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70 銀行にて2

 もう少し少ない限度額でも良いのではないかと考えたが、百億も十億も無くした時は変わらないかと気がついた。


「そうしてくれるか?」


 俺はカードの変更をお願いする。


「分かりました。それでは指紋を登録したカードを新たに作りますので少しお手間をとらせて頂きます」


 変な台の上に親指を押し付け、型を取る。そして黒い制服姿の男は出て行った。


「タケオ、家も引っ越して、アンと同じ建物に住まないか。どうせ宝探しは一緒に行動するのだろう。ホテル暮らしが多くなるだろうが、それでも一々待ち合わせるのは面倒だ。アンの家には空き部屋もたくさんある。家賃もいらないぞ」


 エリザベスがメアリーアンの家に住むことを薦めるが、メアリーアンはどう思っているのだろう。俺はメアリーアンに視線を向ける。


「タケオさん。私は大歓迎ですよ。私の住まいは王都のゲルマイヤー所有のビルの最上階です。通称タワーと呼ばれている十階建ビルの十階です。でもホテル暮らしがほとんどなので、家はハウスキーパーに任せっきりですけれどね」


 いつもトレジャーハントに出かけているため、各地のホテルに滞在していることの方が多いらしい。ならホテルだけ同じところをとれば良いのではないだろうか?


「それも良いけれど、しばらくは今のところで暮らすとするよ。王都に行ったら泊めてくれ」


 制服姿の男が戻ってくると俺の目の前に黒いカードを差し出す。


「こちらが新しいカードでございます。限度額は百億に設定してあります。もとのカードも一緒にお持ちください」


 俺は二枚のカードを受け取り黒いカードをまじまじと見つめる。これで百億の買い物が可能なのか? 落としたら大変だな。


「それとこちらに只今の口座の残高が記されております。確認なさったら、捨てて構いません」


 男は三人にそれぞれ一枚の紙を渡す。俺は自分に渡された紙を確認すると、其処には八百一億三百万ゴールドと記されていた。思えば俺もとんでもない金持ちになった物だ。明らかに使いきれない金額だが、ただの数字の羅列では実感がわかない。


 金貨は一枚十万ゴールド、大金貨は百万ゴールドだ。一億は大金貨百枚だから八百一億は大金貨八万百枚。そもそも大金貨などというものは、市井で見かけることはない。市井で見るのは精々金貨までであり、それすら見かけるのは稀なのだ。一般的に使われるのは大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨、鉄貨迄で、それぞれが一万、千、百、十、一ゴールドの価値である。


 手持ちは五万ゴールドくらいだから、巾着袋の中身は大銀貨四枚と銀貨や大銅貨、銅貨が多数である。実際、それなりに重い。此処に大金貨三枚を加えると相当重くなる。だが、まだ見ぬ大金貨を手にすると金持ちになった実感が、感動的に感じられるに違いない。


「三百万、大金貨三枚引き下ろして持って行きたいのだが」


 俺は、大金貨をこの手で握り締めることにする。大金貨一枚でも気分は上げ上げになるだろう。


 黒い制服姿の男が頷いて大金貨を運んできた。俺は大金貨を掌の上に置きずっしりとしたその重さを味わった。巾着袋に入れるとなお重い。大金持ちになったんだなと、初めて実感がわいて来た。何だかそわそわする。そして怖い。そう、これでは他人の視線が怖くて仕方ないだろう。なれなくちゃな…………服を買って早めに使ってしまおうと考えた。


「タケオもマジックバッグを持っておいた方が良いな。家財道具も全て入れて置けるくらいのな」


 エリザベスが緊張気味の俺の顔を見ながら微笑む。


「それがあれば、引っ越しも楽になりそうやね」


「マジックバッグは希少だから、王都に行かないと買えないかもしれませんね」


「俺の服、ベスの様に冒険者用の丈夫な物が良いんやないかな。防御力も高そうな」


「タケオの服は、普通の服だからな。穴を掘ったりする時には楽そうだが、戦いには適さんな。私の着ている革鎧は汗をかきやすいから穴掘りには向かないぞ」


 なるほど、言われてみればその通りだ。ピラミッドの中を歩き回る時はエリザベスの様に冒険者用の鎧系が良いけれど、穴掘り作業には確かに向かない。この前みたいに穴掘り作業中、ゴブリンに襲われる様なパターンでは、どっちの服も一長一短があるわけだ。


 それでも戦いに備える必要はある。もう一度、ピラミッドに潜る予定だし、また次のトレジャーハントも何処かの遺跡に入るかもしれないのだ。…………そうだ。普段は革鎧を着て、穴を掘る前に脱げば良いんや! 危険そうなら着たまま穴を掘っても良い。その時は暑いのは我慢やな。


「そうやな。ベスの言う事は正しいが、俺としても防御力は上げておきたい気がするんや。アンを守る機会は多そうやからな」


 メアリーアンがパッと明るい顔になる。


「それじゃあ、服を買いに行かなくちゃ。トルネコでも冒険者用の服の専門店はあるのでしょう?」


「ああ、王都ほど多くはないが、それでもかなりの数の店があるぞ。冒険者はそれなりにたくさんいるからな」


「ベスは、そういう服に詳しいんやろう。選んでもらえるとありがたいんやが……」


「ああ良いぜ。ならホテルに戻る前に済ませてしまおう」


「やったあ! これからショッピングね。私達の服も見ましょう!」


「そうだな。私も普段着や、インナーは欲しいしな」

 

 三人は、銀行を後にして、すぐ近くのトルネコの商業地域を目指すことにする。銀行の男に深々と頭を下げて見送られる。


 銀行を出て、トルネコ冒険者組合の方に足を向ける。エリザベスによれば、途中の五階建の大きな商業施設に女性用の服や冒険者用の服を取り扱う一画があるらしい。実はマイヤー商会の系列の店なのだとか。


 メアリーアンもエリザベスも一般の店員には身分がバレていないらしく、唯の客として接客される。バレていたら創業一族だけに買い物もし辛い状況になるだろう。それこそたくさんの従業員に取り囲まれる。そうならなくて良かったで。


 俺は革製の肘まである手袋と膝近くまであるブーツと革製のジャンバーを買った。ワイバーンの革製でこれ自体が高い防御力を持ち、剣で斬るのも簡単ではないと謳っている最高級品だ。本当かね?


 剣を振るにも動きにくいということもない。全部で百五十万ゴールドしたが良い買い物だったと思う。昔ならとても買う気になれない高級品だ。お金の感覚が異常になってしまったかも。


 メアリーアンとエリザベスは普段着を見繕っていた。インナーの販売ゾーンでは別行動で離れて待機させてもらう。目のやり場に困るしな。


 とにかく一通り必要なものは買い揃えられたという印象や。今晩もメアリーアンとエリザベスは定宿で、俺は自宅で泊まり明日はホテルから馬車に乗ってピラミッドに行く予定である。

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