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25 文化局局長 3

 スカーレット局長は、いまだに窓から外を眺め続けていた。くびれた腰の下には生意気なヒップ、そこからは長くスラリとした脚が伸びている。タックル決めてやりたいで。


「話し合いは済んだでー」


 俺の言葉に振り返るスカーレット局長。窓から差し込む光の陰影で彼女の姿は後光がさしているような神秘性を帯びて見える。


「意見はまとまったのかね?」


 席に戻りながらスカーレットは、局長然とした偉そうな話し方で俺たちの返答を求める。


 テーブルの前に直立した俺とメアリーアンは、顔を見合わせて頷いた。


「依頼の件なんだけど、よく考えたら危険を伴いそうなんや! だから断ろうと思うねん。危ないことはしたくないから……」


 俺は、ハッキリと断った。


「そうか、残念だな。確かに最近ゴブリンの発見報告が相次いでいるしな」


「そうなんや! わしも昨日襲われたで! 夜撃退したら、また朝仕返しに来おったで」


「そうなんですか? タケオさん!」


 驚き顔色を変えてメアリーアンが聞き返した。


「そうなんよ。死ぬかと思ったで」


「二度もゴブリンを撃退したのか。見かけによらず強いんだな」


「いや。剣も武道も素人やで」


 オッチャン、照れ笑いしながら否定する。弱いのは自分でも分かっているくせに、強いと思われるのは気持ち良い。


「自己流で、二度もゴブリンを撃退するなんてすごい才能だよ! 相手は一匹ではなさそうだし、いったい何匹を相手にしたんだね?」


 スカーレットが妖艶な視線をオッチャンに投げかける。あれあれ、オッチャンもてとるわけやないやんねー?


「夜はゴブリン五匹? 朝はホブゴブリン一匹とゴブリン五匹やったかな」


 照れ笑いしながら頭を掻く。顔、赤くなっとらんやろな。


「ホブゴブリンですか? ホブゴブリンも倒したの!」


 メアリーアンが両手で口を覆いびっくり眼で俺を見つめる。自分の実力で倒したならドヤ顔する所だが、インテリジェントソードが倒してくれたのでちょっと恥ずかしい。


「すごいな! タケオ」


 いきなり名前呼びですか、局長! 距離の詰め方半端ねーな。とはいえオッチャンは嬉しいぜ! 美人にお近づきになれるのが嬉しくない男はおらんやろ。


「本当にホブゴブリンを倒したのか? それもゴブリン五匹が一緒でか?」


 スカーレットは嬉しそうに口の端を吊り上げて微笑む。


「まあ、そう……やなあ……」


「すごいですね、タケオさん。この前もゴブリンから守ってくれたし!」


「なんだと。ゴブリンと戦ったのは今回だけではないのか」


「最近、ゴブリンとはよく出会うんや。会わんように場所変えたのに」


「なら、やはり君達は依頼を受けるべきだよ。ホブゴブリンを倒せるならこの辺りではそれ以上強い魔物は出ないだろう」


「そうですよ! タケオさん。ホブゴブリンを倒せたんなら怖いものなしじゃないですか」


 スカーレットとメアリーが依頼を受けるように薦め出す。断ることで話はまとまったはずやで、メアリーアン。


「イヤイヤ、あれはまぐれやから! まぐれで勝っただけやから!」


「ホブゴブリンとゴブリン五匹を一人で追い払うなんてとてもまぐれではできないぞ」


「そうですよ。タケオさんすごいです」


「普通に考えれば、タケオは中級冒険者なみの実力はあると思うぞ」


「そ、そうですか?」


「これからの活躍が楽しみになるな! これで依頼を断る理由もないわけだ」


「え!」


「そうだろう。ホブゴブリンも倒せるんだ。この辺りなら安全じゃないか。よそならもっと危ない魔物に襲われるかもしれないんだぞ」


 いつの間にか依頼を受けることになりそうな状況に俺は危機感を覚えた。上手く言いくるめられたらやばい。


 スカーレットがオッチャンを論破しようとする。論理的に責められたら、オッチャン勝てる気がしません。


「ま、まあ……そうかもやな……」


「君は危ないのが嫌だと言ったが、この辺りは安全な地域だぞ。ゴブリンが出るといっても出現頻度はそう高くはない。他の地域はもっと危ない魔物が闊歩しているぞ」


「そうですよ、タケオさん。オークとかコボルトとか、よそじゃ結構見かけるみたいですよ!」


「そ、そうなんか……」


 メアリーアンとスカーレットのタック攻撃にタジタジになる俺。なにせ頭脳労働はメアリーアンに任せている俺である。穴を掘ること以外はからっきしなのだから、口ではかないそうがない。


 実際オークと戦うよりは、ゴブリンの方がなんぼかましや。だがたとえゴブリンが相手でも戦いというのは命の危険があるのでやりたくはない。


「宝探しって危ないんやね……」


 情けない顔でメアリーアンを見る。


「そんなに危なくないですよ。あまり魔物なんかと会わないものですもの。私ゴブリンと遭遇したのなんてタケオさんといたときだけですよ」


「タケオってそんな情けないやつだったのか。強い男は好きなのだがなあ!」


 スカーレットの蔑むような眼差しに何かカチンとくるものがあった。


「分かったで! やってやんよ、その依頼。ゴブリンくらいなんてことないんやで!」


 俺は大見得を切ってしまってからスカーレットの策略にはまったのではないかと後悔した。


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