45 剣真流道場 2
「ちわーっす!」
元気な声が道場に響き渡る。
「ケインが来たようだな」
ガルドが嬉しそうな声を響かせる。
カテリナがパタパタと迎えに走った。
俺は初めて兄弟子に対面するのだと思うと緊張するが、表情を変えずに剣を振り続ける。怖そうな人だったらやだなーーなどと思っていると一人の少年が現れた。
へ! 兄弟子が子供?
背丈からして十歳くらいの男の子だ。髪は銀色で手足は細くイタズラっぽそうに青い目をキョロキョロさせている。
「おじさん誰ー!」
俺を見るなりおじさん呼ばわりかい! 確かにおじさんだろうがな。
ちょっとめんどくさそうなちびっ子が先輩とは困ったものや。
「ケインちゃん。いきなり失礼よ! ご挨拶しなさい」
カテリナさんはケインにお説教モードである。きっとこのいたずらっ子にいつも手を焼いているに違いない。
「おじさん。コンチー!」
「『おじさん、こんにちは』でしょう」
「おじさん、こんにちは」
おじさん呼びは変わらんのかーい! カテリナさんにもおじさんと認定された………ぐすん。
「こんにちは。今日から入門するタケオというものだ。よろしくね」
俺はカテリナさんにおじさんと呼ばれてショックが冷めやらないのをひた隠しにして挨拶する。
「タケちゃん、よろしくー」
スタスタと近寄り俺を見上げる。俺は構わず素振りを続けているが、観察されると体がムズムズする。
「へへーん。タケちゃんまだ袈裟懸けかー。俺なんて、もっといろんな素振り、やってるもんねー。まだまだだなー」
く! 十歳そこそこの子供にばかにされてもーた。恥ずかしいー。
「当たり前でしょ。ケインちゃん。タケオさんは今始めたばかりなんだから!」
「ケイン! 早く素振りを始めなさい!」
「はーい」
俺の横でケインが素振りを開始する。
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
軽いが素早い振りだ。なかなかカッコも良い。
俺とケインが並んで素振りを続ける。
ケインは少しすると振り方を変える。上段斬り、袈裟斬り、横薙ぎ、下段斬り。
素振りが終わると腕立てと腹筋だ。俺はまだ袈裟懸けの素振りを続けている。
ケインは筋トレを終えてまた俺の周りを面白そうに見て回る。そしてカテリナの周りをまわりだす。
「ねえねえ! おねーちゃん。今日は相手になってくれるー?」
「しょうがないなー。ちょっとだけだよ。一本でおしまいね」
仕方なさそうにカテリナが練習用の剣を握った。当たっても怪我をしないように工夫されたものだ。もちろんケインの持っているのも練習用の剣だ。
「ちゃんと寸止めできるんでしょうね! 私痛いの嫌だからねー」
「大丈夫だよ。毎日素振りしてるし」
「本当かしら?」
カテリナがくすりと微笑んで、正眼に練習用の剣を構える。
「ヘヘヘー」
ケインは嬉しそうに練習剣を持って、カテリナの周りを回りだす。
「えーい」
ガキ!
ケインの打ち込みをカテリナが受け止める。
ガキ! ガキ! ガキ! ガキ!
ケインの猛攻が始まるがカテリナは涼しい顔で受け続けた。
「えーい」
ガキ!
ケインの攻撃がしばらく続いた。ケインの額に汗が光る。カテリナが好きを見つけてケインに攻撃、ケインがひょいと飛んで逃げた。
俺が剣を振る横で二人の戦いがまだまだ続く。俺は間違って二人を斬らないか気が気ではない。
ガルド師匠は楽しそうに二人の戦いを眺めている。
俺も素振りをしながら二人の戦いを眺め、結構ハイレベルだなあと思っているとケインの攻撃が激しさのレベルを上げる。
ガシ、ガシ、ガシ、ガシ!
だがカテリナは涼しい顔だ。
この二人、オッチャンより絶対強いで! 俺十歳の子供より弱いのね。やっぱり魔物と戦うのは控えた方が良さそうやな。
ガキーン!!
大きが音がしてケインの練習用の剣が弾け飛んだ。カテリナが飛ばしたのだ。
「ケインちゃん。強くなったね。ちょっと加減し損ねちゃった!」
和かに微笑むカテリナにくやしそうにケインが横を向く。
「チェ! やっぱりねーちゃんは強いな!」
頭の後ろで両腕を組み拗ねるケインが子供っぽくて可愛い。
くるりと俺の方を見て、ニッコリ笑うケイン。
「タケちゃん! 俺と勝負しない?」
絶対勝てんと俺は確信し、二へラーと笑って誤魔化そうとする。
「こら! ケイン。今日はそのくらいにしなさい」
ガルドがケインを叱りつけた。助かったでー。
「はーい」
沈んだ声でケインは返事をしてふて気味に下を向いた。
なんとなく自分のレベルがたいしたことないと分かって、ここに来た意味はあったなあと思うオッチャンであった。
俺は素振りをやり終えて今日の稽古が終了した。結局素振りをしただけや。
「剣の道は素振りからだ! 素振り千回、自ずと実力は養われる。これからも頑張れよ」
本当かいなあ? 師匠の言葉が虚しく響く。
なんや単に煽てられてその気になってただけで全然強くもなってないやんけ! 才能がどうのとか言っとったけどそれもお世辞に違いない。
ぼちぼち通えば少しは強くなるかもなと目標を小さく修正する。オッチャンいつもそんなもんやったからな。死なないように頑張ろう。
「今日は、ありがとうございました。時間がある時は通わせてもらいます。以後よろしくお願いします」
俺は別れの挨拶を済ますと自宅をめざした。




