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46 相談

「タケオ!」


 家に帰る途中で後ろから声をかけられる。エリザベスの声だ。振り向くとやはりそこにはSランク冒険者のエリザベスがいた。


「え! どうかしたんか?」


「クマタニ組は辞めたのか?」


 質問に質問で答えられる。


「ああ。これからも無断欠勤すると迷惑かるし……」


「それが正解だぜ。今日は、口座にニ億入ったことを知らせに来た。明日は文化局に報告に行きたいとアンが言っていたぞ。同行できるんなら朝ホテルに迎えに来てくれ。それと、良かったら晩飯一緒に食べないか?」


「良いでー。ベスと一緒に晩飯なんてデートみたいやね」


「アンが一緒に食べたいって言ってるんだ。これからの相談もしたいらしいぞ」


 ですよねー、二人で食事じゃないですよねー。


「これからの相談って……」


 まさかこの辺の探索も終わったし、これでお別れってわけじゃあないやんね。プリンちゃんがおらんと、オッチャンだけでは何も見つけられんでー。


「これからホテルに戻ってアンと合流するぞ」


 俺は頷きエリザベスについていく。


 なんの相談(首か? 手切れ金か?)だか分からんので少しドキドキしながら、クマタニ組の仕事を辞めた今はメアリーアンと一緒にトレジャーハンターをすることが、これからの大切な仕事になったことを思い知る。


 メアリーアンと会うのに、こんなに緊張するのは初めてや。


 ホテルに到着し、部屋を訪れるとプリンちゃんが尻尾を振って迎えてくれた。可愛いねえ! 目尻が下がる。


「あ! タケオさん今晩は。これから食事ですけどー」


「アン、タケオも一緒に来てくれるそうだぜ。話があるんだろう?」 


「悪い話かいなー」


 心配そうな俺の顔を見てメアリーアンが微笑む。


「たいした話じゃないですよ。これから何処のお宝を探そうかという相談です」


 これからも一緒にトレジャーハンターをやっていけそうで安心する。


「そんじゃあ、美味いものを食いながら、相談しようや。何処で食べるか決めてるの?」


「この部屋に運んでもらうように手配しますので大丈夫ですよ。地図とか広げて話をしたいので」


 何が大丈夫なのか分からないけれど、多分他人に見聞きされたら不味い宝の情報とかがあるのかもしれない。なんとなくワクワクし出したで。


 メアリーアンが泊まっているこの街最高級のホテルの高い部屋は広くて立派だ。


 床の上に大きな地図を広げ出し片手で顎を支えて考え込むメアリーアン。


 プリンちゃんが尻尾を振って地図の上を歩き回る。


「プリンちゃん、お願い。今度は何処を探そうかしら?」


 プリンちゃんがクンクン嗅ぎ回りながら地図上をウロウロする。


 地図の匂いで何か分かるんかいなあ? そんなのおかしいでー。


 それでもプリンちゃんは暫く地図上をウロウロしながら最終的にここだと言うようにメアリーアンを見上げた。


「ここねー。あら隣街のプロムの郊外ね」


「近くて助かるな」


 プロムはここから西に三十キロくらい離れた所にある小さな城塞都市だ。プロムの西に『ニシプリ』という有名なダンジョンがあり、周囲は他所より魔物との遭遇率は高いと言われるが、まあまあ安全な地域だ。


「『ニシプリ』の近くを探索することになりそうだわ。ベス、続けて護衛をお願いできるかしら」


「かまわないけど、あの辺ならタケオ一人で大丈夫だぞ。そうそう魔物と出会わないだろうし」


 メアリーアンとエリザベスが二人で話を進める。


 部屋に食事が運ばれてきたのかドアがノックされた。


 メアリーアンが足元の地図をしまい始め、エリザベスがドアに向かう。


 ドアを開けるとワゴンを押したホテルマンが三人入ってきた。ちょっと料理が多すぎないか?


 中央の大きなテーブルの上に料理がセットされ、お辞儀をしてからホテルマンは帰っていった。


「このホテルの料理人は、比較的腕が良いのよ。多分、この街のホテルの中では一番にね」


 料理評論家か、ホテルの格付け調査員かというようなもの知り顔で教えてくれる。料理上手でお金持ちのメアリーアンの言うことなので信用はできそうだ。


「さあ、冷えないうちにいただきましょう」


「タケオ、食べようぜ」


 俺は頷きテーブルに座る。目の前にはパンに肉料理にスープ、サラダ、ケーキにフルーツが所狭しと並ぶ。


「だいぶ頼んだな」


「これでセットメニューなのよ」


 俺の言葉にメアリーアンが応える。こんなにたくさん……俺のような庶民には初めての体験や。


「お酒はワインなんだけど、良いでしょう?」


「私がついでやるぜ!」


 ポン! という音を立てて栓が抜かれる。スパークリングワインに違いない。


 エリザベスが継いでくれたワインを口に運ぶとシュワっと甘い香りが口いっぱいにひろがった。


「このワインはシャパール地方の特産なのよ。よそにも似たような物はあるけど、シャパールのスパークリングは特別ね!」


 確かに美味いのだがこういうワイン自体が初めて飲むので比較の対象がない。生活レベルの差というのを感じる。


 メアリーアンは、満足そうにワインを口に運ぶ。


「肉もまあまあだな!」


 エリザベスも美味しそうに食べ始めている。


「ワン!」


 尻尾を振っておねだりするプリンちゃんに、メアリーアンが肉を切って与えている。味が付いてるのあげても大丈夫なんやろか?


 肉を食べたプリンちゃんが、口の周りをペロリと舌で奇麗にした。


 もっとくれやて! 気持ちは分かるで。はい、お食べ。俺はパンを差し出した。


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