53 新しい依頼 5
俺の額から冷や汗が流れる。ゴブリンより強い相手が十人や。オッチャン対人戦なんて一度もしたことがない。怖い! 怖いでー!
「落ち着けタケオ! 俺をしっかり握っていれば大丈夫だ!」
そうや、俺にはインテリジェントソードがついとったんや! こいつがおれば、天下無敵! 上級冒険者くらいの実力はあるはずなんや。
遠巻きに俺の隙を窺う男達。皆んな悪そうな顔をしとるでー。
俺は落ち着いた奴等の出方を窺った。俺の目がインテリジェントソードに操作されて周囲の敵を全てチェックする。もう全てお任せや。
不用意に一歩近づいた男を一刀両断に斬り殺す。あったいう間の斬撃に誰も動くことができなかった。喉元から血を噴き上げて男が倒れる。
これで残りは九人や。
「ウグ!」
男達が一歩後退して武器を構える。剣を構えるものが多い中、投げナイフを構える者が一人、手斧を握る者が一人…………こいつらの投げ技には要注意や!
俺の隙をついたつもりか投げナイフが投げられる。インテリジェントソードがそれを難なく弾き飛ばし、弾かれたナイフが別の男に突き刺さる。
「グワー!」
ナイフは見事に男の心臓に突き刺さって、膝から崩れ落ちる。
「引け! 引け!」
叫び声の前から蜘蛛の子を散らすように全員が逃げ出していた。
「フー。助かったでー。ありがとうな。インテリジェントソード!」
それにしてもあいつらの逃げ足、はっや! あっという間に逃げとる。
俺の後ろでガタガタ震えていたメアリーアンが俺にしがみついてきた。小さな胸の膨らみを感じる。少しずつ成長しとるんやね。
「タ、タ、タケオさん。助かったの…………?」
「ああ、あいつら逃げたったでー!」
ヘナヘナと座り込むメアリーアン。腰が抜けるってあるんやね。ゴブリン達と戦った時はもっとしっかりしとったのに、やっぱり人間の方が怖いんや。それとも負けると思っとったから怖かったんか?
「オッチャン、二人も殺したった。捕まるかな?」
「正当防衛ですから…………」
「このままにして、いっちゃったらまずいやんね……」
俺は二人の死体を前に立ち尽くす。
通行人が集まり、衛兵が呼ばれる二人は取り調べに連れて行かれた。
十人くらいに囲まれて戦ったことを説明する。そのうちに、死体の身元が前科者だと判明して正当防衛が認められた。メアリーアンは、初めから疑われていなかったけれど、オッチャンは超疑いの目で見られたで。これは差別とちゃうやろか?
色々あったがホテルまで衛兵が送ってくれた。街を守る衛兵さんって結構面倒見が良いんやなあーと思う。
「これからも気をつけてください。悪党が敵討に来るかもしれません。不意打ちには十分気をつけて!」
衛兵さんがこれからの心構えを教えてくれる。仕返しにくるかもなんやー! 怖いわー。
「奴等が近づいたら俺が教えてやるから大丈夫だ」
もー大好きやで! インテリジェントソードちゃん。
「分かりました。気をつけます」
オッチャンは、衛兵さんに、ニヒルに答える。インテリジェントソードを身につけていれば安心や。…………でもこれでインテリジェントソードを必ず身につけていないといけないわけや。まあ良いか。そんなら、いっそ冒険者風のカッコにした方が良いかしら? 胸当てとか肩パッドとか防具をつけて。
衛兵さんが立ち去ってメアリーアンと二人になったので、冒険者風のカッコについて意見を伺う。
「タケオさんが着たいなら別に良いと思いますよ。でも穴を掘る時は汗をかきそうですけどね」
オッチャンの格好などどうでも良いらしい。確かに汗をかきそうなので、一旦保留とすることにした。重いものを身につければ歩くのだって大変になるし、疲れも増す。よく考えると、戦わないことが前提ならば、良いことは一つもない。
ただ、またダンジョンに潜って宝を探すような時は防具も身に付けようかなと思ったりもする。
今回だって、うまいことピラミッドの入り口を見つけたら、中に入って宝を探す必要が出てくる。それは良いことなんやが、同時に危険も伴う可能性が高まるわけや。
「やっぱり防具は着んでも良いや。かえって動きづらそうやしな」
俺は結局今までのままの格好で行くことにする。
「そうですよ。あんまり厳つい格好は、スマートじゃないですから、今の方が良いと思いますよ」
メアリーアンが嬉しそうにほほえむ。……あれ、オッチャンの格好、どうでも良いわけではなかったらしい。今のままの方がお好みのようやね。確かに厳つい格好の人なんて、ちょっと怖いものがあるし、一緒に歩くのも普通の人の方が良いに決まってるわ!
「今のままでいかしてもらうで。参考になったわ! ありがとさん」
俺は後頭部に右手を当てて照れ笑いをする。
「それじゃあ、お部屋に帰りましょうか」
お・へ・や・に・帰る…………良い響きやなあ! なんか緊張してまうでえ。




