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76 第二部  老婆との出会い 

 俺は堀田岳男、30歳、彼女いない歴30年、15の時からトンネルを掘り続け、穴を掘ること以外は何もできない穴掘り男ーーだった。

 今の俺はひょんなことからメアリーアンに出会い、国家トレジャーハンターとなってお宝を発見し、巨万の富を手に入れたーーもう働く必要もないほどの。


 遺跡探索の結果報告と発見したお宝の搬入を終えた文化局を後にした俺は、頼りの相棒、腰のインテリジェントソードを確かめながら考える。


 さーて、これからどうしようかな。……メアリーアンの所にいくのは今度の土日、つまり三日後で良いことになっている。久しぶりに剣真流道場にでも、顔を出してみようかな。


 道場の皆んなに、辞めちゃったのかなと思われる前に、たまには顔見せに行った方が良いだろう。


 この前、俺が国家トレジャーハンターだということはバレてしまった。別に隠していた訳ではないけどね。ただトレジャーハンターって単なる博打うちとそう変わらんイメージやし、普通は真っ当な仕事についているとは見てもらえない。


 それでもメアリーアンの説明で、国家トレジャーハンターがある程度の実績がなければ成れない資格だということは分かってもらえたようなので、もしかしたらお金持ちなのか……くらいには思われていそうだ。


 その話が出た時、カテリナさんの目がキラキラして憧れるようだったのをオッチャンは見逃さなかったで。彼女いない歴30年のオッチャンが、それだけでモテるとは思わんけどね。宝を見つけたともなれば、どんな宝だろうとか宝を見せて欲しいとか、自分もやってみたいとか思うんちゃうかな。


 今身につけているワイバーン革製の手袋にブーツにジャンバーは一眼で誰にでも高そうなのは分かりそうだ。 インテリジェントソードはボロそうに見えるけど、かえってそれが渋い感じでいいと思う。ただの貧乏人には見えないやろう。


 このままの格好で行っても良いかな……大丈夫やろ。驚くかな?


 そんなことを思いながら昼食を済ませ、路線馬車を拾い道場近くの降り場まで移動する。馬車はそれなりに混んでいる。乗客達の視線がワイバーン製の服に集まりチェックが入るがすぐ他所に向けられる。冒険者かなと思われたんやろな。


 路線馬車の車窓から流れる街並みを眺めているとインテリジェントソードの声が脳内に響いた。


「財布に気をつけろ。スリがいる」


「どいつだ?」


「今右後の老婆の財布を狙っている男だ」


 俺がゆっくり振り返って右後ろに立っている老婆を見るとその右隣の男の手が老婆の下げているバスケットの中を探っていた。俺の真後ろの男が今まさにスリを行っている最中だったのだ。


 俺は咄嗟に男の手を捻り上げると男の手には財布が握られていた。


「イテテテテ! 何しやがる!」


「お前の握っているのは何なんだよ!」


「あ! 私の財布!」


 乗客の視線が俺達に集まる中、俺は財布を奪い返して老婆に渡し、さらに穴掘りで鍛えられた握力で男の腕を握り潰す。


「うわ! イテテテテ、辞めてくれ」

 

「お婆さん。盗まれなくて良かったね」


 車掌が近寄って来て手錠を上げて見せる。


「これで拘束して衛兵に突き出すから後は任せてください。協力に感謝します」


「おう。分かった。よろしく頼むよ。こういうやつは、結構いるのかい?」


「たまには捕まえることはありますね。多くはありませんが」


 車掌が手錠で男の腕を後ろ手に拘束し、首に鎖を巻いてさらにそれを手錠と繋いだ。


「オラ! 大人しくしていろよ!」


「イテテテテ。お願い、痛くしないで」


 車掌がスリを引っ張って行き馬車の中央の柱に繋いで蹴りを入れる。


「ぐえ!」


「動くんじゃねーぞ!」


 俺は車掌に対応に、手加減ねーなあ……と思いながら、それも当然だと納得する。


「お兄さん。ありがとう御座いました。おかげで財布を盗まれずに済みました」


 老婆が俺を見つめながら感謝をそのにこやかな顔であらわした。


「いえ、たまたま気付いたんでね。気付いた以上は助けない訳にはねえ」


 俺は頭を掻きながら照れ笑いをする。


 さっきの財布、結構入っていた感じだな。身なりも良いし、それなりの金持ちかな? スリが狙うのは、やっぱり金を持っていそうな奴だろうな。俺もこの服の時は気をつけよう。この婆さんの次は俺の財布を狙ったに違いない。インテリジェントソード、ありがとうね。


「お礼に、私の家に寄ってお茶でもどうですか? 次の降り場の側なんですよ。一緒に来てもらえると、安心できますしね。ボディーガードって訳じゃないですが、何か怖くなってしまって」


 ああそうか。気持ちは分からんでもないな。こういうことがあると一人じゃ怖いって思うよね。俺の降りるのもたまたま次の降り場だ。少し寄り道してこの老婆を送っていってあげようか。


「お茶は遠慮するが、俺も次で降りるので、家まで送るのは構わないよ」


「あら、ありがとう。それじゃあ送ってもらおうかしら。あなた、とても高そうなジャンバーを着ておるのね。お強い冒険者さんかしら?」

 

 やっぱりこの格好では冒険者に見えるらしいな。


「俺は、」


「あら、冒険者じゃないのね。じゃあ、最近宝を発見したトレジャーハンターってところかしら」


 老婆は俺が答えを言う前に俺がトレジャーハンターだと言い当てた。しかも最近宝を発見したところまで当てられた。どうして分かったのだろう。


 不審そうな顔になっていたのだろうか、老婆が種をあかす。


「その格好、ワイバーンの革製でしょう。とても高い物ですもの。高ランクの冒険者でないのは表情で分かったから、それ以外で真新しい高い防御力のある服を着て大金を稼げる職業だから最近宝を見つけたトレジャーハンターかなって思っただけよ。どうやら当たりみたいね」


 上品な笑顔で微笑みかける老婆。なるほどオッチャンの顔に書いてあったみたいやね。確かに一攫千金の職業といえばモンスターハンター(冒険者)かトレジャーハンターが思い浮かぶのは自然やろう。それにしてもこの老婆、推理力というか女の勘が半端ねー。


 「降り場に着いたわ。降りましょう」


 次々に降りていく乗客の波に乗って俺と不思議な老婆は馬車から降りた。






 

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