37初めての依頼 11
「初めはタケオが夜警にあたって欲しい。途中で交代してくれ」
「分かったで」
「私達、それじゃあ先に眠りますね。この腕時計をお貸ししますので、この短い針が三を指したらエリザベスを起こして交代してください」
この魔道具は、腕時計というんかいな? 俺は渡された腕時計を右手に巻いた。
今ホブゴブリンがやってきたばかりやから、そんなに直ぐにはやって来ないやろう。
俺はインテリジェントソードを抱き抱えながらテントの前に座り込んだ。中にはメアリーアンとエリザベスが横になっているはずや。
ダンジョンの壁が薄らと輝いて辺りを照らす中で迷路の左右に注意を払う。静寂が辺りを包み恐怖がオッチャンを侵食する。
物音に神経を集中していたらメンタル的に持ちそうがない。警戒はインテリジェントソードに頼もうと思いつく。
「魔物、ゴブリンきたら教えてえな」
「良いぜ。寝るなよ」
俺が小声で頼むとインテリジェントソードは良い返事をくれた。
これで細かいことは気にせずビクビクしなくて済む。何か他のことでも考えていれば良い。
地図の通りなら、この階にお宝があるはずや。魔物もホブゴブリンしか出てこないし、この調子ならもう二、三日で地上に戻れるんやないかな。
どんなお宝が眠っているのか楽しみになる。腕の時計に目をやる。これも古代のお宝やろうか? こんなん今の技術では作れん……いや、作れるか?
道具に魔法を付与する付与魔法術師というもんがおるらしいからな。そんなんできたらおもろいやろな?
「おい、ホブゴブリンだ。左側から五匹の群れがやってくるぞ」
一時間ほど物思いにふけっていると突然インテリジェントソードの声が響く。
エリザベスを起こさなあかん!
俺はテントに首を突っ込むとエリザベスに声をかける。
「おい、ベス! ホブゴブリンや! 起きてくれ!」
「うーん、ゴブリン?」
目をこすりながらエリザベスが身を起こす。
「頼むでー!」
俺は外の出てインテリジェントソードを構えた。ホブゴブリンはもう吸う目先まで近付いている。
「いくぞー!」
インテリジェントソードを掴んだ腕がグンと引っ張られだんだん体が無意識に動き始める。
オッチャンいつの間にかホブゴブリンの群れの中に飛び込んでるやないかい!
インテリジェントソードがホブゴブリンを斬りまくる。上段斬り、袈裟斬り、斬り上げ、横薙ぎ、自由自在にインテリジェントソードが動き回り俺の体はそれに見合った動きをしている。
ホブゴブリン五匹をあっという間に斬り殺して本人が一番驚いていると、後ろで拍手がおこる。
「すごいですー!」
「素晴らしい立ち回りだったぞ!」
テントから顔を出したメアリーアンとエリザベスがニコニコしながら褒めてくれた。嬉しいが恥ずかしい。そもそもこれはインテリジェントソードが俺の体を動かしただけだ。俺は何もしていない。
「これなら私は安心して寝ていられるな」
「それは困るよ。俺は本当は戦うのは怖いんや」
俺は焦って懇願する。
「これからも起こして良いんだよね?」
「ああ、起こしてもらわないと困るがな。だが起こすまでもないと思ったら寝かせておいてもらえると助かる」
判断を俺に投げてよこすとは、困ったことになった。頭脳労働は苦手である。たくさん寝かせておいてあげられればそれに越したことはないのやろうが、起こさないまま俺がやられてしまうとエリザベス達もやられてしまうやろう。
俺が困った顔をしているとインテリジェントソードの声が響く。
「俺に任せな。瞬殺できなさそおなら起こせと言うぜ」
「助かるよ。頼んだぞ」
最近インテリジェントソードの働きが目覚ましい。オッチャンすっかりインテリジェントソードをたよりにしている。取り憑かれてしまいそうや。
体が勝手に戦ってくれるので怖いと思う暇もない。あれあれと思っている間にゴブリン達を斬りまくっている。なんだか快感に思えてきているのは問題なんやろうか?
このままでいくとバトルジャンキーになってしまいそうでチョット心配になる。でも快感の方が上まりそうな自分が怖い。
メアリーアンとエリザベスがテントに引っ込んで眠りについた頃、またホブゴブリン達が近づいてきたのをインテリジェントソードが知らせる。
「向こうからホブゴブリン五匹がやってくるぜ。瞬殺だ」
「分かったでやっちゃてちょ!」
インテリジェントソードを握る俺の体が走り出していた。
眼前にホブゴブリン達を望み、ぐいと身をかがめ、ためを作ると一気に飛び出して横薙ぎ一閃、二匹のホブゴブリンの胸が切り裂かれ中の魔石が二つに斬られるとホブゴブリンは煙に変わる。続け様に横に身を回転させ振り向きざまの袈裟懸け斬りでもう一匹倒して駆け抜ける。
残った二匹が突然現れた俺に驚き引き気味に構えているところにまた突っ込んで、右に左に剣を振ると二匹のホブゴブリンも煙に変わった。
「まあこんなもんだろう」
インテリジェントソードの得意そうな声が聞こえる中俺はテントの方に歩き始めていた。
余裕で魔石を斬っているインテリジェントソードに信頼を感じる。こいつ俺の体を完璧に操縦しているな! まるで剣聖のような身のこなしに自分でも驚いたでーーいや、そこまでじゃあないかな? 知らんもんが見たら惚れてまうに違いないやん。
俺はテントの前の定位置に戻ってムフフと笑った。




