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66 文化局にて

 文化局。オッチャンの目の前にはクールでナイスボディーのスカーレット女史、右隣にはメアリーアン、左隣にはエリザベスがいる。


 スカーレットがシルバーグレイの瞳で俺を見つめながら右手で真珠のように輝く白い髪を掻き上げる。一瞬、形の良い唇をペロっと赤い舌が舐める。


「ピラミッドの一度目の捜索で、かなりの宝を回収して来ました」


 メアリーアンが幾分不機嫌そうな声で報告する。エリザベスは頭の後ろで手を組んで横を向く。脚はクロスしていてちょっと態度悪いんちゃうか?


 俺は引き攣ったお愛想笑いに冷や汗を浮かべる。胡散臭い顔しとるんやろうなあー。俺の視線は、ついついスカーレット局長の胸元に移動しそうになるが根性で引き戻す。それにしても、なんでこの二人、スカーレット局長の前では態度悪いんやろう。


 メアリーアンの言葉を受けてスカーレットがニヤリと微笑む。


「素晴らしい手際だ。もうお宝をみつけてくるとはな。買取のために一階で手続きとお宝の搬入をしてくれ。私もお宝を確認したいから一緒に行こう。ところで…………まだピラミッドに潜り続けるのだろう?」


「そうですね。後は隠し部屋がないか確認するだけですから、お宝が見つかる確率は低いですけれど、取り敢えずもう一度潜ります」


 スカーレットが席を立ち、先導するように一階の空き部屋に移動する。後ろから見る腰の動きに目が離せない。いかんいかん、煩悩を抑えねば。


 一階の何もないかなり広目の部屋に案内され、床に敷き詰められた絨毯の上にお宝を並べるように指示される。メアリーアンの持つマジックバッグからお宝が飛び出す。部屋は一気に宝の山だ。


「王の棺とその従者達の棺の中身は研究資料にできるよう現況保存してあります。かなりのお宝で満たされていましたけれど、それの権利は認めてくださいますよね。でなければ今度持ち出して来ますが?」


「さすがはメアリーアン、状態を保存しておく事にも大きな価値がある。その辺、歴史的資料価値を大きく付けさせてもらうよ。買取額にね」


 スカーレットはそう言うと表情をほころばせる。


「売りたくない物は、持っていって良いのだろう。自分で使いたい武器や道具もたくさんあるんだ」


 エリザベスがスカーレットに確認する。


「問題ないけど、一応チェックだけはさせてね。資料として記録に残したいのよ」


 いくぶん、今日はスカーレットが下手に出ているように感じる。言葉遣いが偉そうじゃない。


「タケオは王の棺に入っていた本を使いたいってさ。それは売れないぞ」


 スカーレットは苦い顔をしたが所有権は第一発見者に有る。それを認めないわけにはいかないのだ。


「タケオ、無理にとは言わないけれど、国に譲ってはくれないかしら?」


 スカーレットがズイと顔を近付けて譲歩を迫る。俺は顔を赤らめて横を向いた。


「わ、悪いが、それはできないな。あの本があるとすっごい魔法が使えるらしいで」


「ねー、お、ね、が、い! 王の棺の中身は文化的に、とっても大切な物なのよー」


 近い近い、近すぎるー! 柔らかいものが腕に押し付けられとるでー! オッチャンの心臓がバクバクと波打つ。頭に血が昇り思考が止まる。


「い、い、で、しょうー?」


「だ、だ、だ…………」


「お、ね、が、い………」


 エリザベスとメアリーアンがジトーッとした目で俺達二人を観察している。


 スカーレットは両手で俺の頬を挟み顔を自分の方に向け直す。


「お、ね、が、い」


 オッチャンは頭に血が昇り鼻血を垂らしながら意識が遠くなる。


 スカーレットは意識の薄れたオッチャンの頭を挟んだ両手で頷かせた。


「ありがとー! きっと分かってくれると思っていたわ。タケオって良い人ね!」


 サッと手を離してクルリと背を向ける。一歩二歩と離れながら振り返りなげキッス。


 妖艶な笑顔で悪魔のように口の端をつりあげた。


 オッチャンは力が抜けて腰からヒョロヒョロと膝をつく。


 意識が戻ってくると共にやってしまったという自己嫌悪とやられたという悔しさと良かったという満足感が僅かづつ湧いてくる。


 メアリーアンとエリザベスがジトーとした目で両側から顔を寄せた。


「信じられませんわ!」


「情けないやつだぜ!」


 オッチャンは一気に正気に戻って恥ずかしさにうつむいた。スカーレットが笑って見つめている。プイと後ろを向くメアリーアンとエリザベス。


「私、タケオみたいな人大好きよ」


 俺は大嫌いやで、スカーレット! 嘘です。嘘です。その胸に埋もれたいです。


 とりあえず、いくらか、いやかなりの数の魔法はもう既に身につけているし、本はなくても良いとしよう。オッチャンは気持ちを切り替える。そこまで凄い魔法使いにならなくても、リッチのような魔法が使えなくても、十分すごい魔法が使えそうなんやから良いやないかい。


 後でどこかで魔法の練習をしようと思いながら、今のところなんの魔法も使えていない事に若干の不安を覚える。どうやったら魔法が使えるのか、ちーとも分からない。

 覚えてるはずやろう。覚えてるはずやろう。覚えてないはずはないんやー。今度潜った時に本を片手に魔法の練習したろう。そうや、そうすれば魔法が使えるようになるはずや。


「ここにある物は買取りで良いわね。査定しておくわ」


「お願いします」


「王と従者の棺の中身の確認にゴードン達を同行させてもらって良いかしら?」


「そうすれば、欲しい武器をその時持ち帰れるのか?」


 エリザベスがスカーレットを睨む。


「そのために同行させて欲しいのよ。早く持ち帰りたいでしょう」


「わかった。その方が助かるが、身の安全は保証できんぞ」


 エリザベスの言葉にスカーレットが微笑む。


「ゴードン達なら大丈夫、見殺しにしても恨まないわ。彼らもそういう覚悟はできてるはずだし」


 凄いもんやなあ……とオッチャンは感心した。そんな岳男にスカーレットが意味深な視線を向けていた。


「タケオ。また依頼をするからよろしくね」


 メアリーアンは岳男の背中を押して退室を促す。


「お宝は全部出しましたので、私たちはこれで失礼します」


 俺は、メアリーアンに押されてドアの方に歩き出す。


 スカーレットが意味深な笑顔を向けて手をヒラヒラさせた。

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