74 ピラミッド再探索 4
「本当に見つけたんか!」
「まだ開けられていないから、確定じゃあないけれど、床下収納でなければ、下の階への入り口だな」
エリザベスは作業を続けながら俺の問いに答える。三人は真剣な眼差しでエリザベスの指先を見つめている。
エリザベスは双剣使いだが盗賊のスキル・鍵開けも多少は身につけている。だがこの扉を開けるのは少々難し過ぎたようだ。適性が合っていないので、本職の盗賊の持つ鍵開けスキルのように何でも開けられるわけではない。
「くそ! 私には無理かもしれない。地上に戻ってプロを雇おう」
「私にやらせてみて下さい。私も開錠スキルを持っています」
「こう見えて銀次の開錠スキルは盗賊並みなんですよ」
「それじゃあ、銀次さんに試してもらいましょう?」
「アンがそう言うなら私は良いぞ」
オッチャンは四人のやり取りを後ろで黙ってながめるだけや。邪魔にならんように気をつける。
エリザベスに代わって銀次が床の扉の開錠に挑む。鍵穴に針金の様な道具を突っ込み耳を床に当てながらカチャカチャやっている。あんなんで、開けられるんやろうか?
「なるほど……ここが……」
銀次がブツブツ言いながら床に当てた耳から何かを聞き取っているらしい。エリザベスがその様子を興味深そうに睨んでいる。
メアリーアンとゴードンは真剣な眼差しを今度は銀次に向けていた。
暫く待つしかなさそうやなーー開いたら開いたって言ってくれるやろ。魔法の練習でもしてようかな。
俺は部屋の片隅に移動してインテリジェントソードを抜き放ち魔法を発動しようとする。
俺の背中の方で何かかチャリという音がしてーー
「やった! 開いたぞ」
ゴードンの声。どうやら銀次が開錠に成功したらしい。これからまた潜るのかと思うと悲しいような、でもお宝が見つかるかなと思うと嬉しいような、魔物が出なければ良いなあという不安もあるし、なんか複雑な感情がせめぎ合っているが、トータルすると相当嬉しい。ーーなーんや、オッチャン宝探しが好きなんや。
「それでは、私達はこの中を確かめようと思います。ゴードンさん達はどうしますか?」
メアリーアンの問いにゴードンが眉根を寄せた。ゴードン達は探索するために潜っているのではない。棺の調査とそれを持ち帰るために潜っているのだ。
新しく開いた道がどこまで続いているのかは、今のところ見当がつかない。浅ければすぐに戻れるだろうし、深ければ相当時間がかかることもある。
メアリーアンのマジックバッグをゴードン達に預けるのは、あまりに高価すぎるし、探索に必要なものがたくさん入っているのでできないことだ。ゴードンも、そのことは分かっているので頼んだりはしない。だが棺はメアリーアンのマジックバッグの中に入っている。
だが、棺をマジックバッグに入れたまま潜って、もし魔物に出会って帰って来れなくなったら棺も帰って来ないのだ。
「まず、中を覗いてみて、深いか浅いかの当たりをつけよう。ちょっと覗いて広さが見渡せるなら直ぐに戻って来れるから三人で行ってくれ。深いようなら棺を出してから行ってくれ。いずれにしても俺たちはここに残る。それで良いか?」
「じゃあ、私がちょっと覗いてみるよ」
エリザベスが床の穴から中を覗きランタンで照らす。
「うーん。棺を出してから出かけよう。無事戻って来れたら、また収納すれば良いことだしね」
どうやら先が見渡せなかったようだ。何だか悪いフラグが立ったような気がする。
「アン! 棺とロープを出して。タケオは棺にロープを巻いて穴に垂らしてくれる」
ロープをつたって登り降りをするつもりやな。ならロープに団子も付けといたほうが良いやろう。
俺は棺にロープを巻いて穴に垂らす。人がつかまっても棺が動かないことを確認する。太いロープなので切れることもなさそうや。
「ええでえ! これで登り降りできるやろう」
「良い感じだぞ。タケオ」
エリザベスからお褒めの言葉を頂いた。
一度は諦めていた隠し部屋ならぬ、隠し通路の発見で、新たなお宝発見の期待が高まる俺達は、多少テンションが上がり気味だ。
「俺達は一旦外を目指すよ」
ゴードンが握手を求める。俺はその手をがっちり掴んだ。
「私が最初に降りるから、次はタケオ、最後にアンの順で降りてくれ」
エリザベスが指揮をとり、先頭で降りていった。降りたエリザベスが手招きをする。続いて俺もロープをつたう。降りると下には上のフロアのように迷路になっていそうな幅の通路が伸びていた。蛍光石でできた壁と床が僅かな光を放つ。右は行き止まりの壁が見え、左は左に折れる道が続いているようだ。
まず行き止まりの右側に隠し扉がないか調べる。ーーない。想定どうりだから、別にがっかりはしない。左ルートが本命だ。エリザベスを先頭にランタンをかざして、迷路上の道を調べながら進んだ。俺は右手にインテリジェントソードを、左手にメアリーアンの右手を握っている。はぐれないようにするためや。
インテリジェントソードが魔物の気配はしないと言っているので安心や。これでお宝でも見つかれば最高やね。
このフロアは今までで一番広いらしく、ずいぶんと探索が続いた。下に行くための階段を発見したがメアリーアンが作っている迷路図に空きスペースがなくなることを確認してから階段を使った。




