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61 新しい依頼 13

 プロミネンスホテルについて一旦部屋でくつろいでから、夕食を食べに行こうかと思っていると、部屋のドアが叩かれる。


「アン! 私だ。いたら開けてくれ!」


 エリザベスの声が響き渡る。待ち人来たれりだ。彼女と別れてから確かに十日近く経っている。なんと丁度よく現れたものである。


「待ってたでー」


 俺はドアを開け、エリザベスを引き入れる。


「ピラミッドを発見して、入り口らしいところも見つけたの」


 メアリーアンがエリザベスに駆け寄り抱きつき、胸にその顔を埋める。


「まあ! 甘えん坊さんねー。うん、可愛い!」


 エリザベスもメアリーアンを抱きしめる。俺は顔を赤らめ横を向く。


「あのなあ、ここに来てすぐ街で十人の強盗団に襲われたんや。囲まれて怖い思いをしてからちょっとアンは甘えん坊なんやで」


「そんなことない!」


「可哀想だったわね、アンちゃん」


 否定するメアリーをグリグリと可愛がるエリザベス。羨ましいでー、オッチャンもあんなふうにして欲しい。


「それで、怪我はしなかったんでしょうね!」


 エリザベスは、きつい視線を俺に向ける。


「タケオさんが守ってくれたから大丈夫だったわ」


「あなたも結構腕が立つものね。守ってくれてありがとう」


「当たり前のことをしたまでや! それでも恐怖心は残っとる。力不足ですまん」


 エリザベスは穏やかな顔になりメアリーアンに頬ずりをする。


「大丈夫よ。アンは強い子だもの。で! 襲った奴ら、どうなった。全員ぶっ殺したんでしょうね!」


 向き直ったエリザベスは鬼のような形相で俺に聞く。


「二人返り討ちにしたら、残りは逃げ出した。後でアジトを見つけたので衛兵に教えて捕まえてもらったで」


「なんでアジトで皆殺しにしなかったのよ。甘いわね!」


 怒られて小さくなって頭を抱える。


「私がそうするように頼んだの」


 メアリーアンがとりなしてくれた。エリザベスって怒ると怖い。ドラゴンも軽く倒してくるSランク冒険者に怒られたらオシッコ漏らしそうやでー。


「そう。アンは優しいのねー。でも危険は元から断っておくべきなのよ。そんな悪人、世のためにも殺しておくべきね!」


「余罪もあるから全員死刑やって衛兵さんが言うとったで」


 頭を抱えながら俺は抵抗する。


「なら、大丈夫ね。そういう奴らは務所から出てくると必ず復讐に来るから、やっちゃうのが面倒ないのよ」


 さすがはSランク冒険者様である。言うことが大胆や!


 エリザベスの機嫌が戻ったので俺も様子を見ながら立ち上がる。黙っとれば良かったで。沈黙は金とはこのことやな。


「それでベス、明日ピラミッドの入り口が開いたら中に入ろうと思うんや!」


「当然よね。私も同行するわ」


 この言葉をまっとったんや。これで明日は安心やで。俺は自然と笑顔になる。


「ピラミッドの中って魔物はおらんよねえ?」


 気になっていたことをエリザベスに聞いてみる。安心する言葉を引き出しておきたいのだ。


「ダンジョン化していることは少ないと聞くが、仮にダンジョン化していても、出てくる魔物は強くはないはずだぞ。私がいれば心配ないよ!」


 さすがはエリザベス、俺の不安を払拭してくれる言葉だ。明日、ピラミッドの中にはいる勇気と期待が膨らんだ。


 その夜メアリーアンはエリザベスと一緒の寝室で寝た。なんか寂しさを感じる。隣のベッドに人の気配がないだけで部屋がこれほど静かで寂しく感じるとは思わなかったで。


 翌日現場に行ってみるとテントで野営したらしい銀次とその部下五人は作業に取りかかっていた。ゴードンは先日あれからスカーレットに報告に行ったために野営はしなかったという。少しすれば現れるかもしれない。


「これが入り口だな。こういうのは大体呪文で……オープンセサミ!」


 エリザベスの言葉に反応し、石の扉がズズズと擦れる音を立てて開いていく。


「行くぞ!」


 エリザベスが振り返って俺とメアリーアンを見る。俺とメアリーは顔を見合わせてから一歩踏み出した。銀次が、ご無事で……と笑顔で声をかける。変なフラグ立てるなよとオッチャンは思う。


 ピラミッドの中はこの前潜ったダンジョンと似た、石壁の迷路だ。石が薄らと光り、蛍光石が使われていると思われた。道はすぐに降り階段に差し掛かり三人はどんどん降りて行く。静寂の迷路に自分たちの足音だけが不気味に響く。


 降り階段は踊り場を挟んで折り返し、三度折り返したところで階段が終わる。一回目のフロアに到着したのか、前方に迷路は延びていた。一階層はさほど広くなくまた長く下に続く階段を降りる。また三度折り返して二つ目のフロアに出る。ピラミッドの頂上から降りているのだから二階層の方が広いはずだ。


「だいぶ降りて来ましたね」


「そうだな。今のところ魔物の出る気配は無いぞ」


 良かったと胸を撫で下ろしながらインテリジェントソードに確認する。


「エリザベスのいう通りだ」


 インテリジェントソードも同じ意見だ。安心して先に進む。三階層、四階層と進むにつれて迷路も大きなものになっていった。この前の遺跡の一階層は完成形なら五階層くらいだったかもしれないと思いながら四階層を走破して五階層への階段を降りる。


 五階層に降りるとインテリジェントソードが警告を発した。


「この階には、何かいる」


 エリザベスの表情も厳しさを増しているのが分かった。


 

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