第二話 過去との出逢い初め
トオルは遠路遥々、かの地コースタティアにやってきた
ここは唯一の世界交易中枢地区である
「やっと着いたな、予定よりも早くなってしまった」
「そうみたいね」
声が増えている
「ここがコースタティアだ」
「海がめっちゃきれい!」
獣人の女だ、なかなか豊満でナイスガイなやつだ
道行く先で出会った、というところか
一一一一一
「ここ最近の天気は素晴らしい、絶好日和だ」
住みかから出て数日は歩いたところか、トオルは天気の運に恵まれてスルスルと予定が進んでいる
例の霊石と目覚まし時計も持ってきている
目覚まし時計は様態が変わって数字の1が刻まれている
「ここらで一息つくか、途中で調理したラザニアで腹満たしますかな」
トオルの料理は絶品だ
口が爆散的にとろけるはずである
「くんかくんか」
「ん? くんか? 気のせいかな」
背後から声がした
だが振り返ってみても誰もいない
「あ、手に持ってたラザニアがない」
前に振り返った瞬間手には何もなかった
隣で咀嚼音がする
「、、うま!」
「何食ってんだよ、それ我輩のだよ」
トオルは恐怖と同時に怒りした
見たところ獣人の女というところか
「これめっちゃうまい! やるぅー!」
「え?」
トオルは自分の料理に評価されたことがなかったため、赤面した
勝手に食われたことは、ド忘れしている
「いい食べっぷりじゃないか、お前」
「もっとないの、これ!」
食い意地はすごい女だ、トオルのことを食べるかもしれない
「ないが、サンドイッチならあるぞ」
「んー、いらなー」
なんと図々しい女だ、勝手に食い散らかしておいて軽くあしらうとは
だがトオルは怒らなかった
「お前、獣人族なのか? なんでこんなとこにいる」
獣人は遥か彼方 北の地 サムインデーランドにいるはずだ
「私? あー追い出されちゃって、適当にブラついてたら迷ってここまで来ちゃった」
「こっからお前の地元まで歩いて数ヶ月はかかるぞ、結構歩いたなお前」
「そりゃ獣人だからね」
獣人の生命力は人族のそれとは比べ物にならない
数ヶ月かかる距離も数日で渡っていく
「そういえば、名前は?」
「テシルだよ」
「テシル、か、よろしくな、俺はトオル」
「うん、よろしくトオル」
獣人の女の名前を聞き出せたところでトオルは
立ち上がる
次なる歩みに向かって
「お前、浮浪者なんだろ?ついてくるか?」
「私?いや、いいよいいよ ここら辺で適当にブラついとくから」
「あいわかった」
トオルはテシルに別れを告げ
東へとまた歩く
、、一時間歩いたところか、トオルは立ち止まる
「んー背中がむず痒い」
激しい痒みに襲われているトオルである
(後ろから気配がするな、、)
背中をむしがいてると気配がしたので振り返った
そこにいたのは獣人のテシルだった
「おい、そんなところ突っ立ってないで来るならついてこいよ」
トオルは背中の痒みなんて忘れて、女に叫びかけていた
「やっぱり、誰かといた方が安心するのよ、だから着いてきちゃったわけ」
「そういうことか」
トオルも同じ心境だった、誰かそばにほしかった
彼らは出会って間もないお互いのことを親しく感じていた
「トオルは親とか、兄弟いないの?」
「いないな、親は早死にした」
「ふーん、そうなんだ」
「お前は家族がいるのか?」
「いたけど勘当されちゃって」
テシルはどうやら親と不和を起こしたようだ
「獣人にもいろいろあるんだな」
「いいよ私の起こしたことだし私の責任だから」
「事情は知らないし突っ込みたくもないが、あまり自分を責めるなよ、今だけ見ていろ」
この世にもし、こんなことがあったら、と過去へ希望をこぼすことは無意味ということか
トオルは案外楽観的で、達観的だ
「ありがと」
そして段々と彼らは東の地に向かっていき
ようやく着き今に至る
「ここがコースタティアだ」
「海がめっちゃきれー!」
コースタティアは海を持って帰りたくなる眺めをしている
今日は曇りなく更に景色がいい
「俺は、ここらでやることをやってくる」
「はーい、私適当にぶらぶらしとくー」
彼らは一旦離れて散策を始めた
順調に進んでいくトオルに対し、ブラついていたら曲者と出会ってしまったテシル
「イタッ」
肩をぶつけてしまったようだ
かなりの大男だ、黒い艶肌に樽爆弾のような
「あ、ごめんなさい」
「ちょっとまてや、あんちゃん」
テシル、存亡の危機である
第二話 終