26 文化局局長 4
「了解した。この依頼君達に任せたよ」
スカーレット局長が(単純な奴だな)とくすりと笑う。
「これが依頼書だ。固定報酬の十万ゴールドは一階の会計窓口で受け取ってくれ。報告は、隣の事務窓口にな。幸運を祈る」
「ありがとうございます」
メアリーアンがにっこり笑って依頼書を受け取る。
「それではこれで失礼します」
メアリーアンに引っ張られて俺も局長室を後にした。もうちょっとあの胸を眺めていたかったな。
なぜかぷりぷりしながら俺の手を引き一階の会計窓口に移動するメアリーアン。オッチャンの考えをぶっ潰して思い通りに依頼を受けたんやから良かったんやないの? 女の子ってよう分からんな。
「はい。五万ゴールドです。今日はお仕事なのに休ませてしまってすみませんでした」
神妙な顔つきで謝るメアリーアンから五万ゴールドを受け取った。
「それから二億ゴールドはまだ換金に時間がかかりますので手に入り次第お渡ししますね」
そうやった。一億ゴールド貰えるんやった。すっかり忘れておったで~。
「い、一億ゴールドって、かさ張るんちゃう?」
「そうですね。銀行に口座を開いて預いた方が良いかもしれません。今、口座があればそこに入れますよ。なかったらお支払いする時に一緒に作りに行きましょう」
銀行といえば金持ちが金庫を借りて大切な物や金を入れて置くところだ。銀行に口座なんて、その日暮らしのオッチャン達庶民には縁のないものである。なにせ預けるだけで料金を取られるのだ。
だが一億ゴールドともなると部屋に置いて出かけるのは危険すぎる。ここは銀行に預ける方が良いだろう。
「口座はないからその時は頼むで」
「分かりました。それからタケオさん。どうせならこれを機に、トレジャーハンターを本職にしてみませんか? 国家トレジャーハンターの資格も手に入れたことですし」
「でもなー、そうかー、そうやなー」
一億もあるんやからしばらく働かんでも食っては行けそうやがーーオッチャン小心者やから、一生生きていけるだけのお金を持っているわけじゃないと、仕事を辞める決心はつかん。それにまだ手にしてないお金は、夢と消えるような気もしているーーちゅうか、まだ現実味がない。
「ちょっと考えさせてくれへんか」
オッチャンは柄にもなく重苦しい表情で答える。
「分かりました。でもタケオさん、文化局から依頼が出されるってことは相当な額のお宝が眠っている可能性があるってことですよ。数百億とか数千億とかの。
トレジャーハントは早い者勝ちですから今だけでも毎日探した方が良いと思いますよ。だいたいこの辺りで宝が眠ってそうなところは、森の方だけしか残っていないってことは分かっていますし、きっと何処かにダンジョンがあって、この前見つけたのがその地図に違いないでしょう。お願いできませんか?」
メアリーアンが真剣な眼差しで俺に頼み込んでくる。
数百億、数千億? 本当かいなあー!
オッチャン話だけで手が震えとるで……。
その時俺はふと思い出した。そう、ダンジョンに潜っとる奴らがおることを。
『トレジャーハントは早い者勝ち』という言葉が脳裏に響く。
ここはメアリーアンの言う通り、仕事を休んでトレジャーハントをした方が良い。先に数千億のお宝を見つけられてしまったら取り返しがつかん。
「そ、そうやな。わし、仕事休んでみるわ。……でも明日だけは職場に連絡も兼ねて仕事に行こうと思うんやが」
こういうところが俺の律儀なところというか、アホなところである。一日遅れてしまうことがどれほどのリスクか分かっていないのだ。
一日くらいじゃ変わらんやろうと考えているあたりが脇が甘いということや。まあ良いやろう。そういう悠長なところもわしの良いところなんやから。
「では明後日に例の森の方を捜索してみましょう。それから魔物が出てきた時に戦ってもらう冒険者を雇いましょう。こういう時いつも頼んでる人がいるので手配しておきますね」
メアリーアンがにこりと笑う。プリンちゃんが尻尾を振ってオッチャンを見つめる。つぶらな瞳がたまらんなあ。
翌日クマタニ組に出社して現場頭にこっ酷く叱られる。
無断で休んだのやから仕方ないが、その後長期の休みが欲しいいと申し出ると、休みが続くとクビにすると脅された。
クビにはなりたくないんやが、一億あれば暫くは金には困らんしまずは固定報酬の五万ゴールドで一月は食っていける。というよりいつもメアリーアンが食べ物を用意してくれるので探索時には金がかからんかもしれん。
一週間くらい休んでもきっとクビにはならんやろうと勝手に決め込んだが、なんの根拠もない。病気や怪我で一週間くらい休む奴はたまにいるやろう……と思うのやが、俺みたいな人間はいくらでも代えがきくのが少し心配や。
とりあえず暫く休むと宣言して退社した。頭が茹蛸のような顔をしてなんか喚いておったが言うだけ言って逃げさしてもろうたで。
こりゃあ、クビになるかもしれん。まあ良いか。
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