38初めての依頼 12
それから俺は、いや、インテリジェントソードは、夜の三時までに3回ホブゴブリンを撃退した。ダンジョン内では魔物がかなり動き回っているらしく結構ちょくちょく通りかかるのでいちいち起こしていたら眠ることができなさそうだ。
インテリジェントソードの活躍がなければエリザベス達は寝る暇もなく起こされ続けていただろう。
エリザベスもきっとホブゴブリンを瞬殺にするだろうから俺を起こさず対応してくれるはず。
エリザベスを起こした俺はあれから四度ホブゴブリンがやってきたことを告げ、起こすかどうかの判断は、エリザベスに任せることにする。毎回起こされては眠ることができなさそうだ。
それにエリザベスはSランク冒険者で、ホブゴブリンくらい簡単に瞬殺できるはず。俺は安心して眠ることにする。しかし、夜の方が魔物の動きが激しいんやね。
「大活躍だったんだね! おかげでよく眠れたよ。今度は私が頑張るから安心して寝ていてよ」
そう言って守りについたエリザベスが朝三十個もの魔石を渡してくる。夜中に何度もホブゴブリンが来たようだ。
朝方ーーといってもダンジョン内では朝も夜も分からないがーーインテリジェントソードに三十もの魔石を食わす。インテリジェントソードが益々力を増すのを感じる。
俺達の朝食はメアリーアンの作った出来立てのシュガートーストだ。たっぷりの砂糖を柔らかくしたバターに混ぜ込み、パンに塗った上に刻みチーズを振りかけ焼いて焦げ目をつける。朝からなんとも贅沢な逸品だ。
「アンのシュガートーストは最高だな!」
エリザベスが満足そうに頬張る。
「こんな美味いパン食ったことないでー」
俺も初めてのシュガートーストに驚きを隠せない。こんな食い方もあるんやね。俺は今までパンといえばそのまま齧るものだと思っていた。貧しい食生活が恥ずかしい。
「今日中に宝の部屋まで行けるかしら?」
地図を出して見ながらメアリーアンが呟く。
「余裕で行けるでしょう」
エリザベスが地図を覗き込みながら自信をのぞかせる。メアリーアンが寄り添いながら覗き込むエリザベスを見つめて頷いた。
今日お宝を発見できれば明日中には地上に戻れるかも。クマタニ組、首にならんで済んだら良いなーーいや、もうトレジャーハンター一本でやっていった方が良いんや。
今だにクマタニ組の仕事が気になるとは、なんと未練がましい情けない男なんや。我ながら情けなくなるでえー。
食事を終えると早速宝を目指して先に進む。地図の印が宝の在処だと確信していたが、なんの根拠も無いことに気付く。普通宝の在処だろう。現れるのホブゴブリン達をエリザベスが片付けていく。
俺も拾うが、いちいち魔石を拾って渡すのが大変そうだ。
「魔石を拾うの面倒だから、俺が倒せばインテリジェントソードが倒しながら魔石を吸収できるで! なんなら俺が先頭で戦おうか?」
昨日の夜で、戦う恐怖が麻痺してしまった俺が、エリザベスに提案するとエリザベスも頷く。
「それは助かるよ! そろそろゴブリンの相手は飽きてきたんでな」
俺はエリザベスと交代して先頭に立つ。インテリジェントソードが敵を察知して俺の体を動かした。
流れるように優雅に俺の体を操って、現れるホブゴブリン集団を食っていくインテリジェントソードに、俺は安心して身を任せる。なんだか自分が強くなったような気がする。
「タケオさん、強ーい!」
「うむ。素晴らしい体捌きと剣筋。魔石を的確に捉えているな」
俺は褒められても微妙な気持ちだ。嬉しくないわけではないのだが、インテリジェントソードの力なので自分が褒められているのではないのだ。
体捌きも、少し前なら屁っ放り腰で足はべたりと地について動かなかった。掛け声ばかりで剣を振りかぶることすらままならなかったのだ。
「これって全部インテリジェントソードの力なんや」
俺は照れくさそうに頭を掻く。
「また来たぞ。ホブゴブリン五匹だ」
インテリジェントソードの声がして俺がまた迎え撃つために前に出る。
「ギギギー!」
目の前に現れたホブゴブリン五匹を見て俺は余裕の笑みを漏らす。思えば俺も度胸がついたものや。ホブゴブリン五匹を前にして笑っているとは。
「いくで!」
俺の掛け声で俺の足が勝手に動く。
「ドーリャー!」
俺はノリノリでインテリジェントソードを振り回す。
ホブゴブリンが手に持つ棍棒でインテリジェントソードを受けようとするが、それごと切り倒して煙に変える。
俺は五回剣を振り全ての敵を葬り去った。
……ホブゴブリン相手なら無敵やなあ。鼻高々、自信満々の俺。なんだか戦うのが好きになってもうた。
インテリジェントソードもまた強くなった気がする。
「今度はちょっとマシなのが来たぞ」
インテリジェントソードが次の敵の襲来を知らせた。
「マシってなんやねん?」
「たぶんゴブリンナイトとホブゴブリン四匹だ」
ゴブリンナイトという初めて戦う相手に俺は戦うのが急に怖くなる。
「大丈夫か?」
「任せろ!」
力強い返事に少しだけ安堵した。




