54 新しい依頼 6
部屋に戻ってくるとメアリーアンはいきなりソファーの横になって靴をポイと脱ぐ。
「あー疲れた! 強盗に襲われるとは思わなかったわ! タケオさんが守ってくれなかったら、私、どうなっていたんでしょう。きっと性奴隷にされていたわよね! ああ怖い」
メアリーは、何か言いたそうに俺を見つめる。
「まあ、確かにそうかもしれんよね」
確かにあいつらメアリーアンのことを、上玉とか言ってたし奴隷にして売るつもりはあったやろうな。乱暴してからの性奴隷というのもありそうなパターンや。
「タケオさん、助けてくれて本当にありがとう。タケオさんかっこよかったです。あんなに強かったんですね! ナイフを弾き返した時は驚きました。弾き返して敵をやっつけちゃうんだもの」
「まぐれやでーー」
「嘘ですよ。心臓を狙って弾き返したんでしょう。凄すぎます。素敵でした」
実際にはまぐれじゃなくて、インテリジェントソードがやったことだ。ありがとな! インテリジェントソード。
「あんなの二度とできんよ。あいつらが直ぐに逃げてくれて命拾いしたで」
「衛兵さんが復讐に気をつけろって…………また狙われるのかしら? 怖い」
そんな事を言われたが、復讐になんて来て欲しいくはないものや。
「まだ手が震えちゃうわ、ほら…………」
手を伸ばして見せるメアリーアンの右手は確かに震えている。
「握っていてもらえませんか?」
メアリーアンが愛玩するように見つめる。
「お安いご用や」
俺はメアリーアンの前で跪くと、その手を握った。白い柔らかい手だ。メアリーアンのすがる目が三十センチの近さで俺を見つめる。メアリーアンの右手から震えが伝わってくる。怖かったんやね。
あいつら許せんでー!
「狙われていると思うと、怖くて怖くて堪らないの。しばらくこのまま傍にいて……」
分かったでーーこういうのは保護者の務めや。俺は大きく頷く。俺だってインテリジェントソードがなかったら怖くて仕方ないんや。この子が怖くて震えてても仕方がないわなあ……
「大丈夫やでー。俺がちゃーんと守っちゃる。アンちゃんは安心してて良いんよ」
「うん…………」
メアリーアンが俺を見つめたまま小さく頷く。頬がいくらか紅潮しているようにも見える。俺が見つめていると恥ずかしそうに俯いた。
可愛いのう! 元々可愛かったがこういう姿は父性本能爆発させるでー!
「あの……落ち着きました。もう大丈夫」
少し握っているとメアリーアンは、落ち着いたようでゆっくりと身を起こした。
俺は手を離して立ち上がる。ちょっと腰と膝が痛くなったで。
「汗、かいてるので……お風呂入って良いですか?」
小さな声でメアリーアンが聞く。俺が頷くと小走りで浴槽に走りすぐ戻ってきた。離れるのが怖いらしい。ソファーにきちんと座って膝の上に手を置き恥ずかしそうに頬を赤らめながら右下に視線を逸らしている。
俺はテーブルを挟んだ向かいの一人掛けソファーに腰を埋める。お湯を汲む音が僅かに聞こえる。
「あの…………お風呂の傍で守っていてくれませんか?」
恥ずかしそうに上目遣いで顔を赤らめるメアリーアン。
ドキっとさせらるしおらしさがオッチャンの体に電撃を走らせる。
「今日だけやでー、明日には落ち着くやろ? あんな奴ら、オッチャンにかかればチャチャカチャや」
「はい。ありがとうございます」
メアリーアンはにこやかに微笑んだ。
メアリーアンは浴室のドアを閉めて俺はインテリジェントソードを抱えてドアの横の壁に背もたれる。念のためやが俺もインテリジェントソードを握っていないと不安なんや。察知能力はインテリジェントソード任せやからな。多分、握ってなくても教えてくれるやろうがな。
シャワーを浴びる音がしてその後湯船に浸かっているのやろう、時々チャップっと音がする。
耳を澄まして想像しているわけやないでー、まだまだ子供、子供なんや。
「ありがとうございます。温まったら大分落ち着きました」
髪を拭きながら微笑むメアリーアン、タオルに身を包んだ湯上がりの女って十割マシに美しい。しっとりとした白い肌に金色に輝く濡れた髪が流れる。オッチャンは見ないように目を逸らす。
「タケオさんもどうぞ。リラックスできますし、疲れが取れますよ」
ニコニコしながら俺の耳元で囁く。近い近い。石鹸のいい匂いが鼻をくすぐった。
俺は視線のやりばにこまって上を向く。意表をついた攻撃やでー。
メアリーアンはそのまま俺の前を通り抜けソファーの方に歩いていった。
「じゃあ、俺も入らせてもらうで」
ドアを開けて浴室に入るとさっきまでメアリーアンが来ていた服が脱いである。見てない見てないと念じつつ自分も服を抜いて浴室へ、浴槽にくまれたお湯を見る。
さっきまでここにメアリーアンが入ってたんや……なんかオッチャンちょっと罪悪感。俺は、煩悩を打ち消しながらシャワーを浴び始めた。




