27初めての依頼 1
オッチャンの前には例の森が見えている。隣にメアリーアンとプリンちゃん。護衛役の冒険者は明日から合流することになったらしい……て、今日はオッチャンが戦うことになるんかい! 頼むで、ゴブリン出ないでちょ!
「ねえ、ダンジョン見つけても、今日は中に入るのよそうね。冒険者さんいないと危ないし」
「そんな簡単にダンジョンなんて見つかりませんよ。それにダンジョンがあるって決まったわけじゃないし、あってもお宝がそこにあるとは限らないでしょう」
メアリーアンの言うことは確かに正論やが、わしは知っとるんや、この森にダンジョンがあることを。そしてそこに入っておる冒険者がおることも。
お宝がダンジョンと違う場所にあってくれることを祈りながらプリンちゃんの後についていく。
あったで、ダンジョン。
簡単にダンジョンの入り口前に来てもうた。プリンちゃん優秀すぎ!
「ありましたね、ダンジョン。こんなにすぐダンジョンが見つかるとは思いませんでしたが、本当プリンちゃんて優秀だわ」
ダンジョンの入り口を前に悠長なことを言うメアリーアンが洞窟の中に入ろうとするのを引き止める。
「ちょっと待って! ダンジョンの中は危ないやんか。護衛の冒険者と合流してからじゃないと……魔物出たらどうすんの?」
「そうですね。でもタケオさんって強いじゃないですかー。ゴブリンくらいなら余裕でしょう? ホブゴブリンだって倒せるんですもの」
なんかえらい勘違いされてる気がする。倒したのはインテリジェントソードでオッチャンと違うでー。
「最初のうちはきっとゴブリンしかでませんよ。それに出るとは限りませんし」
ゴブリン出たら戦うのオッチャンでしょ。オッチャン戦うの嫌いって言ったよね。命かかっちゃうから、それ、まじ無理やからー。
「今日は最初のフロア探索だけにしておきましょうか。この地図がこのダンジョンの地図だと確かめたくありません?」
「アンちゃーん! オッチャン本当戦うのは嫌なんよ! だからね! 明日にしようよ」
「えー! でもー、タケオさんの強いところ、私見たいなー。大丈夫ですよー、ほんの少し覗いてみるくらい」
メアリーアンったら、オッチャンをゴブリンと戦わせて、それを見たいんかーい。絶対無理やから!
「いくらゴブリンが弱いといえども、戦いは命懸け! もしオッチャンがこけたらアンちゃんも死ぬんやで!」
俺は必死に説得に努める。
「そうですよね。タケオさん、戦いは素人ですものね」
メアリーアンが少し俯いて表情を曇らせる。
「そうやで。わし、剣を振ったことも、いや、握ったこともなかったんや。だからオッチャンに無理はさせんといてーな」
「でもタケオさん、剣術素人なのにゴブリン倒して凄いですよね! それも五匹相手にしてでしょ。普通無理ですよ」
「そ、そうかな。でも相手はゴブリンやし」
褒められて嬉しくなって赤面する。オッチャン褒められたことなんて覚えてないほど久しぶりです。
「そうですよ。凄い才能です。天性の剣士って感じですよね!」
言いすぎやで。そこまで言うと嘘っぽい。それに勝てたのはインテリジェントソードのおかげです。
「いや、全然。屁っ放り腰やし、剣士感ゼロや。しかもインテリジェントソードなかったら三度は死んどる」
「えー、そうですか? インテリジェントソードって話すだけじゃないですかー?」
メアリーアンはインテリジェントソードの凄さを分かっていない。まさか剣が勝手に動いて敵を倒しているとは想像できないだろう。剣を握っていた俺だけが、そこのところを知っているのだ。
「話すだけじゃ、ちゃうでー。実は剣が勝手に戦ってくれとるんよ」
「え! 勝手に……」
メアリーアンが、剣が勝手に戦うってどういうこと? ……て言いたげに俺を見つめて固まる。
「この剣、持っとるだけでゴブリンに突き刺さってくれるねん。だからわし、剣を手放さないようにしっかり握っとるだけなんよ。いつも剣に引っ張られとる」
俺はなんとか説明を試みるが、これで理解してもらえたかは疑問である。
メアリーアンはよく分からないという表情のまま聞き返す。
「剣が勝手に飛ぶってことですか?」
「飛びはしない。持っていれば勝手に動くんやが、手を離すと落ちるんや。落ちればそのまま動かない。だから絶対手放さないように握りしめとるんや」
「剣を握ってれば、無敵ってことですか?」
「そんなこと……ないと思う……で」
「ふーん。だいたい分かったような気がします」
「じゃあ、今日はダンジョンの中には入らんで良いんやな?」
「分かりました。多分ダンジョンに入っても、タケオさんが戦ってくれれば大丈夫だと思いますけど、タケオさんの実力なら大丈夫だと思いますけど、きっときっと大丈夫なはずですけどーー」
オッチャンはとても情けなそうな顔でメアリーアンを見つめる。
「タケオさんが戦いたくないって言うなら仕方ないです。今日は入るのを諦めます」
メアリーアンが残念そうに許してくれた。




