65 ピラミッドの外にて
僅かな空気の流れが肌をくすぐる。
地上の空気がこんなにも心地よいものとは知らなかった。
俺は大きく息を吸い込む。
雲間から漏れ出る太陽の光がこれほど安心を与えてくれるのは初めての経験だった。
遺跡から出てきた俺たちに、銀次が硬い表情で近づいて来る。
「どうでしたか? 大分長時間潜っていたようですが」
俺に対しては横柄な口振りだったような気がするが、メアリーアンには丁寧な口調なんやね。
何日振りかの地上、銀次は俺たちの事を心配していた……のではなさそうだ。ただ単に、数日の探索では大した成果は期待できないと思っているのやろう。フフ……ごっついお宝ゲットしてきたで!
「中にリッチが居たのよ。危なかったけど、倒せて良かったわ」
エリザベスの答えに銀次が驚いて大きく目を見開いた。
「リッチを倒したんですか? さすがはSランク冒険者ですね」
さすがはSランク冒険者、銀次の言葉使いが丁寧や。
「倒したのは……止めを刺したのはタケオよ。彼がいなかったら私でも死んでたでしょうね」
銀次の視線がオッチャンに向けられる。意外そうな表情をしているが、実際俺はインテリジェントソードに動かされていただけで銀次の思っていた通り本当の実力は弱々だ。そうだよ、俺の力じゃないねんて。
「タケオさんも強かったんですね。Sランク冒険者と同じくらい強いとは知りませんでした」
言葉遣いが丁寧やんか?
おいおい銀次君、君、壮絶な勘違いをしているでえ。
「い、いや。たまたまや。最後だけチョロっと攻撃しただけやで。だいたいはメアリーアンを守ってただけで、ほとんどエリザベスがリッチと戦っとったんや。俺はそんなに強くない」
「最後にチョロっと…………チョロっとでリッチを倒したと!」
なんや、勘違いが酷くなったような。……あーめんどくさ! このインテリメガネは頭が固いに違いない。俺は説得を諦めてそっぽを向く。
横で嬉しそうに微笑むメアリーアンと視線がぶつかった。俺は困ったように苦笑した。
なんやこっちも勘違いしとるような…………冷や汗。
「一休みしたら、見つけてきたお宝を報告しに行かなくちゃな」
「そうですね。馬車を出していただけますか?」
俺の言葉に僅かに眉を寄せ、銀次に馬車の手配を頼むメアリーアン。
「分かりました。いつでも出せるようにしておきますので休憩が済んだら言って下さい。ところでそれほどお宝を持ち帰ったのですか?」
「ええ。マジックバッグにたくさん入れてきましたのよ」
メアリーアンの顔がパッと明るい花を咲かす。銀次も驚きと喜びと称賛の籠もった笑顔を向けた。
エリザベスが周りを見ながら休憩場所を物色する。俺も周囲に目を向ける。
ピラミッドはかなり掘り出されていて、周りの土も相当削られていた。上空から見たら浮き彫りのような状態だろう。
三メートル位降りて周りの緩やかな坂を登ると元々の地上だ。馬車の近くにテントが貼られていてそこで休む事にした。
今度は金色の髪をなびかせてゴードンが近づいて来た。
「お疲れ様でした。成果はありましたか?」
メアリーアンがにこりと笑って小首を傾げる。
「はい。それなりに」
「それは素晴らしい。二度目の探索のご予定は? 無ければ探索の権利は我々に移る契約ですので確認なのですが」
エリザベスがメアリーアンと視線を交わす。
「もう一回くらいは隠し部屋がないか確認に潜った方が良くないか? 時間は作るわよ」
「ありがとう。ベス。それじゃあもう一回入りましょう。タケオさんも良いですよね?」
「う、うん。分かった」
本当は嫌だけれど、リッチも倒した事だし、もう変なのは出ないだろうと思って頷く。
「ゴードンさん、そういう事でまだ探索は続けさせていただきます」
「そうですか。分かりました」
ゴードンが礼儀正しく頭を下げて去っていく。残念やったな。もうお宝は全部マジックバッグの中やでー。
「隠し部屋って、よくあるものなの?」
無知なオッチャンは、さらりと重要情報をメアリーアンに聞く。
「それなりにありますよ。無いこともありますけど」
「見つけるの、難しいんちゃう?」
「そこはプリンちゃんの出番です」
「ワン!」
可愛いプリンちゃんが一声吠える。ニコニコしながら尻尾を全力で振る。
……うーん。そうかい、嬉しいの~。
もふもふしようと手を伸ばすと、メアリーアンが抱えたプリンちゃんごとぐるりと体を捻り後ろに隠して拒絶する。
全くつれないでー。もうそろそろプリンちゃんをもふもふしても良いや無いかー。
メアリーアンの紺碧の瞳が怒りを含んで睨んでいる。御免なさい。
それにしても、プリンちゃんって凄いんやね。おらんかったら何にも見つからんやろう。俺は今更ながらにプリンちゃんの実力に平伏す。可愛いのうー。
ゴードンも行ったことだし、テントの中で寝転んだ。あー疲れた。隣にエリザベスとメアリーアンが腰を下ろす。小一時間休憩し、その後で馬車に乗り込み文化局を目指した。




