42 クマタニ組
久しぶりにクマタニ組の現場に来ている。そして現場監督はお冠だ。
三日も無断で休んじまったんだから当たり前である。
「またしても無断欠勤か! タケオ。良い根性してるじゃねーか?」
「すみません」
「どこか体が悪いのか? 病気か? 人に言えない病気なのか?」
どうやら病気なのではないかと心配されていたれしい。
「病気ならそう言えよ! 今までこんなことなかったのに、ここに来て急に休みが増えて、しかも無断欠勤だからな。突然倒れたとか何かか?」
トレジャーハントのために無断欠勤したとは言い出しにくい雰囲気。やばい。
答えづらそうにしている俺の周りで穴を掘るピッケルの音が響く。
「突然……帰って来れなくなりまし……て……」
消え入りそうな俺の声が騒音にかき消される。
「なんだって! 良く聞こえねーな!」
俯く俺に大声で怒鳴る現場監督の声は、周りの者には相当叱られているように映るのだろう。周囲の視線が集まっているのが痛いほど分かる。
「あの! 俺最近ー」
「タケオ! この前は済まなかったな。よく生きて帰ってくれた」
俺の言い訳を打ち消すように卓郎が割って入る。
「こいつ、俺がダンジョンに置き去りにしたのでもう生きて戻れないかと思ってたんすよ。いやー、本当に生きて帰ってくるとはな!」
卓郎がわけの分からない言い訳をねじ込んでくる。
「とにかく今回こいつが休んだのは、全部俺が悪いんです。もう死んでいてもおかしくない状況で」
「どういうことだ! 卓郎」
現場監督が顔を真っ赤にして卓郎にくってかかる。
「実は、休みの日にバイトでダンジョンの荷物運びのバイトに行ったんです。こいつは嫌がってたんですが、俺が無理やり頼み込んで」
「慎重派のタケオはそんなあぶねー所に行きたがらんわなあ!」
「それでたくさんの魔物に襲われて、始めは走って逃げたんですが追いつかれて、こいつが戦ってるのを皆んな見捨てて逃げちまったってわけです。俺はもうこいつは助からねーと思ってたんで……」
卓郎は気まずそうに頭を掻きながら現場監督の顔を上目使いに覗き見る。
「それでお前は、今まで黙ってたのか!」
「すみません。もう死んでるとも言い辛く……」
わけの分からんストーリーが出来上がっている。俺は呆気に取られて卓郎を見る。
「それで、今日やっと戻って来れたってわけか?」
俺の方を振り返り、キツイ口調で聞いてくる現場監督に、俺は思わずうなずいた。よく分からんが卓郎の努力を無駄にしてはいかんやろう。なんか嫌な予感はするのやが。
「それでタケオ! お前どうやって生き残ったんだ?」
ほらきたで。どういう言い訳をしたら良いんやろう。こうなるから嫌な感じがしたんや。俺、そういう言い訳考えるの苦手やねん。
「むむ、むちゅ、夢中で、たた、た、戦って、に、に、逃げ、逃げ回って、なんとか生き延びられました。はい」
俺は青い顔でなんとか言い訳をしたが、とても納得してくれるとは思えない。だいたい俺は全然戦えないと思われているはずなのだ。
「そうか! 諦めずに頑張れば、世の中何とかなるもんだな。運がよっぽど良かったのだろう」
俺の説明で納得する現場監督に、俺は驚かされる。ああ、この人も俺と同じで頭悪かったんや。よくこんな言い訳で納得できるもんやで。卓郎ありがとう。
卓郎が、現場監督の斜め後ろから俺にVサインをこっそり送ってよこす。引き攣った笑顔に冷や汗が光っている。苦しい言い訳ご苦労さん。
俺を二度も置き去りにしようとした罪滅ぼしのつもりか知らんが、戦えない卓郎の気持ちはよくわかる。きっと立場が逆なら俺もそうしたことだろう。恨みは消えんけどな。
あれから俺たちは遊んで暮らせるほどのお宝を発見したことを卓郎は知らないが、わざわざ教えてやることもないやろう。だがこのままこの仕事を続けるかと言えば、答えはノーだ。
俺はもう一生遊んで暮らせるだけの財産を手に入れたはずや。この際仕事も辞めようと思っている。
ながれは、首を免れそうな感じやが、ここできっちり辞職しておいた方が良いと思っている。そもそもそのために、今日職場をおとずれたのだ。迷惑をかけた謝罪も兼ねて。
「続け様に迷惑をかけて、本当に申し訳ありませんでした」
俺は現場監督に土下座をして謝った。
「仕方なかったのは分かったから頭を上げろよ」
監督は膝をついて俺の肩に手をのせる。
「俺、責任をとって職を辞そうと思ってるんです。それにこの前休んだ時、トレジャーハントに成功しまして、一億くらいの宝を見つけたんです」
俺の言葉に現場監督と卓郎が言葉を失い石化する。
「それで、もう、働く必要がないっていうか……宝探しに目覚めたっていうか……」
二人の石化が解けない。
「………………」
「そういうわけで、仕事は辞めようと思います」
「………………」
聞き耳を立てていた周りの作業員も石化している。
そういうわけで、俺はこれで失礼します。今までありがとうございました。
俺は踵を返してその場を後にする。トンネルから出ようかというあたりで後ろから「えー!」という大きな声が響いてきた。




