32 初めての依頼6
インテリジェントソードが強くなっているのは分かったが、身を任せて良いのか少し不安になる。
「大丈夫だぜ。俺はお前を乗っ取ることはできないからな。乗っ取っても仕方ないし」
俺の不安を察したのかインテリジェントソードが話しかけてくる。
「タケオ、どうかしたか?」
浮かない顔の俺を見て、エリザベスが心配そうに探りを入れる。
「うーん。別に……」
「インテリジェントソードが成長するのは悪いことじゃないぞ。心配するようなことはないはずだ」
Sランク冒険者のエリザベスならいろんなことを知っていそうだ。そのエリザベスが心配ないと言うのだから、大丈夫なのだろう。
「ありがとう。ベス。実は、インテリジェントソードが成長するのが怖かったんや」
俺が正直に打ち明けるとエリザベスが笑いながら言った。
「逆にインテリジェントソードが成長すれば、より強い武器を持ったことになるんだ。タケオにとっても良いことだぞ」
「そうですよタケオさん。その剣は、悪いインテリジェントソードじゃなさそうですし」
「悪いインテリジェントソードもあるんかい?」
俺は驚いて聞き返す。
「よくは知りませんが、無性に戦いたくなるインテリジェントソードがあると聞きます。どんどん強いものに挑もうとするため、命を落とすことになりやすいとか」
それはないなと安堵する。なにせ俺は戦いが怖くて仕方ないのだ。インテリジェントソードをじっと見つめて大丈夫だと自分に言い聞かせる。
「俺はそんなことしないぜ! ちょっと食わせろと頼むことはあるけどな! 無理やり戦わせたりしないから心配するなよ」
「分かったで。お前のことは、信じちゃる」
確かにこいつは食わせろとおねだりするが、程度はわきまえているような気はしている。限度ないやつだと悪いインテリジェントソードになっちまうわけやな。
「また来たか! このあたり、かなりの数がいるな」
敵を感知したのだろう。エリザベスが走り去る。そしてまたすぐに戻ってきた。
「はい。これ」
ゴブリンの魔石を五つ差し出され、インテリジェントソードに食わせていると、エリザベスが顔色を変えた。
「四人組が、ゴブリンの群れを引き連れてこっちに逃げてくるぞ!」
四人組と聞いて俺の頭に卓郎達のパーティーが思い浮かんだ。
「いったい何匹くらい引き連れているんや? 知り合いかも知れんから、できたら助けて欲しいんやけど」
俺はエリザベスに祈りを捧げるように懇願した。
「昨日の方達ですか?」
メアリーアンが俺を見る。俺はゆっくり頷いた。
「百はいそうだな。倒すのは簡単だがタケオとアンを守りながらは難しいかも知れん。タケオも戦ってくれるか。メアリーアンを守ってくれれば、私は機動的に動き回れる」
オッチャンは、突然やってきたピンチに顔色を変えて固まる。
「戦いたくなかったら急いで後ろに引き換えそう。走ればなんとか逃げられるぞ」
「あの方達、タケオさんを見下していたみたいで、あまり好感は持てませんでしたわ。急いで逃げても良いと思います」
俺たちが逃げた場合、多分確実に卓郎は逃げきれない。最悪卓郎だけ置き去りにされそうな気がする。
今、エリザベスが助けに向かえば卓郎も助かるかもしれないが、エリザベスが討ち漏らしたゴブリンがここにも押し寄せてくるかもしれない。
その時は俺にメアリーアンを守ってくれとエリザベスは言っているのだろう。確かにできるだけ向こうで戦えばそれだけここは安全だ。とはいえエリザベスが全てのゴブリンを逃さず打ち倒すのは難しいのだろう。
今エリザベスに助けに向かってもらうとして、俺とメアリーアンも一緒に助けに向かうのか、逆に二人は逃げてエリザベスが戻ってくるのを待つのかが問題なわけだ。あるいは二人だけここで待ち続けるという選択肢もある。その時は討ち漏らしたゴブリンの相手は俺がしなくてはならない。
「…………」
あまり考えている時間はない。俺はインテリジェントソードをじっと見つめる。
「余裕だぜ。俺に任せろ。二人に怪我はさせねーよ」
俺の気持ちを察したのかインテリジェントソードの声が響いた。
「俺がここでメアリーアンを守るから、エリザベスは四人を助けに向かってくれ!」
俺は覚悟を決めてエリザベスに頼みこむ。
「了解! アン、少し待っててね。できるだけ早く片付けて戻ってくるから」
エリザベスはそう言うと助けにむかった。全速力で走って行ったのだろう、エリザベスの姿はあっという間に消えている。そして静寂が二人を包み俺はインテリジェントソードをしっかり両手で握る。
遠くから誰かが走ってくる足音が響きだし、それがどんどん近づいてくる。
見えた。やはり卓郎達四人がゴブリンに追われている。ゴブリンの数は十数匹、一緒に戦えばなんとかなるに違いない。
金髪ロン毛が俺を見つけて向かってくる。その後ろにスキンヘッドとトサカ頭、少し遅れて卓郎だ。
「ここで一緒に戦おう!」
俺が大きな声で叫ぶと四人は俺のそばまでやってきて…………通り抜けて走り去った。
まじか! あいつら俺に十数匹のゴブリンを押し付けて逃げやがった!
「バカやろー!」
俺はさっきより大きな声で叫んでいた。




