55 新しい依頼 7
湯から出てホテルのバスタオルを腰に巻き体を拭く。湯船に浸かって暖まりすっかりリフレッシュしたようや。
ドアを開けて浴室を出るとさっき俺がいた場所にメアリーアンが立っていた。顔を赤らめたメアリーアンが入れ替わるように急いで浴室に入る。そして服を抱えて通り抜けた。見られて恥ずかしいのは置いていくなや。オッチャンも困ったで!
オッチャンも見たと思われているようで恥ずかしい。まあ、存在自体は見たけどね……手に取って見たわけやないからね。すぐ目を背けたし、認識するのに時間を要したのは勘弁や。そこまでは不可抗力やろ。
俺は自分の寝室に戻って服を着る。さっきまでの警戒心はどこえやらと消えていた。インテリジェントソードも何も言わないところを見ると、特に危険は迫ってないのだろう。
「強盗が来たら教えてくれるんやな?」
「まかせろ。強盗が来たら俺を握るんだぞ。そうすりゃ、俺がやっつけてやる。寝る時は抱いてねろよ。繋がってねーと動けねーからな」
「抱いてなんて、インテリジェントソードったら大胆なんやね」
「ちち、違うだろ! そんなこと言うなら守ってやらねーぞ!」
「悪い、悪い、ちょっとした冗談や!」
俺はインテリジェントソードを眺めて笑った。こいつがいれば大丈夫だと確信する。インテリジェントソードはちょっとヘソを曲げたような顔をしているように見える。インテリジェントソードに顔はないのだが。
俺の寝室の入り口にメアリーアンが立っていた。両手をドア枠にかけて寄りかかるように半身を隠している。俺の視線に驚いたように体を引いたが、すぐまた元に戻る。
「もう寝ちゃうんですか?」
やっぱりまだ怖いんやな……と思いメアリーアンの元に歩み寄る。
「いや、ちょっと服を替えただけや。なんか食いに行かんか?」
部屋を出るのは嫌だと言う表情で横を向く。メアリーアンはもう可愛い部屋着に着替えている。薄ピンク色の上下で、よく見れば下着が透けて見えそうや。高級素材でできているのは、ものを知らんオッチャンにも簡単に想像がつく。
「屋台で買った食べ物がマジックバッグにたくさんあるやろ。なんか食おう」
今度は明るい顔になる。
「そうしましょう。いっぱい買いましたものね。今出しますね
ソファーに座ってテーブルの上にマジックバッグから食べ物を取り出す。
「ハンバーガーとオレンジジュース、それに付け合わせの野菜サラダで良いですか? 他にも色々ありますけれど」
「それだけ食べれば、腹いっぱいだと思うよ」
「ですよね」
メアリーアンが嬉しそうに、恥ずかしそうに微笑む。
マジックバッグは本当に便利だ。これを狙って襲ってきたんだと思うとだんだん腹が立ってきた。人前で使うのは注意していたが、これからはより一層注意しようと心に誓う。もっとも使っているのはメアリーアンなのだけれど。
「このハンバーガー、美味しいね。なんの肉かな?」
「これは牛肉ですよ。タケオさんたら分からないんですか?」
「多分そうだと思ったんやが」
メアリーアンが口元を隠して笑う。
「このソースが美味しいですよね。複雑な味……いろんなものが入ってそう。りんごに蜂蜜、玉ねぎ、胡椒、まだまだたくさん入ってます」
「そんなことまで分かるの? 凄いね」
はっきり言って俺には全然なんの味か分からない。俺がバカ舌なのか? それともメアリーアンの舌が凄いのか。
「だいたいああいうソースを作る時のレシピを知ってますしね、問題は隠し味に何を入れてるかなんですよ」
定番の材料があったらしい。舌で分かったのなら本当に凄いのだがどこまでが舌で分かったのかは分からない。
「今度、アンちゃんの作ったハンバーガーを食べて見たいね」
メアリーアンの作ったハンバーガーなら、これよりもっと美味いはずだ。
「良いですけど、こんなに美味しくできませんよ」
謙遜だと俺は思う。
「約束したでー、後で作って食べさせてね!」
「分かりました。あまり期待しないでくださいね」
期待するなという方が無理というもんや。だってメアリーアンの料理はいつも超美味いのやから。
お腹も膨れて満足したし、そろそろ眠ろうと立ち上がる。
「明日もあるし、そろそろ寝るよ」
俺はまた寝室に戻っていく。気づくとまたさっきのように、ドア枠にメアリーアンがひっついている。
どうかしたのかとメアリーアンに視線を送るとモジモジしながら俯いた。
「どうかしたん?」
メアリーアンは顔を赤らめながら横を向く。
「あの……」
メアリーアンはどうしたのだろうか、俺が眠ろうとすると……。
「……ここ……この部屋で、寝てもいいですか?」
各寝室にはベッドが二つずつ置いてある。一緒のベッドで寝るわけではないのだから、問題ないと言えばそうなのだがーーーーまあ、怖くて一人では眠れないのかもしれない。
とはいえダンジョンでの野営と違い同じ部屋で眠るのはやはり抵抗があるのだろう。オッチャンにしてもメアリーアンは子供とはいえ魅力を感じないわけではないのだ。理性にだって自信はない。
断ったほうが良いような気もするし、断るのも可哀想な気もする。
がんばれ俺の理性。ダンジョン内では平気だったのだし、俺の理性さえしっかりしていれば、何も問題は起きないのだ。
「良いよ。そのベッドを使っても」
オッチャン、メアリーアンの頼みを断ることはできなかった。