつか。』

 と、俺は、あっけらかんとしていたが、司祭様は、急いで花瓶を割る。

「へっ…?一体…。」

「貴方様の能力、アクサル王様に知られない方が身のためっ…!」

 言い終わる前に、司祭様は赤い服の男に背後から刺された。

「うぐっ…!」

「は、ハンス…!?」

 ハンスは、赤い刃を突き立てて、司祭様を刺した。

「ご苦労だった、司祭殿。」

 司祭様は、その場に倒れ、ハンスの服の裾を掴む。

「お、お主。闇堕ちを…するぞ!」

「司祭様…!」

 俺は、直ぐに自分の血を司祭様に飲ませようとするが、ハンスが行く手を阻む。

 ハンスは、フンッと笑って、俺の方に顔を向けてくる。俺の前には、ガッセが立ち、剣を抜いていた。

「さて、精者様が精霊使いだったとは、なんと貴重なお人でしょう!この事を知れば、アクサル王がどの様な待遇をとられるか。直ぐにお知らせせねばならないが、正直あの王を早く失脚させたい!」

「な、なんだと!?」

 俺は、なんの提示をしてくるのか、ハンスの様子を伺った。

「精者様。この事は、この場に居る3人の内緒ということにいたしませんか?」

「一体、何が言いたい!?」

ハンスは、また不敵な笑みを浮かべる。

「貴方様は、その血で司祭様をお助けすることが出来る。だが、1つ私の望みを聞いていただきたい。」

『嫌な予感はしていたが、ハンスの化けの皮がようやく剥がれた。』

「…望みとは、なんだ?」

「奴の言葉を聞いてはいけません!」

 珍しく、ガッセが声を荒げる。

「相手になるのか、ガッセよ?」

 ハンスは、ガッセを挑発する。

 すると、ガッセは瞬時にハンスを剣で吹き飛ばした。

 一瞬の事で、俺はあっけにとられる。剣士として一流だと言うのは、本当だった。

「今のうちに、司祭様、俺の血を飲んでください!」

 司祭様は、項垂れて俺の血を飲み込む。すると、身体が光って、傷口が塞がっていった。

「…こ、これは…!神の御業!?」

 俺は、苦笑いする。

「ちゃんとした、人間の血ですよ。」

「おお!貴方様は、選ばれた唯一の人物だぁ!」

 司祭様は、俺の両手を掴んで涙する。

「貴方様は、神に選ばれた御方だぁ!」

「あ…あはは。」

 まるで、信者が出来たかのような気分になっていたが、ガッセが、ハンスと激しい戦いを繰り広げていた。戦況は、やはりガッセが上をいっている。華麗な二刀流を目にして、俺は思わずこのオヤジにトキメイてしまう。

『二刀流なんて、なんでこんなにカッコイイんだ!反則だろぉ〜!』

 二刀流は、RPGにおいて、欠かせない素晴らしいスキルだ。まして、こんなイケオジが戦っているなんて、活かしすぎている!

 一方、ハンスは自分の血で剣を召喚して、防戦一方だ。ハンスも、普段大人しいガッセが、こんなに強いことなど知らなかったようで、苦戦している。

「司祭様、さあ、今のうちに逃げましょう!ガッセ、後から来られるか?」

「問題ありません!」

 戦いの最中にも関わらず、ガッセは一言言うと、更にハンスをたたみかけた。その隙に、俺と司祭様は、城を抜け出すことにした。






「抜け道は、こちらです!」

 司祭様は、城の裏手に行き、小川に止めてあった小舟に案内する。

「ああ。」

 俺は、初めて城の外壁を目の当たりにして、心が踊った。

 しばらく経つと、ガッセが姿を現して、動き出した小舟に飛び乗った。

「始末したのか?」

「致命傷だけ。俺は、闇堕ちをしたくないので。」

 闇堕ちとは、無駄な殺生をする事なのだと、なんとなくの感覚で理解した。

「貴方様は、私の隠し部屋に身を置いた方がよろしいでしょう。まだ、魔法の使い方を学ばなくてはなりませんからな。」

 俺は、頷く。

『そう、俺は緑魔道士の魔法を学ばなくてはいけなくなったんだ!』

 1つの目標が出来て、俺は何故か心から光りを感じ、やっと解放されたのだと、心からの笑みを浮かべた。

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