31 初めての依頼 5
森の中を進み、ダンジョン前に辿り着く。森の中でもエリザベスはリラックスしていたが、ダンジョンを前にしても緊張する様子はない。さすがSランク冒険者なんだと感心する。
「ここがダンジョンの入り口かー」
地面に開いた大穴に石の階段が覗いている。
「石の階段って、何かの遺跡っぽいんやね? ダンジョンってみんなこうなん?」
「こういう遺跡に魔物が棲みついてるものや、洞窟のようなのも多いぞ」
「ベス! 昨日見せたこの地図がこの遺跡の地図の可能性があると思うの。宝は地下二階のこれじゃないかしら」
「ああ、一階層が地図通りならこの地図を参考にできるな。入り口付近は頭に入っているから分からなかったら出してもらうよ」
あの迷路図が頭に入ってるなんて、なんて賢いんだろうかと感心する。
俺たちはエリザベスを先頭に階段を降り始める。長い長い階段が終わると大きな部屋にでた。
「ここが第一階層なんやね」
俺は初めてのダンジョン内部を興味深く見回す。高い天井も側壁も奇麗に平に加工された石作りで、うっすらと光っているような感じだ。紛れもない人工的構造物、しかも今の技術より高い加工技術による物だ。
「この壁を作っている石はどうやってこんなに奇麗な平にしたんやろう?」
「そうねー、確かにそうだわ。タケオって変なことに気づくのね」
「タケオさんって面白いでしょう」
メアリーがなぜ自慢顔なのかは不明である。
「きたわね!」
エリザベスが両手で剣を抜き前方に走りだす。短めの剣で二刀流に構え、ゴブリンの群れに突っ込むと、すり抜けざまに斬り殺していく。
「ギャギャー!」
「グギャーー!」
ゴブリンの悲鳴が聞こえたかと思ったらすぐに静かになった。
注意しながら進んでいくと、エリザベスが魔石を手に待っている。
「はい。ゴブリンの魔石。インテリジェントソードに食べさせて」
「あ、うん」
俺は渡された魔石五つをインテリジェントソードに食べさせた。
「へー! これがインテリジェントソードなの? まだまだ力が戻ってなさそうね。もっともっと強くしなきゃね!」
「わかってるじゃねーか! 姉ちゃん」
インテリジェントソードの声が頭に響いた。
「インテリジェントソードって、本当に喋れるのね。よろしく」
エリザベスがインテリジェントソードに挨拶をして微笑んだ。インテリジェントソードは喋りたい人を選んで、一人とも複数人とも同時に話しかけることができるらしい。今は三人に話しかけている。
「こっちこそよろしくたのまあ! 魔石を食わせてくれてありがとうよ!」
「エリザベスさん強いね!」
Sランク冒険者がゴブリンを瞬殺しても当たり前かも知れないが、俺にとっては驚きの強さだ。
「やだー! ベスって呼んでよ。タケオ」
そんな今日会ったばかりでベスと呼べとは、距離の詰め方が半端ねー。
「ベス……さん」
「ベス!」
「ベ……ス」
「もう一回!」
「ベス……」
「これからは、そう呼ぶのよ! タケオ」
エリザベスはにっこり笑った。
堀田岳男三十歳、女性にこんなこと言われたのは初めてである。……まさか、……いや、勘違いしてはいかん。ただ単に、そう呼ばれたいだけに違いない。
「先に進むよー」
エリザベスが先頭を歩きだす。
「タケオさん行きますよ」
メアリーアンに言われて俺も歩き始める。
まだまだ宝のありかは先のはずだ。
「出たな!」
エリザベスの声がして、あっという間に走り出し、瞬殺して、またしてもゴブリンの魔石を持ってくる。
「あーー! 不味い。でもありがとうよ。ベス」
インテリジェントソードが嬉しそうだ。
先に進みながら、こんなのことを繰り返しインテリジェントソードが魔石を食べ続ける。だいぶ強くなったのかオッチャンにもインテリジェントソードが少し輝きを増したのが分かる。気のせいか?
「この階層は、昨日見せてもらった地図とは違うようだね。残念だけど下に行ける場所はしらみ潰しに探すしかないね」
「そうなのですか? じゃあプリンちゃんに教えてもらいましょう」
メアリーアンが抱いていたプリンちゃんをおろしてお願いする。
「プリンちゃん、お願いお宝まで案内してね」
「ワン!」
プリンちゃんが尻尾をグルングルンに振って答える。
プリンちゃんを先頭にすぐ後ろをエリザベスが、その後ろにメアリーアン、最後尾に俺がついて再び歩き始める。
プリンちゃんが鼻をクンクンさせながら地面の匂いを嗅ぎ少しずつ進んでいく。
今までより進むスピードは遅くなったが、間違った道をいくよりは早いはずなのだ。
「また来たか!」
エリザベスが脱兎の如く駆け出す。きっとゴブリンを感知したのだろう。俺にはなんにも分からないのだがすぐに戻ってきたエリザベスの手には魔石が五つ握られていた。
差し出された魔石をインテリジェントソードに食べさせる。インテリジェントソードと一体感が強まったように感じた。上手く言えないが、インテリジェントソードが俺の体を操縦しているような感覚だ。
「これでお前の屁っ放り腰ともおさらばだぜ」
「どういうことやねん?」
「俺がある程度お前の体を動かせるってことさ、もう剣を落とされる心配もねー」
おいおい、なんだか怖いことになったような気もするが、悪用はしないよな。
「安心しな。戦う時だけお前の体の身のこなしを誘導するだけだ」
俺は少し安心した。




