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ー2ー

 アーケードの中は見た目や声量から想像するよりも人…というか2足歩行の生き物が少なく、売っているものも「The温泉の売店」と言った感じだった。歩いている(実際には歩いているというより浮いている生き物が多かったがここでは便宜上歩いていると表現する)生き物はほとんど皆着物を着ておりわずかに湯気も出ている。きっと温泉でゆっくりして来たのだろう。たまには温泉に行ってゆったりするのもいいかもしれない。夢から覚めてもう一回寝たら温泉に行こう。きっといい息抜きになる。そんな事を考えながらぶらぶらとアーケードを進むと視界の隅に鮮やかな赤いいちご飴が映った。丁度甘いものが欲しかったのだ。お金…どうすればいいのだろう。ここはきっと夢の中なのだから店員さんに話しかければどうにかしてくれるかもしれない。けど、だとしてもお金を払わなければ物は買えないというのは常識だし、仮にここが夢じゃなかったとしたら…。そんな誠の葛藤を知ってか知らずか店番をしているのであろう人間(誠から見てそう見えた。)が声をかけてくれた。

「あんさん、今お一人かい?」

「あ…うん、ひとり…です。」

少し緊張しながらも答えられたことにホッとする。ここ3日ほど人と話す事をしていなかったため話し方を忘れていないか心配だったのだ。優しそうなおばちゃんの様な見た目をした生き物でよかった。

「あの、ここってどこかわかりますか…?さっきまで違う場所にいたはずなんだけど、気づいたらここにいて…」

「おや…?あんさんよく見たら人間かい?というか生霊じゃないか」

無言の時が流れる事約8秒。完全に現実逃避していたのである。生霊も現実逃避とかすんのかなぁと思いながら。

「…い、おい、大丈夫かい?いちご飴でも食べてくかい、サービスするよ」

「は、え…生霊?ってえっとい、生きたまま未練があったとかなんとかで生きてる人間が魂になったやつ…?」

「そうさい、それ以外何があるっちゅうねん。あんさんそれ知らないままこっち来たんかい?まぁそういうやつもよくいるっちゃあいるがな。それでいちご飴は?甘い物好きじゃないのかい?」

ありがたくいちご飴は頂くことにし、誠は思考を巡らせる。

「つまり僕は幽体離脱した…と…え!?そんなことある!?勉強してただけなのに!?」

やはり糖分は世界を救うらしい。冷静に頭をフル回転させることができた様だ。それにしても幽体離脱したとは不思議である。日本で初めて幽体離脱をしたという夏目漱石もこんな感じだったのかな、と思いつつ改めて自分の体を見た。特に変わった事はないけど…ちょっと体がスッキリした…と感じるくらいだろうか。

「ま、それが相当なストレスだったんちゃうか?それよりどうするつもりだい、こっから。折角来たんだし生きている人間が望んでこれる場所でもないのだから、ここ守霊街を満喫したらどうだい?いいとこだよ。」

「しゅれいがい…」

「そうさぁ、霊を守る街とかいて守霊街。黄泉の国の一歩手前にあるこっちじゃ有名な温泉街でなぁ。ちょくちょく魂になられた方やたまに神様もいらしてねぇ。ま、娯楽が少ないこっちじゃあ一ヶ所に集まるのも無理はないわなぁ」

こっちってどっちだよ。と突っ込みたかった誠であったが聞いてしまっては後戻りができない気がしたのでやめておく。

「ここはねぇ、独立した場所なんだよ、厳しい霊界の中でもね。だからいつもは監視付きの霊や妖怪もここだけはそれが外れるんだ。それを良い事に悪戯する奴ら…?そんな命知らずな奴はぁいないさぁ。なんてったってここは狐狗狸先生の管理下であるからねぇ、ま、命なんぞここに来るやつぁ持っとらんがなぁ。はっはっは!」

ご丁寧に説明された。霊界ジョークも含め聞きたくなかった事実に撃沈する誠をお構いなしにおばちゃんは笑い続ける。笑いがおさまったところでようやく誠も頭の整理が追いつき復活したため質問を続ける。

「狐狗狸先生…?それって狐狗狸さん?10円玉乗せる、あの?」

「ああ、そうだよ。あんさんの世界でも有名なんか、ま、そうじゃろうなぁ。こんだけの場所をお一人様で仕切ってお偉いさん方の信頼も買っているんだからなぁ。ちゅうか乗せるって言い方はちょいと感心せんの、あれは立派なお代じゃ。渡す言わんと。」

「お代って…なんの?」

「あんさん知っとるのは名前と10円って…そういうのをにわかって言うんじゃないのかい?いいかい、よくお聞き。あ元の世界に戻れる方法を知りたくはないかい?」

思っても見なかった提案だ。まさか帰りたがっていると言うことが通じるなんて。実のところ誠はさっきから器用にも立ちながら貧乏ゆすりをしていたのだが本人はそのことに気づかない。

「知りたいです。」

馬鹿にしているのはむっとしたが素直に頷く。話が面倒になるのはわかっていたからだ。帰って早く寝たい。

「まずはポケットを探ってみな。」

何も入っていないはずだけどと思いつつ言われた通りズボンのポケットに手を突っ込んだ。

「え、10円玉、なんであんの?」

「おや、本当にあるんか。」

説明主が知らなかったんかい。と心の中で静かに突っ込む誠であった。それにしても、このポケットただの飾りでデザインだったはずなんだけどなぁ…ポケットとして機能せず穴はなかったはず…。と思いつつも今、自分の状況を完全に理解した彼はもはや無敵だったため気にしないことにした。

「まぁいい、そしたら49番通りにの突き当たりに行ってごらん。」

「えっと、どこですか?僕今日ここに来たばっかなんだけど…」

「だからゆっくりしていけと言っているのに…。」

よくわからない理論がすぎる。こういうのを脊髄トークっていうんだな、動画で見た。

「あんさん、狸と狗と狐、どれ派かい?」

「ええ…?狸と狗と狐…?まぁ狗派だけど、ここは猫犬じゃないの?しかも選択肢一個多くない?」

「全く質問が多いねぇ、疑問符愛好家かい?ここではこの3択が主流じゃよい。まあいい、お狗様についていきなさい。狐狗狸先生のところへ行きたいと言えばきっと案内してくれるさ。」

「質問ばかりでごめんなさい、その狗ってどこに?」

「ちょっとは周りを見渡さんか、若造。後ろにいるだろうがよ」

「え…?」

そう言われて誠は辺りを見渡した。一見目立ったものは何もない様に見えた。が、背景であったアーケードの一部が溶け出し狗の様な人の様な形に変化していった。

「っわ!?」

その少女の面影を残した(?)狗は誠の前に立つ。

「…おまえ、イキリョウ?」

「お狗様、お久しぶりですの。」

「うむ、こいつは?」

「おそらく生霊で間違いんじゃないかい?常世から紛れ込んだものだと思いますねぇ。おい若造、このお方がお狗様じゃい、挨拶せい。」

「あ、こんにちは。えっと…よろしくお願いします?」

「うむ。」

挨拶がお気に召した様だ。

「おまえ、見たことある。」

「へ?」

僕は知りませんと言おうとした誠だが、おばちゃんに目で圧をかけられていることを察したため、黙り込む。

「ちなみにあんさん、わしはおばちゃんではなくお姉さんだからな!」

なんと。心が読まれていたらしい。千里眼持ちなのか、このお姉さん。

「うむ…おまえ、われの使いをなでてた。ずるい。」

「撫でる…?使い?」

「おそらく常世の狗のことでしょうな。其奴らは全員お狗様の使いなのだよ。間接的ではあるがな。」

どうやらお隣さんが飼っている茶々丸のことらしいと思い至った彼は1人で頷く。

「ちがう!チョクセツテキではある!われの使いなのだ!お前、そういうこという、たすけない!」

お姉さんのせいでこっちまで巻き込まれるのはいい迷惑だ。それにお狗様の機嫌を損ねるのはまずいのだろう。事実彼女も蒼い顔をしている。

「ご、ごめん。えっと…あ、いちご飴!甘いものは好き?うん、好きだよね!はい、これあげる!」

そう言って店先に刺してあるいちご飴の中から1本を取り出しお狗様に渡し、ついでに頭を撫でる。お姉さんは勝手に色々やるなという意味で視線を向けようとしたもののそれしか目の前にいる般若を鎮める方法が無いと悟り静かに息を吐いた。

「うむ…わるくない味だ!頭も…ちょっとくすぐったいが許す!」

「お気に召した様でなによりです。」

威張ってはいるが同じいちご飴色の目のキラキラは隠しきれないお狗様。尻尾であろうものも揺れている。先ほどずるいと言っていたのだからきっと頭を撫でてもらうのは狗として嬉しいのだろうと思ったがどうやら当たりらしい。微笑ましく思いながら横目でお姉さんを見ると胸を撫で下ろしていた。そちらも何よりである。

「うむ!お前のリョーシンに免じてさっきのぶれいは許そう!」

「よかった!それで、お狗様ちょっとお願いがあるんだけど…」

いちご飴で上機嫌なお狗様に視線を合わせるため屈みながら聞く。(お狗様は100cmくらいしか身長がなかったのだ。)

「われになんのようだ?」

「僕を狐狗狸先生のところへ連れて行って欲しいんだ。」

「あるじのとこ?いいだろう!だが、その前にこの赤いくしざしをもっといっぱいくれ!もちかえる!」

「おや…?それは構いませんが…あまり長持ちするものでもないからねぇ、また来られたら如何ですかい?」

「あるじがご機嫌ななめなのだ…お気に入りの饅頭、食べきっちゃったから…あるじはあまいものをもとめてる…」

どうやら狐狗狸先生はかなりの甘党みたいだ。

「ううう…あるじがご機嫌ななめだと月が落ちてくる…」

「「…」」

それはかなりの大惨事だ。やはり糖分は世界を(常世以外も含めて)救うらしい。

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