33 初めての依頼 7
ゴブリンの群れが目の前に迫っていた。俺はメアリーアンを守るように背中で隠す。
いきなり先頭のゴブリンが飛ぶかかってくる。
やべー、やられる! ……と思った瞬間体が勝手に動いていた。
俺は両手でインテリジェントソードを振りかぶり、袈裟懸けに振り下ろす。飛びかかってきたゴブリンを一刀両断に斬り殺していた。続けざまに俺は剣を振り回し、三匹のゴブリンを葬りさる。
あれ? 俺めっちゃ強いやん? 体が勝手に動いている。
連続で剣を振り続けて、四匹のゴブリンをもう斬り殺していた。ゴブリン達は煙とへと変わっていた。魔石はインテリジェントソードが食ったのだろう。ダンジョン内では泡にならないらしい。
「俺に任せろと言ったじゃねーかよ。驚くことはねーぜ。俺がお前の体を動かしたのさ」
「キャー、タケオさんすてき!」
メアリーアンが俺の剣技を見て黄色い悲鳴をあげる。多分……怖かったんとちゃうでー。
その悲鳴に走り去った四人が足を止めて振り返る。
ゴブリン達は一瞬の出来事に驚き動きを止める。
「ギギギー」
「くるならこいやー!」
オッチャン強気で大声をあげる。だが背中のメアリーアンを守るのは忘れない。
「タケオ、お前剣が使えたのか?」
立ち止まった卓郎が驚きの声を上げた。
「やるじゃねーか、あいつ」
金髪ロン毛が俺を褒めた。
「形勢逆転だなー!」
スキンヘッドがニヤリと笑う。
「六匹か! あいつと一緒なら余裕だぜ!」
トサカ頭が踵を返す。
「てめーら、俺にこいつら押し付けて逃げようとしただろ! 違うんならはやく助けろー!」
俺の怒りの声が響き渡る。そして近づいたゴブリン二匹を一刀両断に斬り殺す。
ボワンという鈍い音がして煙が上がり魔石が吸収される。ダンジョン内では死んだ魔物は煙と魔石に変わるのだ。
さすがはインテリジェントソードが俺の体をコントロールしているだけのことはある。卓郎達四人の目には、俺の姿が相当な剣の使い手に映っているはずだ。
残ったゴブリンは四匹、金髪達が勢いづく。四匹くらいなら、金髪達もいつも倒しているはずだ。急に余裕を見せ出し近づく足取りも軽くなる。
「ヘイヘイヘイ! 俺たちを甘く見たのが間違いだったな!」
「しんだな、お前ら死んだわ!」
「逃げられると思うなよ……へ!へ!へー!」
「タケオ、悪かったよ。助けてくれてありがとう。お前は命の恩人だー」
何勝手なこと言ってんだと思いながら残りのゴブリンの動きに注意を払う。
バタバタと足音がしてまたゴブリンがやってきた。その数五匹。
形勢最逆転か?
金髪ロン毛達の顔色がかわる。
「ギギギー!」
ゴブリン語は分からないが形勢逆転だとでも言ってるのだろう。
スキンヘッドが一歩後退り、トサカ頭が踵を返す。
おーい! さっきの勢いはどこに行ったんだよ!
「タケオさん、頑張ってー!」
メアリーアンの黄色い声援。
「そうだ頑張れー!」
卓郎お前!
「お前ならできる。頑張ってくれ!」
ロン毛、お前ら参戦せんのかーい!
メアリーアンを守る俺を九匹のゴブリンが取り囲む。
やばい! 後ろに回られたらメアリーアンを守れない。
その気持ちが伝わったのか俺の体は自然に動いていた。もちろん動かしたのはインテリジェントソードだ。
ゴブリン集団の片端に突っ込むと横薙ぎ一閃、一気に二匹のゴブリンを切り倒し、そのまま残りのゴブリンに斬りかかる。
メアリーアンはしっかり俺の背中についてきている。ナイスだぜ! メアリーアン。
三匹目、四匹目と斬り殺して残りのゴブリンに睨みを効かす。
「どうだ! 言った通りだろう!」
得意そうに拳を挙げるロン毛がスキンヘッドとトサカ頭にドヤ顔をした。
俺ならできるとかって言ってたあれかい? 単に、俺を戦わせようとしただけやんかい! ドヤ顔する前に早よ参戦せんかい!
「ギャギャーー!」
ゴブリンの悲鳴が木霊する。
見ればエリザベスが戻ってきて後ろからゴブリン達に斬りつけている。
素早い身のこなしと剣撃は一瞬のうちに五匹のゴブリンを煙と魔石に変えた。
五匹のゴブリンが一瞬のうちに斬り殺されたのだ。
「さすがはベスだわ!」
メアリーアンが両手を挙げて飛び跳ね歓喜する。
「遅くなって悪かったな!」
カッケー! なんて男前なんでしょう。オッチャンもやってみたいでえ。
もお百匹近いゴブリンを皆殺しにしてきたのかよ。全然遅くなんかないやん。
「早かったやんか。助かったで!」
俺は心からエリザベスに感謝した。
「タケオもメアリーアンを守ってよく戦ったみたいじゃないか」
エリザベスが俺を見ながらねぎらってくれる。……ええ子やのう。
ロン毛達三人が呆気に取られて互いに顔を見合わせている。死ね! お前ら。
それにしてもこいつら、一度ならず二度までも俺とメアリーアンを見捨てようとしやがって。今度こんなところを見つけても、決して助けん。卓郎! お前も最低や!
俺は魔石を拾い集めてから言った。
「先に進もうぜ!」




