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第3話 初めての一夜

「えいさ! えいさ! どっこらしょ!」

 俺の掛け声だけが虚しく夜空に響く。


 俺は堀田岳男、クマタニ組勤務30歳、妻なし、財産なし、恋愛経験なし。15歳からクマタニ組でトンネルを掘り続け、穴を掘ること15年、掘ること以外は何もできない穴掘り男だ。


 そんな俺がどういうわけか、メアリーアンなる超絶美少女とトレジャーハンターをすることになった。


 そして今はトルネコの郊外、ニーロル森の近くの草原で、ただひたすらシャベルで穴を掘っている。


 こんな夜遅くまで穴を掘っているとは……トホホ。

 さっきはマジックバッグを見せられた衝撃で、つい本当にお宝が埋まっていると信じてしまったが、今はまったく信じられなくなっている。


 本当にここを掘ればスンゴイお宝が出てくるのでしょうか? もうかれこれ夜の12時を回ったような気がするのですが?


「もー無理! 今日はここまでにしてまた明日にしよう」

 俺はメアリーアンちゃんに作業の中断を申し出た。


「仕方がありませんね。それじゃあここにテントを張って野営をすることにしましょうか」


「テント? そんなもんどこにあるん……」


 ……と言ってる間にメアリーアンはマジックバッグの中から簡易テントを取り出していた。


 俺はメアリーアンが腰に下げているマジックバッグをまじまじと見つめる。取り出し口より大きな物がどうして出し入れできるのか意味不明の道具だ。


 なんでも入ってるんですね! マジックバッグ。……冷や汗。


 考え込んでいる俺にメアリーアンが声をかける。

「設置はお願いできますか? タケオさん」


 その声に促されて、俺は考えるのをやめた。どうせ考えても分かるはずもない。しかし便利な道具やで。


「あ~、はいはい。分かったで。肉体労働はオッチャンの役割なのね」

 俺はいそいそと簡易テントを組み立て始める。


 おいおいこのテントの中で俺とメアリーアンが二人っきりで一夜を明かすのか?


 俺の煩悩がムクリと目を覚まし、天使と悪魔が脳内で睨みあう。


 良いのかね? と言うより大丈夫か? 俺の理性。大丈夫、大丈夫、いくら美少女と言えども相手は子供、オッチャンその辺のケジメはしっかりついてるはず。ロリコンちゃうしー。……後2~3年したら大人認定かわからんけどな。


 俺はせっせと作業に没頭して無の境地に入ろうとした。テントは程なく完成する。


「テント組み立たったで~」


「あ、じゃあタケオさんのぶんも」

 メアリーアンがもう一つ簡易テントを取り出した。


 目が点になる。


「もう一つあったのね、これオッチャンのぶん?」

 俺はすでに建てたテントを指差して聞いた。


「私のです、一つってわけにはいきませんものね、タケオさんのぶん、出すの忘れてました。テヘ!」


 俺はもう1セットのテントを見つめて絶句する。


 ですよね~、一つってわけにはいかないよね~、もう一つ張るのか……なんか疲れた。

 俺は気を取り直して、そそくさともう一つ簡易テントを設置した。


「ほんじゃあ、おやすみ~」

 疲れていたのでさっさとテントに潜る。

 本当に疲れていたのか俺はすぐに眠りについた。




 朝やで~!

 テントの布越しに当たる太陽の明るさで目を覚ます俺。

 目を擦りながらあたりに視線を向けると何やら外で動く影がある。

 メアリーアンちゃんはもう起きているのかな?


 俺は大きな伸びをして簡易テントから外に出た。


「おはよう御座います」


 外には昨夜までなかった椅子とテーブルが置いてある。マジックバッグから出したのだろう。


 テーブルの上には朝食の準備がされていた。

 食パンに紅茶、皿の上にはちぎったレタスと焼いたソーセージが二本と目玉焼き一つ。


 向こうに簡易コンロがあるからあれで作ったのだろう。アウトドアでこの朝食はありがたい。オッチャンいつもは朝食抜きだからね。


 俺はメアリーアンを見て声をかけた。

「これ、君が作ったの? たいしたもんだね!」


 メアリーアンちゃんは照れ笑いをしながら頷いた。

「たいしたものはないですよ」


「いやいや、朝からこれだけ食べられたら十分満足だね、君良い嫁さんになるよ」

 お決まりの褒め言葉。

 オッチャン洒落た褒め言葉は思いつきません。


 メアリーアンちゃんが頬を赤らめた。

 可愛いじゃないかこの野郎!


「それじゃあ早速いただきまーす」

 俺はレタスにドレッシングをかけてフォークで突き刺す。

 ソーセージも塩胡椒で味が付けられていて美味しい。

 食パンも軽く火が通っていて柔らかく、染み込んだバターの風味が口の中に広がる。

 紅茶を一口。砂糖はお好みでだがおれはノーシュガーだ。

 紅茶は飲む前に香りを楽しむ。

 良い匂いだ。これだけ香りが出ているところを見ると、紅茶を煮出す温度も高温100°でしっかり煮出しているに違いない。

 細かい所まで手を抜かずにしっかりやっているところはポイントが高い。


「美味しくいただきました」


「どういたしまして」


 朝から紅茶の良い香りでリラックスできた。ありがたい。


 プリンちゃんが俺の足元で尻尾をフリフリしている。

 俺を見つめるつぶらな瞳が可愛い。

 ソーセージが欲しいの? もうないからあげないよ。


 俺は簡易テントを片付けて穴掘り作業を開始した。


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