47 銀行口座開設
ホテルのロビーで二人が出てくるのを待つ。今日は文化局に結果報告に行く予定や。ついでに銀行で口座を開いて一億受け取ることになっている。
この街には一つだけ銀行があるが、庶民が利用することはない。銀行を使うのはかなり資本力のある人間に限られる。銀行に何か預けるには保管料がかかるのだ。金庫を借りて、安全を保証してもらうのだから当たり前だ。でも庶民にはそんな馬鹿らしい金を使う気持ちも、預ける財産もない。
しかし!
今の俺は一億の財産を持つ身。銀行様ともお付き合いする財産は十分にある。それにまだ分からないが、今回見つけたお宝は数千億の価値があるらしい。やったで。
目尻を垂らしながら二人が降りてくるのを待つ。二人が泊まっている部屋はこのホテルの最上階だった。五階建ての建物は、この街でも指折りだ。
「お待たせしましたー」
階段から姿を現したメアリーアンがプリンちゃんを抱えながら手を振る。後ろでエリザベスが欠伸をしている。今まで寝てたんかいな!
「初めに銀行の方を済まそうぜ!」
エリザベスは戦っている時が一番輝いているなあと思う。普段でもすごい美人には違いないが、やはり戦っている時の生き生きとした表情は、彼女の美しさを際立たせる。
「そうですね。銀行の方は大して時間はかかりませんが、文化局の方は時間が読めませんからね」
「俺はどっちでっもかまわんよ」
実は早く一億を手に入れたいので銀行が先の方が嬉しい。
「じゃあ決まり。銀行はこの近くだから歩いて行けるしね」
銀行の立地条件としてはこのホテルのあたりは良いのかもしれない。近くにあるということがそういうことだろう。このホテルの宿泊者に利用者が多いのかもしれない。つまり金持ちが多いということだけれど。
俺たちはホテルを出て銀行まで歩いた。二ブロックほど離れたところにその銀行は立っている。石作りの重厚な建物でまさに金庫を守る厚い壁を連想させる。出入り口には二人のガードマンが立っていて、腰にはロングソードを下げている。ようがなければ近寄る者はいないだろう。
二人に連れられて、俺は小さくなって銀行の扉を潜る。ガードマンが俺だけを不審そうに睨んでいる気がした。
中に入ると黒い制服姿の男が寄ってきて、揉み手をする。
「これはこれは、メアリーアン・ゲルマイヤー様にエリザベス・ゲルマイヤー様、ようこそおこしいただきました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
奥の個室に案内し、お茶とお菓子を出してから男が聞いた。
「実はこの人の口座を作りたいの」
「ゲルマイヤー様のご紹介ならば、喜んでお作りいたしますよ」
チラリと俺を見て、すぐメアリーアンに視線を戻す。
「とりあえず、今日この人に私の口座から一億支払うことになっているのよ」
男は俺の方を向いてニッコリ微笑む。
「トレジャーハンターのお仲間ですか?」
「そうよ。私の大事なパートナーなの。それから宝を見つける度にこの講座に振り込むことになると思うわ」
「ありがとうございます。それでは早速手続きに入らせていただきます」
男は俺の方を向き大きく頭を下げた。
「申し訳ございません。お名前と年齢、ご住所をお伺いできますか? お仕事はトレジャーハンターでよろしいですね? もしや国家トレジャーハンターの方でいらっしゃいますか?」
男の笑顔が気持ち悪いがそこは顔に出さずにしっかり答える。
「俺は堀田岳男、三十歳、妻なし、彼……じゃなくて、住所はコリント市、東地区五三八三番地、国家トレジャーハンターだ」
「素晴らしい! 国家トレジャーハンター様でいらっしゃる。素晴らしいお宝を見つけられたのですねー」
俺は答えられずに苦笑する。
「それではこの口座開設依頼書に間違いがなければサインを」
見せられた紙には名前、年齢、住所、職業が書かれている。俺は字が読めないのでメアリーアンに目配せをすると彼女が覗き込み頷いた。自分の名前ぐらいは分かるんだがな。
サインをしてしばらくすると金属製のプレートを渡される。
「これが口座証明プレートでナンバーとお名前が彫られております。こちらは納出金や、貴重品の保管・取り出しの時に必要になりますので大切にしてください」
俺はうやうやしくそのプレートを受け取る。
「口座ができたのなら私の口座からタケオさんの口座に一億移してちょうだい。文化局から二億振り込まれているはずよ。二人で見つけた物の代金なの」
メアリーアンがテキパキとことを進める。これからまた文化局に報告に行かなくてはならないのだ。時間は無駄にできない。
「分かりました。今確認してまいります」
男が席を立ちすぐに戻ってくる。
「確かに文化局から二億振り込まれてございます。あと、商業ギルドから買取代金として六百万の入金がございますね」
「六百万で売れたのね。じゃあ三百万はタケオさんの分だわ。三百万も振り込んでちょうだい」
「一億と三百万でございますね」
男の問いにメアリーアンが頷き、また席を立つ。そして男は、二枚の紙を持ってきて俺とメアリーアンに一枚ずつ渡した。
「そちらが現在の口座の中身でございます。お確かめください。そちらはなくしても構いませんが保管しておいていただけると幸いです」
「ありがとう。これから文化局に行かなくちゃいけないからそれじゃあね」
「またのお越しをお待ちしております」
男が大きく頭を下げ、三人が出口に向かうと出口まで見送りについてきて大きく腰を折り見送った。