試練の戦い
---
アカデミーでの日々は容赦なく過ぎていった。
そして、ついにその日がやって来た。
――魔法試験、学生たちの魔力を試す戦いの場。
Ellionは広大なアリーナの中央に立っていた。
足取りは重いが、視線は静かに前を見据えている。
彼は競争に興味がなかった。
だが、今回は逃げることはできない。
向かい側には、貴族の少年、Miwa Lucienが立っていた。
青いローブが煌めき、彼の周囲には水の魔力が穏やかに渦巻いている。
「チッ……相手はあの子か？ ふん、こんなの試合にもならないな」
Miwaは軽蔑の笑みを浮かべた。
観客たちはざわめき、誰もが勝者を予想していた。
ゴォン――
開始の鐘が鳴り響く。
Miwaは素早く動いた。
水の魔法が大きな渦となり、Ellionに向かって放たれる。
ドォォォン！
爆音が響き渡る。
Ellionは息を呑み、手を掲げた。
基本的な防御魔法が彼の前に展開され、攻撃を受け止める。
しかし、彼の体は数歩後退し、手は震えていた。
指先に冷たさが走る。
Miwaの魔力は予想以上に強力だった。
Miwaは攻撃の手を緩めない。
優雅な動きで、水の矢を無数に生み出し、Ellionに向けて放つ。
Ellionは素早く横に跳び、攻撃をかわす。
一つ一つの動きは正確だが、彼の顔色は次第に青ざめていった。
彼にできることは、ただ耐えることだけだった。
耐えて……そして、また耐える。
Miwaは苛立ちを隠せない。
「ふざけるな、下賤な者め！ 防御ばかりで俺を侮辱する気か？ そんな小手先の技で俺に勝てると思うな！」
彼の目には怒りと、貴族としてのプライドが傷つけられた苛立ちが浮かんでいた。
Ellionはその言葉を聞き、息を荒げながらも、目に不思議な静けさを宿していた。
「ただ耐えるだけでは……意味がない」
彼はゆっくりと手を掲げた。
これまで以上に深く魔力を集中させる。
黒いオーラが彼の周囲に漂い始める。
観客たちはその異様な気配に息を呑んだ。
Miwaは目を細め、警戒の色を濃くする。
しかし……次の瞬間、Ellionはその魔力を解放せず、手を下ろした。
黒いオーラは消え去る。
彼は静かに言った。
「もう十分だ。ここまでにしておこう」
先ほどの魔力の放出で、彼の顔は青ざめ、基本的な魔法すら使えないほどに消耗していた。
彼は手を上げ、降参の意を示す。
ゆっくりと後退し、その瞳には挑戦の光ではなく、穏やかな決意が宿っていた。
それは恐れによる敗北ではなく、自らの全てを賭けるには値しないと判断した者の選択だった。
アリーナは静寂に包まれる。
観客たちは驚き、Miwaは動けずにいた。
誰もEllionの真意を理解できなかった。
観客席では、銀髪の老教授――Kaelisが目を細めていた。
彼の唇が微かに動く。
「今のオーラは……」
彼の拳は固く握られていた。
一部の者にとって、Ellionの黒いオーラは何でもないものかもしれない。
しかし、それを感じ取った者には、短い時間であっても強烈な圧力を与えるものだった。
Ellionがアリーナを後にする。
彼の心は静かだった。
「まだ……今は準備ができていない。
内なる影が現れ始めたが、まだ制御できない」
彼は深く息を吐く。
「……まあ、少しは楽しめたかな」
Ellionは満足げな表情で、元の位置へと戻っていった。
---
