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30初めての依頼 4

 今日は日曜日、待ち合わせはやめてメアリーアンが泊まっているホテルに迎えに来ている。トルネコでも指折りの高級なホテルだ。


 昨日買い物の後でホテルまで送って行き、待ち合わせ場所にすることに決めた。そのロビーでメアリーアンが出てくるのを待っているとメアリーアンとエリザベスと思われる美人が階段を降りてくるのが目にはいる。


 金髪のショートヘアは戦う時の邪魔にならないようにしているのだろうか。動き易そうな革鎧と腰の後ろに二本の片手剣、きっと近接戦闘のスペシャリストに違いない。


 それにしてもSランク冒険者というから筋肉もりもりなのかと想像していたが、決してそんなこともなく、普通の服装ならば冒険者だとは誰も思わないだろう。メアリーアンの言う通り、スタイル抜群のすごい美人である。


 メアリーアンの言葉が頭に蘇る。俺は彼女の好きなタイプ……まさかな。俺がモテるはずはない。


「オッス! あんたがタケオさん、妹がお世話になってます。今日はよろしくね!」


 見た目によらず大雑把な性格の女性のような気がする。


「初めまして。堀田岳男、三十歳、彼女いない歴三十年です。よろしくお願いします」


 緊張気味にあらたまった挨拶をする。



「あはははは!」


 俺の挨拶にエリザベスが腹を抱えて大笑いを始めた。メアリーアンが口を隠してクスクス笑っている。俺は呆気に取られてフリーズした。


 お腹を抱えながら涙を拭き、少し笑いがおさまってからエリザベスが言った。


「ごめん、ごめん、私はエリザベス、今日はちゃんと二人を守るから安心してね!」


「あ、ああ……」


「それじゃあタケオさん、森の方に出かけましょうか」


 メアリーアンの胸にはクリクリ眼のプリンちゃんが抱かれている。


「馬車を使おうぜ! その方が早いからな」


「そうですね」


「なに緊張してるんですか? タケオさん」


「いや、エリザベスさんがあんまり美人なもんやから……」


「あはははは!」


 またエリザベスが笑い出し、俺は顔を赤らめる。


「エリザベスさんって、本当にSランク冒険者なん?」


 笑い転げる姿は、とてもSランクの実力者には見えない。


「まあね。親父にしごかれたからな」


 本当だったらしい。


 メアリーアンがポーターに馬車の手配を頼み、呼ばれた馬車にのりこむ。


「タケオさんってアンとどうやって知り合ったの?」


「知り合ったって言うか……」


「それはプリンちゃんが私に教えてくれたから、私から声をかけたのよ」


 俺の言葉を遮ってメアリーアンが説明した。オッチャン上手く説明できんかったので助かったで。


「プリンちゃんの指名かー、それはすごいな。タケオさんってもしかしたら逸材かもな」


「ええ、タケオさんはきっとすごい人に違いないですよ。穴を掘るのがとっても上手なんです」


 褒めるのそこかよ、穴は十五年も掘ってるからやなぁ。


「あはははは! そうかそれはすごいかもしれねーな」


 エリザベスが腹を抱えてまた笑いだす。


「それにゴブリンだってたくさん倒してるんですよ」


「イヤイヤ、あれはインテリジェントソードが勝手に倒してくれたんや」


 俺は慌ててメアリーアンの言葉を否定するが、エリザベスが笑うのをやめて真顔になる。


「インテリジェントソードがね。今日はインテリジェントソードを育てながら進もうか」


「インテリジェントソードを育てるってこと……」


「私が倒した魔物の魔石をインテリジェントソードに食わせながら進むってことさ」


 インテリジェントソードは魔石を食べると強くなるらしい。実際俺が剣を握っているだけでインテリジェントソードは魔物を倒せるようになってきている。握っていれば勝手に動けるのだ。


「俺、戦わんでも良いんよね?」


 情けなさそうに懇願の視線を向ける。


「あはははは! 大丈夫、大丈夫。浅層の魔物くらい、私一人で余裕で倒せるから」


「大丈夫ですよ。タケオさん。戦闘はベスに任せておけば安心です」


「もしかして、俺、することないのでは?」


「掘ってもらうこともありますので、タケオさんはいないと困るんですよ」


 メアリーアンが小首を傾げて可愛い微笑みを向ける。


「そうなんか? ダンジョンの中でも掘る必要があったりするのか?」


「あるぜ! 壁を掘ると希少な金属とか出てくることがある」


 エリザベスが真顔で答える。


「タケオさんの出番は、プリンちゃんが教えてくれますよ」


「ワン!」


 プリンちゃんが尻尾を振ってつぶらな瞳をオッチャンに向ける。可愛いねえ。


馬車が丘を越え、森の近くで止まった。


「さあ、行くぞ!」


 エリザベスが気合の入った声で二人に視線を向ける。


 三人は馬車を降りて森に入り、ダンジョンの方に進んで行った。

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