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50 新しい依頼 2

 今日は思ったより早く用事が済んだ。することがなくなった俺はまた剣道場にでもいってみようと思う。昨日は金も払っていないが素振り以外は何もしていない。

今日はちゃんと金を払うので素振りだけということはないだろう。


 道場を訪れるとカテリナとケインが素振りをしていた。ガルド師匠は二人の振りを見つめている。


「失礼します!」


「おお、タケオ君じゃないか。稽古に来たのかね」


「はい。お願いします。日払いで申し訳ありませんが二千ゴールドです」


 俺は稽古の前に代金を支払う。


「剣の道は毎日の素振りからだぞ! それでは正眼からの振り下ろし千回からだ」


 まあ初めは素振りからやな。仕方がないわ。


 俺は剣を渡され、素振りを開始する。…………九百九十九、千。


「次、袈裟斬り左右千回!」


 あ、やっぱこれもやるのね!


 右! 左! 右! 左! ………右! 左! 九百九十九、右! 左! 千!


「よーし。どうだ疲れたかね!」


 俺の足元には流れた汗で水溜りができている。三千回やで、そりゃ疲れるわ。


「いえ、まだまだやれます!」


 オッチャンここで根性見せな、またなにも教えてもらえずに終わりになりそうだ。


「次は受け流しからの上段斬りだ。こう構えて敵の剣撃を受け流してこう!」


 ガルド師匠が手本の方を見せる。両手を高く上げて右肩から胴に向けて剣で守る。そこから回す様に剣を動かし上段斬りだ。


「ここで、構えが悪いと敵の剣撃を受け流せないぞ。やってみろ!」


「はい!」


「右! 左! 右! 左!」

 

 右で受け流して上段斬りをした後は左で受け流して上段斬り、それをなん度も繰り返す。


「よーし、それじゃあ撃ち込むからしっかり受け流すんだぞ。おれの木刀が当たると痛いからなー。真剣なら切られているということだぞー」


 当たると痛いのが言われんでもわかるが……


「右!」


「いてー!」


 右の肩口に激痛が走る。いきなり叩かれたようだ。俺は右腕を押さえてかがみ込む。


「構えがなってなかったな。じゃあまず受け流すところだけ」


 涙をこられた立ち上がり右受け流しの型を取る。


 ガルド師匠が剣の位置を修正する。


「ここはもっとこっち。うんそんな感じ。じゃあ撃ち込むぞ」


 ガシーン!


 かなりの衝撃が剣にかかり、その力で剣が押されて腕に当たる。しっかり受け止めないと敵の剣は流されない。そして腕に痛みが走る。


「しっかりなー、次左ー」


 ガシーン!


「いってえ!」


「しっかり受けないと剣が届いちゃうぞー。右ー!」


 ガシーン!

 

「左!」


 ガシーン!


「右!」


 ガシーン!


「左!」


ガシーン!


 なんとか敵の剣撃を受け流せるようになったようだ。


「右! 左! 右! 左! よくなってきたぞー。次から上段斬りを追加してー」


「受け流して斬る! 受け流して斬る!」


 今日は一つ技を身につけたような気がする。


「これを左右千回ずつやれー」


「はい!」


 師匠の打ち込みは無くなったがあるつもりで受け流しの型からの上段斬りを繰り返す。俺の剣先がぐるりと大きく円を描く。


「右! 左!」


 俺は左右共に千回くりかえした。辺りはもう日が暮れかかっている。


「タケオ君、なかなか良いよ。一日五千回の素振りに耐える体力を持っている人は少ない。君はきっと強くなる」


「三十歳から始めても遅くないんですか?」


 ガルド師匠がニンマリと笑う。この人、褒め上手やなあ。上手くのせられてたくさん素振りをしてもうた。


「大丈夫さ。訓練を積めば必ず上達する」


 その言葉にオッチャンはグンとやる気がみなぎる。


「明日も稽古に来るかい?」


 明日が楽しみだというようにガルド師匠が笑顔を向ける。


「すみません。明日から少しの間、隣町の方で働くのでちょっと来れない日が続きそうです」


 「そうか! 残念だが、それなら自主練で毎日素振りをすると良いよ。素振りは剣術の基本だからね」


「はい。分かりました。体力があったらやるようにします」


 実際、朝から晩まで穴を掘るという状況も想定の範囲内だ。今までずっと穴を掘り続ける毎日だったが、それでも一日中穴を掘っていれば、筋肉は休ませる必要があるのだ。それに五千回も剣を振るにはそれなりに時間がかかる。宝探しをするときはちょっと無理かもしれない。


「それじゃあ、次の稽古を楽しみに待っているよ」


「ありがとうございます。暫く来れないかもしれませんが、また必ずやってきますので、忘れないでくださいね」


「ハハハハハ! 忘れないうちに来てくれよ」


「タケオさん、辞めないでくださいね!」


「おじさん、もう辞めちゃうの? 素振りばっかじゃつまらないもんね!」


 なぜか俺はやめると思われてるやんけ! 確かに素振りばっかじゃつまらない。


 なんとなくこの道場で、他の門弟を見かけない理由が分かったような気がした。


「辞めませんよ! 本当に仕事で来れなそうだというだけですから。安心してください。カテリナさん」


 カテリナは俺の言葉を聞いても心配そうにしていた。


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